クアトルマルシャ

シエル「遅い!何してんの?あいつ!」


ロゼ「落ち着きましょう。大丈夫ですよ。」


シエル「そんなの分からないでしょ?大体!自分で言ったのよ!今日中にクアトルマルシャに行くって!」


シエルは時間が迫り苛立っていた。シリウスに金を預けてからそれなりの時間が経っている。シリウスは今日中にクアトルマルシャへ向かうと言っていた。その場合は今、停泊している船に乗る必要がある。これを逃せば、出発は明日になってしまうからだ。


ロゼ「あ!来ましたよ!」


シリウス「おお!済まん済まん!」


ロゼ「シリウスさん!」


シエル「遅いじゃない!・・・ってどうしたの?その袋?お金?」


シリウス「ん?おう。稼いで来たぜ。」


シリウスは袋を開けて中を見せる。


ロゼ「わぁ!」


シエル「な!ど、どうやったの?」


シリウス「え?稼いだ。」


シエル「や、やり方よ!」


シリウス「それは聞かない約束だろ?」


シエル「そんな約束してない!」


シリウス「そうだっけ?とにかくこれで行けるな。さっさと船に乗ろう。」


ロゼ「はい!」


シエル「えぇ〜?むぅ。分かった。」


3人は急ぎ、渡し船へと乗り込む。急ぐのは当然だ。出発時間という事もあるが、シリウスにはそれとは別の理由があった。あの胴元が用心棒でも連れて、金を取り返しに来たら面倒だったからだ。自分1人ならばどうとでもなる。だが、2人を庇いながらとなると話が変わる。


ロゼ「あ!誰か来ましたよ?」


船頭「うん?」


シリウス「ああ、気にしなくて良い。行っちゃって。」


ガラの悪い男達がシリウスを睨むが、シリウスは笑顔で手を振る。


シエル「あんた、何したの?」


シリウス「いや、別に大した事はしてないよ。」


ロゼ「では、あの方達は?」


シリウス「ただの見送りさ。」


ロゼ「あ!そうなんですね?」


それを聞きロゼも笑顔で手を振る。


シエル「本当に大丈夫?」


シリウス「ああ、この島に2度と来なければな。」


3人はそのまま第4島へ向かった。


シリウス「そう言えば、クアトルマルシャだっけ?どんな所なんだ?」


ロゼ「帝都のある第1島・アンサントル、それと同等かそれ以上の面積を有していると言われている島です。」


この『世界』に衛星写真の様な物は無い。上から見る事が出来無い現状で、ハッキリとした面積が分からないのは当たり前だった。


シエル「まぁ、面積もだけど1番の特徴は商業が盛んだって所ね。」


シリウス「商業か。」


シエル「各地のあらゆる物がここに集まる様になってるの。ただ、それが原因でタチの悪い連中もいるんだけどね。」


ロゼ「あ!見えて来ましたよ!」


シリウス「へぇ。」


ゲームで見た事のある光景だった。しかし、自身の目で見るのとではやはり印象が変わる。

第3島・トロイスポートより遥かに大きい港、祭りでも無いのに多くの人が行き交い賑わう街。3人の乗せた船はそんな街の港へ停まる。


シエル「さぁ、着いたわ!」


ロゼ「はい!・・・・それで?これからどうするんですか?」


シリウス「はぁ、アズールを探すんだろ?」


シエル「そう。」


ロゼ「あ!そうでした!では行き・・きゃ!」


シエル「ロゼ!」


少年「気を付けろ!」


ロゼに打つかった少年は威圧する様に怒鳴ると直ぐに歩き出す。だが、シリウスが素早く少年の腕を捻り上げた。


シリウス「お前もな。」


少年「痛てぇ!」


ロゼ「シ、シリウスさん!良いんです!私が不注意だっただけで!」


シエル「違うわよ。ちょっと!返しなさいよ!」


少年「な、何の事だ?」


シリウス「今、お前が手に持ってる物の事だよ。」


ロゼ「あ!私のお財布です!」


シエルが少年の手から奪い取りロゼへと返す。


少年「畜生!少しぐらい良いだろ!」


シリウス「あのな。身なりの良し悪しは関係無いの。誰だって金を盗られると死活問題になるんだよ。衛兵には突き出さないでやるから、さっさと何処かに行けよ。」


少年「くそっ!」


少年は人混みへと消えて行く。


ロゼ「彼はそれ程、貧困に喘いでいたんですか?」


シエル「まぁ、そうでしょうね。でも施しなんて考えちゃ駄目よ。」


ロゼ「何故ですか?」


シエル「あいつ1人を助けてもキリが無いからよ。他にもそういう人間は沢山いるの。1人を助けたら他の人達も助けないとってなるでしょ?」


ロゼ「うぅぅ。それでも何とかしてあげたいです。」


シエル「分かるけど、今の私達じゃ無理よ。」


シリウス「目に見える所が綺麗でも必ず何処かに汚い部分はある物だよ。それこそ際限無くな。ただ、そこを変えたいって思うならその辺は見逃さない事だな。考える事も含めて。」


ロゼ「・・・・はい!」


シエル「それにしても良く分かったわね。スリって。」


シリウス「え?・・・ああ。」


言わずもがな、シリウスには『地球』の知識がある。ただ、大半はドラマや映画の知識だが。とにかく、シリウスは人混みで打つかる奴はスリだと思っている。特にこの西洋の雰囲気がする『世界』では100%だと信じている。故に財布を盗んだあの瞬間を見逃さなかったのだ。


シリウス「取り敢えず、今度は気を付けろよ?俺が近くにいる時は良いけど、いない時に起きたら大変だからな。」


ロゼ「は、はい!」


シエル「私がいるから大丈夫よ。」


シリウス「・・・・。」


シエル「何よ?」


シリウス「まぁ、そう言う事にしておこう。」


シエル「はぁ?」


3人はアズールを探す為に街を歩く。


ロゼ「あの、それで何処へ向かうのですか?」


シエル「・・・・・知らない。」


シリウス「確かこの島、東と西で分かれてたよな?」


シエル「え?うん。」


シリウス「今いるのが西でそこの貴族に何かあったって話だった様な?」


ロゼ「そうなんですか?」


シエル「兄貴からは何も聞いて無いのよね。それより何であんたがそんな事、知ってるの?」


シリウス「・・・あ!」


そう、これはシリウスが本体から記憶をダウンロードした事で得た知識だ。確かな事実ではあるが、この話をアズールの仲間以外が知っているという事はありえない。


シリウス「・・・取り敢えず貴族を探すか。」


シエル「あ!ちょっと!・・・・あいつ、偶に言動が変なのよね。」


ロゼ「でも、悪い人では無いと思いますよ?」


3人はアズールを探しながら大通りへ向かう。

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