第15話

015

間も無く警察の身元調査によって、路上で見つかったバラバラ死体は、S高校に通う吉田彩花のものであると判明した。

また一ノ瀬玲央と吉田彩花の殺害事件には関連性があること、警察は2人を殺した犯人が同一人物の可能性があるとして捜査を進めていることが大々的に報じられた。

2人の死を受けてS高校は1週間の休校となった。

そして週明け、全校集会が行われ、校長や教師一同によって弔辞が読み上げられた。

学校の校庭や事件現場には花束が添えられ、表向き優等生だった2人の死をたくさんの人間が惜しみ悲しんだ。



学校が再開された日の放課後。

黒瀬春人と雨宮謙信、白石沙耶の3人はファミレスに集まり、暗い表情でテーブルを囲んでいた。

2人の友人の死を悲しんでいるというよりは、3人が心配しているのは自分たちの命だった。

特に雨宮謙信と白石沙耶の2人は、一ノ瀬と吉田を殺した犯人が次は自分たちを狙うのではないかと恐れていた。

「な、なぁ…春人。やっぱり警察に相談した方がいいんじゃないか?」

雨宮が黒瀬にそう提案する。

警察に事情を話し、保護を求めるのが1番安全だと雨宮は考えていた。

「だめだ」

対して黒瀬は強気だった。

警察に保護を求めるべきだという雨宮の意見を即座に拒否する。

「なんでだよ…?そのほうが安全だぜ…警察に全部話せば、きっと俺たちを守ってくれるはずだ」

「そんなことをしたら俺たちが月岡志乃にしていたことが全部バレることになるんだぞ?」

「それは…」

「警察になんていうつもりだ?犯人が次に狙うのは俺たちだから守って欲しいって言いに行くのか?なんの証拠もなく?相手にされるわけないだろ」

「き、昨日のチャットを見せれば…警察も信じてくれるはず…」

「おい、お前は馬鹿なのか?そんなことをしたら、俺たちが月岡にしたことが全部バレるだけだろ」

「…」

雨宮は口を閉ざしてしまう。

もしかりに自分たちが次襲われる証拠として自分たちのチャットグループの履歴を提出すれば、これまで月岡にしたことがバレてしまう。

黒瀬たちは、月岡の裸の写真や、月岡に尿を飲ませている動画、暴力を振るっている動画などを撮影し、グループの中でやりとりをしていた。

もし警察に履歴を開示すれば、それらが明るみになり、3人の人生は台無しになってしまう。

「な、なんとか上手いことやれないかな…ほら、月岡をいじめてた証拠だけを消すのはどうだ?そうすれば警察にばれないんじゃ…」

「ばれないわけないだろ。こういうのはこっちで消しても通信会社にデータが残ってるもんなんだよ。それを調べられたらおしまいだ。月岡を自殺に追い込んだのは俺たちってことになり、俺らは退学。人生が詰む。そうなってもいいのか?」

「…」

「警察は頼れない。俺ら3人でなんとかするしかないんだよ。わかるだろ?」

「あぁ…そうだな…」

黒瀬のいうことに雨宮は頷く。

白石はその間、ずっと黙っているだけだった。

白石は、昨日のショックからまだ立ち直れていなかった。

親しくしていた友人が死んでいく映像が脳裏にこびりついて離れない。

首筋に刃物が沈み込んでいき、鮮血があたりに飛び散る。

くぐもった悲鳴、痙攣する体、床に広がる血の海。

「あぅ……」

白石は顔を伏せて泣いてしまう。

「嫌だよぉ…あんなふうに死にたくない…」

恐怖が全身を支配し、子供のように泣くことしかできなくなってしまう。

白石の背中を黒瀬がさすった。

「安心しろ。犯人は必ず俺が始末してやる。警察に頼らずともそれぐらいやってみせる。俺は死なない。俺たちは死なない」

「春人ぉ…」

白石が黒瀬に抱きつく。

「そ、そうだよな…」

雨宮は黒瀬に同調し、黒瀬についていけば大丈夫だと自分に言い聞かせるが、それでも死への恐怖は拭い去ることができなかった。



「可哀想になぁ…」

S高校の柏木教諭は、授業が終わった放課後に、吉田彩花が殺されたという事件現場を訪れていた。

バラバラの死体が撒かれていたという路上には、たくさんの花が添えられて、多くの人がまだ若い女子高生の死を悼んでいた。

柏木は、月岡志乃、吉田彩花、そして一ノ瀬玲央の担任だった。

短い間に自分のクラスから3人も死人が出てしまったという事実を、柏木はまだ受け止めきれていなかった。

「まだ人生これからだったろうに…」

鈍臭く、どこか人を苛立たせ、嗜虐心を煽る雰囲気を持っていた月岡志乃はともかく、一ノ瀬玲央と吉田彩花は柏木のお気に入りだった。

2人ともまごうことなき優等生で、将来有望の生徒だった。

にも関わらず、2人とも残虐な殺人鬼によって狙われ命を奪われてしまった。

将来が明るい2人の若者の死に、柏木は心を痛めていた。

「すまんなぁ吉田。これぐらいしかできなくて」

柏木は死んだ一ノ瀬と吉田のことを偲び、路上に並べられた花の中に、自分で持ってきた花をそっと添えた。

「…?」

ひゅうううと風が吹き、生ぬるい感触が柏木の肌を撫でた。

どこからか漂ってきた腐敗臭に、柏木は顔を顰める。

グシャ…グシャ…

風上の方を見ると、誰かが花の上を歩いていた。

吉田のために添えられた花の上を、踏みつけるようにして無遠慮に歩いている。

「おい、ちょっと君」

柏木は、思わず声をかけた。

「花を踏まないでもらいたいね。ここで最近人が死んだんだ」

グシャ…グシャ…

声をかけても、その女性は振り向かない。

よく見ると、女性が来ているのはS高校の制服だった。

あまりにも汚れて、黒ずんでいるのですぐに気づくことができなかったのだ。

吉田に対して手向けられた花を、同じ学校の生徒が踏んでいることに怒りを感じた柏木は、花を踏んでいる女子生徒に近づいていく。

「うっ…」

また風が吹いた。

耐え難い腐敗臭に、柏木は顔を顰める。

「き、君…何をしているんだ…やめないか…」

グシャ…グシャ…

女子生徒はまるで死人に手向けられた花が気に入らないかのように花を踏み躙っている。

(この匂いはなんだ…)

気絶してしまいそうなほどの匂いに柏木は思わず、口元を手で覆いながら、とうとう女子生徒にたどり着いた。

その肩を叩き、背中越しに声をかける。

「花を踏むんじゃない。これは死んだ私の知り合いに手向けられた花なんだ」

「…」

花を踏む女子生徒の動きが止まった。

長く、ボサボサの髪が風に吹かれ、ゆらゆらと揺れる。

柏木は改めてその女子生徒の全身を観察した。

女子生徒の制服には、黒く大きなシミのようなものができていて、足は裸足だった。

全身は泥のようなものが付着して汚れており、耐え難い臭いを放っている。

とても常人の格好には見えなかった。

「おい君…なんの格好だそれは。S高校の生徒だろう?なぜ花を踏むんだ?一体なんのつもりだ?」

女子生徒はそれでも無言だった。

柏木は死人を冒涜するようなことをしている女子高生を叱ってやろうと、前に回ろうとした。

その途端、くるりと女子高生が振り向いた。

「…ぁ」

その女子高生の顔が目に入り、柏木は声にならない声をあげて仰け反った。

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