果報は寝て待て
ストラス「そう言えば話にはまだ続きがあるんだよ。」
まだ何かあるのか?
ストラス「エカルト陛下が実権を握って、最初にやった改革がこの監獄島だよ。」
俺「ここ?」
俺は言われて辺りを見回す。看守と他の囚人がいない。
俺「何か看守とか他の囚人がいない様な気がする。」
ストラス「そうさ。ここは元々、初代アルフラムが罪人を閉じ込める為だけに作った島なんだ。」
俺「閉じ込めるだけ?」
ストラス「初代アルフラムが兄のディナメル4世から玉座を奪って直ぐ、セントアース王国に負けてこの群島に押し込まれたって話は知ってるか?」
俺「ん?まぁ、聞いたな。」
ストラス「大陸に土地があった時とは違って群島だから陸地が限られてる。そんな状態で罪人の為の施設なんか作ったら、一般人から何言われるか分からないだろ?それに内乱を起こして直ぐだったから司法の方も浮き足立っててな。余計に大変だったらしいぜ。」
俺「へぇ、それで?」
ストラス「とにかく法を整備する時間を稼ぐってのと民衆から非難されない様にするっていう理由から、状況が落ち着くまで収容して置く場所を作ったんだよ。」
俺「それがこの島って事か。」
ストラス「おうよ。」
俺「島が出来た理由は分かったけど、今の話とエカルトの改革と何の繋がりが?」
ストラス「エカルト"陛下"だよ。本題はここからさ。とにかく法整備はしたんだ。ただ、国が落ち着いた頃には凄い数の囚人が監獄に収容されてたんだ。」
俺「気が付いたらどの囚人が何の罪を犯したのか分からなくなった。・・・って事か?」
ストラス「ああ。アルフラム3世の頃にはただ、詰め込んだだけって状態だった。」
俺「酷いな。」
ストラス「その上、囚人達の暴動の可能性もあるから監獄島の機能は維持しないと駄目だろ?その維持費が高かったんだよ。」
その改善策が看守も囚人もいない監獄か。ん?その話と俺が処刑って言われた事と関係あったりする?
ストラス「エカルト陛下は国の資金を確保する為にこの監獄島の囚人、全員を纏めて処刑したんだ。」
俺「はぁ?」
思ったよりヤバい話だった。
ストラス「監獄島から囚人がいなくなった事でここに看守は必要無くなるだろ?そいつ等は他の部署に異動になってるんだけど。何よりそのお陰でここに使ってた維持費が、全部国の運営資金に出来たって事さ。ただ、まだ裁判とか出来無いから現在は罪人となった奴は一律処刑って扱いになってるけど。」
俺「お前は何んでそんな悠長に話してられるの?お前も今はその囚人だろ?」
ストラス「え?あ!いや、そうだけど。今、重要なのはそこじゃなくてだな。」
全く、そこも重要だろ!
取り敢えずこいつがただの囚人じゃないってのは確定で良さそうだな。それと俺が裁判も無しに処刑って事になった話の流れも何となく分かった。
ストラス「帝国も今は昔に比べると大分良くはなった。でもその後の改革はあまり進んで無いんだ。」
俺「何かあったのか。」
ストラス「俺達は旧貴族派閥って呼んでるんだけど、その連中が陛下の足を引っ張ってるのさ。俺も陛下に恩がある国民の1人だ。支持はしたい。だけど・・・もう・・。」
"もう待ってられない"って所かな?
