任務は終わっていません!――蘇生受付嬢エリスのドSヒーリング

蛇草苹果

第1話 ドS受付嬢エリス

プロローグ


冒険者ギルド「白銀の翼」には、奇妙な噂がある。

――受付嬢エリスに担当されると、どんなクエストも失敗できなくなる。

それは彼女が「蘇生術」を異常なまでに使いこなすからだ。


第一章:死んでも逃げられませんよ?


「はぁ……もう無理、帰ろうぜ」

血だらけで座り込む戦士ゲイル。

仲間の魔法使いは気絶、弓使いは毒で動けない。

目の前には、咆哮をあげて迫るオークロード。


――その絶望を、甘美に塗り替える声が響いた。


「……はい、だめです♪」


軽やかで小気味よい声音。

振り返れば、ギルド制服のまま、きっちりスカートを揺らして立つ受付嬢エリス。

涼しげな笑顔と、冷酷に輝く瞳。


「ギルドの規約により、依頼は最後まで遂行。撤退は許可されません」

「お、おい待て! なんで受付嬢が戦場に!?」

「わたし、こう見えても正規のヒーラー資格持ちなんですよ? ……ほら――」


指先がひらりと舞い、白銀の光が散る。

《強制蘇生(リバイブ・コンプライアンス)》


その瞬間、仲間の体は痙攣し、無理やり魂を引き戻される。

喉を引き裂かれるような息遣いで弓使いが目を開いた。


「や、やめてくださいエリスさん! もう戦いたくない……!」

「うふふ、可愛い。泣き顔も震え声も、すごく似合ってますね。……でも安心してください?」

エリスは耳元まで口を寄せ、囁くように。

「死んでも蘇らせてあげますから♪ 勝つまで、ずーっと」


彼女の治癒魔法は優しい。だが、その優しさは――逃げ場を封じる枷。


「ほら、立ってください。剣を握る手が震えてても構いません。負けても、またわたしが無理やり立たせてあげますから……ね?」


倒れては蘇り、苦しんでは癒やされる。

その地獄の繰り返しが、エリスにとっては最高の愉悦。


制服の袖口をくいっと直し、彼女は上機嫌に宣告した。


「――命の契約、逃げられませんよ?」


第二章:ドSヒーラーの本領


オークロードの棍棒が、戦士ゲイルを直撃した。

骨が砕ける鈍い音、血飛沫が宙を舞う。

普通なら――即死。


だが。


「はい、立って!」


甘やかすような声とともに、光が彼を包む。

砕けた骨は繋がり、裂けた皮膚は閉じる。

ゲイルは震える体で、再び息を吹き返した。


「お、俺……今、確かに死んだ……!」

「ええ、死にましたよ? でも戦力はまだ残ってます♪ ほら、さっさと前へ」


エリスは笑顔のまま、血に濡れた剣をゲイルの手に押し込む。

拒否の言葉を口にする暇もなく、彼は再び戦場へと追い立てられた。


――魔法使いも同じだった。


頭蓋を砕かれ、泥に沈んだはずの彼の体も、白光に引きずり上げられる。

「ひぃぃ! も、もう勘弁してくれえええ!」

「ダメですよ~。依頼完了まで、みんな働いてもらいますから♪」


慈愛に満ちた声音。

だがその裏に隠されたのは、「終わらせない」という残酷な決意。


肉体は何度砕けても癒やされる。

だが心は、折れれば折れるほどに美しく軋む。

その響きを、エリスは愛おしげに聞き入る。


「ねぇ、見てください。震えながら剣を振るうあなたたち……すごく綺麗ですよ」

彼女の笑顔は、敵よりも味方を凍り付かせる。


「血も、涙も、汗も、全部わたしが回収してあげます。だから逃げなくていいんです。死んでも、立たせてあげますから」


再び剣を握る冒険者たち。

その背を、制服の袖口を整えたエリスが楽しげに見送る。


「――ほら。折れるたびに立ち上がるあなたたちの姿、もっとわたしに見せてくださいね?」


それが、ドSヒーラーの本領。

彼女にとって戦場は治療所ではなく――嗜虐の舞台だった。


第三章:絶対クリアの受付嬢


数時間後。

仲間たちの喉は悲鳴で枯れ、涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃ。

それでも、剣は振らされ、魔法は撃たされ、矢は放たされた。

そして――。


ついに、オークロードは地に伏した。

巨体がどさりと倒れ、血の海を作る。


「……お、終わった、のか……?」

ゲイルが膝を折り、震える声で呟く。

仲間たちも、残った体力を振り絞り、安堵の吐息を漏らした。


その瞬間――。


「はい、だめです♪」


甲高い声が響き、死骸を光が包む。

眩い蘇生の輝きが、敵へと注ぎ込まれる。

――立ち上がる、オークロード。


「な、何してんだエリス!?」

「倒して終わりとは言っていません。依頼は“オークロードからダンジョンを取り戻すこと”ですから♪」


彼女の笑みは変わらない。

それは慈愛ではなく、支配の笑み。


「ねぇ、知ってます? ゴキブリって、見つけたら叩き潰すんじゃなくて……周囲を叩いて追い回すのがいいらしいですよ」

エリスは白い指先でこめかみを軽く叩きながら、楽しげに語る。

「ここは危険だって“学習”して、仲間も連れて逃げていくんです」


再び立ち上がる冒険者たち。

もう心は砕けているのに、肉体は彼女の魔力で無理やり動かされる。

オークロードとの戦いは、また始まる。


「ほら、もっと暴れてください。絶望も後悔も、全部私に捧げて。依頼は絶対に成功させますから♡」


数時間後。

血まみれの床にへたり込む冒険者たちを見下ろし、エリスは制服のスカートを整え、満面の笑顔で拍手した。


「おつかれさまでした! 依頼達成、成功です!」


その笑顔は天使のように輝き――同時に悪魔のように冷たい。


「……これが、噂の“地獄の受付嬢”……」

仲間たちは二度と彼女の担当にならぬよう、神に祈った。


だがエリスは思う。


「ギルドの依頼を絶対に成功させる、それが私の仕事。そして――」


血塗れの唇を、嬉しそうに歪める。


「皆さんが死ぬ姿を見るの、楽しいですから♡」


エピローグ


今日もまた、ギルドのカウンターでにっこりと微笑むエリス。

新しい冒険者が「よろしくお願いします」と声をかける。


――その背後で、先日彼女に付き合わされたゲイルたちが青ざめて震えていた。


「やめとけ……あの受付嬢だけは……!」

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任務は終わっていません!――蘇生受付嬢エリスのドSヒーリング 蛇草苹果 @kmachi

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