俺もこんな所で待ってたら首を斬られるか?とにかくアイリスかクリスに連絡取れたらな。という所である映像が頭に浮かぶ。
俺「あ!スマホ!」
ストラス「何だって?」
俺「いや、何でも無い。」
何故、今の今まで忘れていたのか。俺には文明の利器がある。しかも神仕様。スマホは聖剣と同じく俺が望めば直ぐに手元に現れる。俺は"来い"と念じてスマホを召喚する。俺は急いで操作する。ただ、現在いる場所は地下だ。一抹の不安を覚え、電波の状態を確認する。
"圏外"
俺「・・・・。」
俺はスマホを天井に向け、電波を探し歩き回る。
俺「繋がらない。」
俺は顔に手を当て膝を突く。
ストラス「どうした?何かあったのか?」
俺「今、万策尽きた。」
ストラス「え?何?」
圏外って何だよ!神仕様だろ?繋がれよ!まさか外国だからそもそも繋がらないなんて無いよな?人に仕事頼んで何のサポートも無い!こんな雑な扱いあり得ないだろ!
俺「畜生!こうなったら最後の手段だ!」
ストラス「お!脱獄か?」
俺「事態が好転するまで寝る。」
ストラス「寝・・・はぁ?本気か?」
俺「俺の故郷に"果報は寝て待て"って言葉があるんだよ。だから寝て待つ。」
ストラス「カホウ?」
俺「良い報せって事。お休み。」
俺は半ば不貞腐れ、硬いベッドで横になる。若干痛いけど仕方ない。
ストラス「お、おい!」
俺は疲れていたのか目を閉じるとスッと意識が無くなる。話に聞いていたけど睡眠には深い時と浅い時がある。その時は偶々浅かったんだろう。何処からか話し声が聞こえた。人の会話だ。微睡んでいた所為で会話の内容は分からない。恐らく隣りの牢屋、ストラスが誰かと会話していたらしい。
しばらく会話していた後、3人の人影が俺の牢屋の前を通り過ぎる。更にもう1人、牢屋の前を歩いていく。その最後の1人が不意に俺へ話し掛けて来た。何か言ってるけど何言ってるか全然分からない。話が終わると何かを俺の方へ投げた。俺は眠気から確認する事無くまた意識を失う。
どれだけ寝てたのか足がベッドから落ち、それと同時にボチャンと水の中へ物が落ちた音が聞こえた。その音と足がベッドから落ちる衝撃でやっと俺の意識が覚醒する。
俺「はぁ!ああ、そうか。俺、投獄されたんだ。どうするかな、これから。」
溜め息を吐き、頭の中を整理していると次第に身体の感覚が脳へと繋がって行く。
俺「いや!冷たっ!何これ!」
ベッドの下と言うか床が、俺の膝辺りまで水で一杯になってる。さっきのボチャンって音。俺の足がベッドから落ちて、この水の中に入った音だった。
俺「まさか!トイレの水漏れ?」
と思い備え付けのトイレを見る。水が溢れ出ている様子は無い。
俺「・・・トイレから出ても膝下まで溜まるなんて事無いか。じゃあ何処からだ?」
耳を澄ますと通路の方からドドドッと水の流れる音がする。あれ?もしかしてかなりの緊急事態じゃないか?ヤバい!どうしよう?何かないかと周りを見回す。水浸しの床に何か光る物がある。
俺「あ!鍵だ!ん?さっき寝てた時、誰かが何かを投げ込んだ様に見えたけど。あいつが投げたのはこれか。」
俺は袖を捲りベッドの上から鍵を取ろうと手を伸ばす。
俺「ああ、冷てぇ。これ海水かな。くそっ!届かねぇ!」
次の瞬間、ドドンッとデカい音と共に大きな揺れが発生する。
俺「うお!・・・あ!」
何の因果かその振動で水中にあった鍵が宙を舞う。俺は鍵を掴む為に渾身の力で手を伸ばす。そして中指の腹が鍵に触れた瞬間だった。手で巻き込む様に掴む!と考えるのと実際に出来るのとは全く別物だ。鍵は俺の指に弾かれ牢屋の外へと姿を消す。
俺「・・・・・はぁぁ。俺のリアルラックの無さを忘れていた。そうだよな。濡れたく無かったから横着したけど。そんなんで上手く出来る程の運、持って無いよな。俺。」
俺は覚悟を決め、今度はズボンの裾を捲り水に入る。
俺「冷てぇ!くそっ!帝国っ!叩き潰してやろうか!畜生!」
多少の悪態を吐き、改めて"来い"と念じる。俺は手元へ我が愛刀を召喚する。俺は居合い抜きの構えから一気に抜刀すると、一通り"斬り付け"納刀する。途端に鉄格子が吹き飛ぶ。
俺「はぁ、結局脱獄かよ。そもそも冤罪だから敢えて脱獄で罪を犯すまいと大人しくしてたのに。エカルト、このツケは絶対払って貰うからな!」
俺は牢屋から出て状況を確認する。通路を出ると中央は吹き抜けで巨大な円の周りに俺の通って来た通路と同じ通路が幾つかある。
ただ、今、問題にすべきはその吹き抜けの上から滝の様に海水が流れ込んでいる事。そして俺のいた牢屋から下は完全に水へ沈んでいる事だ。そしてここで更に重要な事がある。俺はカナヅチだ。つまり泳げ無い。
俺「ヤバいこのままだとリアルに死ぬ。」
階段からとにかく上へ向かう。正確には数えて無いけど、体感で約10階くらい駆け上がる。
俺「俺ってそんなに凶悪犯か?こんな深くに入れなくて良かったろ?・・・そう言えば俺の嫌疑は皇族誘拐か。・・・そら、凶悪犯だわ。はぁ、疲れる。」
何とか1階に辿り着く。
ここに来るまで周りも見ながら来たけど、誰もいない。本当に看守も囚人もいないな。囚人はさて置き看守くらいは常駐させとけよ。
俺はそのまま外に出る。どうにか脱出せねばならない。先ずはここに来た方法から考える。ここには転移魔法陣を使って、帝都から直行だった。こんな魔法あったんだ!と驚いた。思ったより帝国の技術って凄いのかもな。
因みに魔法の効かない筈の俺が何で転移出来たのか、多分攻撃魔法と同じなんだろう。体内に入る類い、魔力を伴う回復薬や毒は俺自身の魔力が無いから効果が発生しない。でも攻撃魔法は体外の魔力が影響する。要するにダメージになるって話だ。体外の魔力は俺に対しても有効。だから物体を移動させる転移魔法は俺にも効いたって感じだろうと勝手に納得する。
取り敢えず魔法陣を調べる。当然魔力の無い俺では発動しない。
俺「・・・・・。」
はぁ、気にしても仕方ない。俺は桟橋に移動する。何と船があった。手漕ぎボートだ。
俺「これで大海原を渡れってか?」
あれ?何だろう?雨かな?水滴が頬を伝う。俺はこれ以上溢れない様に空を見上げた。すると雲の中に何やら影が見える。蝙蝠の羽に何か蜥蜴っぽいシルエット。終いには大きな雄叫びが聞こえた。嫌な予感がする。食い物も飲み物も無い状態だが、構わず船に乗り海へ出る。
俺「あ!ドラゴン!」
雲の中からドラゴンが現れ、またも咆哮を上げる。そしてブレスを吐き、監獄島を攻撃する。更なる量の海水が監獄島へ雪崩れ込み、島は海へと沈んで行く。俺は完全に大海原の真ん中へ、手漕ぎボート一隻で置き去りにされた。
俺「俺、何かした?」
俺の呟きが聞こえたのか、それとも本能で感じたのかドラゴンが俺を捕捉する。
ドラゴン「ギシャー!」
俺「え?あれ?・・・・あ!不味い!」
俺はオールを掴むと漕ぎ出す。それこそボート競技の選手の如く渾身の力で漕ぐ。
俺「うおぉぉー!」
ドラゴン「ギャオォォン!」
数秒前まで俺がいた場所に、ドラゴンの爪が当たり飛沫を飛ばす。恐らく異世界でも中々見ないだろう一騎討ちが始まる。海のど真ん中で、手漕ぎボートに乗った魔法も使えないカナヅチと空飛ぶドラゴンの対決だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます