DLC

2人の少女が人混みを掻き分け走る。1人は身なり良い貴族の少女、そしてその手を引いて走るのはフードを目深に被った別の少女だ。その2人を男達が追い掛ける。男達は貴族の少女の護衛だ。

何しろその貴族の少女は主人公で、物語の舞台となるデュヴァール帝国の姫だ。名前はロゼ・デュヴァール。現皇帝陛下の妹にしてセントアース王国の公爵、クリストファー・スワロウの婚約者だ。正確には今現在の時点では婚約者になる予定の人って状況だけど。

因みにこのDLCの物語だが、実は主人公がもう1人いる。名前はアズール・エールス、彼は帝国の陰で悪党から金を盗む義賊をしている。因みにロゼの手を引いているフードを被った少女はそのアズールの妹、シエル・エールスだ。

全体の話と関係無いけど、帝国は王国と違い身分に関係無く苗字がある。支配体系の問題か、文化の違いか。それは分からない。

とにかく話を戻そう。話の始まりは我が義弟のクリスがデュヴァールの皇帝から"自分の妹のロゼと婚約して欲しい"と打診があったのが最初だ。クリスは皇帝からの要望という事で大陸の南にある群島へ向かう。通称、七つ島のデュヴァールだ。

到着し、いざ見合いをと言う時に問題が起きる。それが冒頭の逃走シーン。シエルがロゼを帝都から連れ出した。理由はロゼが結婚する前に自分の国を見て周りたいと言ったのがきっかけだった。どっかで聞いた話と似てるけど、それ以前に何故義賊をやってる男の妹と皇帝の妹が友達なのかが謎である。

その謎は取り敢えず置いておこう。物語はロゼの視点とアズールの視点で話が進む。そして中盤の後半、悲劇が起きる。


アズール「うっ、うぅぅっ!うあぁぁ!」


シエル「兄貴、ロゼ。」


マーク「クリス様!・・・何で!」


皇帝の妹、ロゼが死ぬ。そしてクリスもそのロゼを庇い大怪我をする。折角庇ったのに守れず、しかも自分も大怪我って。悲しい事この上無い。

物語はその後、クリスの重傷から大義名分を得たセントアース王国が宣戦布告。戦争が始まる。DLCの主人公アズールはロゼを失い戦線を離脱。主人公チームは主人公抜きという状況で戦争を止める為、自分達だけで奔走する。しかし結局は1人、また1人と倒れ最後には・・・。


シエル「がふっ!あ、兄貴。ロゼ。・・・だ、誰か・・・助けて。」


その一言を残し最後にはシエルも絶命する。最終的に帝国は王国の属国となる形で幕を閉じる。


俺「・・・・・。」


ヴェルダンディ「・・・・・。」


俺「詰まんねぇ話だな。」


ヴェルダンディ「仕方ないじゃないですか。『地球』の人達に解析させてますけど、お姫様が亡くなる所から変えられないんですよ。」


俺「1番気に入らないのは、こんなシナリオでユーザーから5000円も取ってるって事だよ。」


何よりダウンロードコンテンツの記憶があるなら、俺の本体も5000円を払ってるって事になる。騙されてる様で腹が立つ。


ヴェルダンディ「まぁまぁ、そこは置いておいて。こうなったらもう直接テコ入れするしか無いなって思って。」


俺「はぁ、面倒臭ぇ。じゃあとにかく姫さんを死なせない様に立ち回って、クリスが怪我をしない様にする。で、戦争も回避するって事か?」


ヴェルダンディ「う、う〜ん。」


俺「何だよ?他に何かあるのか?」


ヴェルダンディ「お姫様が亡くならない様にというのは確かです。クリス君が怪我をしない様にというのもお願いします。でも。」


俺「ん?」


ヴェルダンディ「正直、戦争の回避は私としてはどうでも良いかなって。」


俺「はぁ?じゃあ最終目標は何だよ?」


ヴェルダンディ「私、どうしてもお姫様が誰とくっ付くのか確かめたいんです。」


俺「・・・・・・。」


ヴェルダンディ「お姫様が、クリス君との政略結婚を受けるのか。はたまた義賊のアズール君と道ならぬ恋に挑むのか。」


俺「は?・・・え?・・うん?な、何か?人の恋路を応援する為だけに『地球』のユーザーに解析させて、しかも使徒まで派遣しようとしてるって事か?」


ヴェルダンディ「はい。」


俺は目を閉じ考える。こいつは今、何を肯定した?考えれば考える程、何故か身体が熱くなる。


俺「なぁ。」


ヴェルダンディ「はい?」


俺「今、俺が渾身の力を込めてお前をぶん殴っても誰も文句は言わないよな?」


ヴェルダンディ「はぁ?な、何言ってるんですか!か弱い女性を殴るなんてイカれてるんですか?」


俺「自分をハッキリ肯定出来る奴が・・・いや、良いや。この話はもうウルドとしたし。というかイカれてんのはお前だろ!何処の世界に人様の恋路に使徒を使わす神様がいるんだよ!」


ヴェルダンディ「目の前にいますよ。それに『地球』にもいますよ。"恋のキューピッド"って言うのが。」


くそっ!それを言われると何も言えない気がする。


ヴェルダンディ「それに気になりませんか?ヒロインが誰とくっ付くのか?」


俺「いや、ゲームならね。状況分かってる?その恋路の為に俺が命賭けなきゃいけないって話になってるんだよ?・・・何で、人の恋の為に俺が命張らなきゃならないんだよ!そういう事なら俺は行かないぞ。」


ヴェルダンディ「えぇ?・・・可哀想に。」


俺「誰が?」


ヴェルダンディ「クリス君、義理とは言え慕っているお義兄様が自分の怪我を知っていながら放って置かれるなんて。」


俺「うぐっ!」


ヴェルダンディ「アイリスさん。夫のシリウスさんが、可愛い弟の怪我や戦争を回避出来た筈なのに何もしないなんて。」


俺「うぐぐっ!」


こいつ!俺のウィークポイントを突きやがって!


俺「たくっ。分かった分かった。行くよ。行く。行けば良いんだろ。」


ヴェルダンディ「はい。お願いします。」


俺「ただ1つ言わせて貰うけど。」


ヴェルダンディ「はい?」


俺「俺は姫さんの命とクリスの怪我。後、戦争回避の為に行くんだからな。姫さんの恋愛なんて知らないぞ!」


ヴェルダンディ「むぅ。仕方ない。ああ、でも、それなら私からも一言言わせて貰います。」


俺「何だよ?」


ヴェルダンディ「お姫様に惚れられたりしないで下さいよ。そうなったら興醒めしますからね。」


俺「あのな。人がそんな簡単に惚れるか?第一、姫さんが誰を好きになるかなんてこっちでどうにか出来る物じゃないだろ。」


ヴェルダンディ「な!口説こうとしてますね!」


俺「違うわ!いい加減しろ!」


また本当に厄介事だ。これからどうなるのか?とにかく朝イチでクリスの所に向かい、何とか頼んで見合いに付いて行く事にしよう。

まぁ、クリスは公爵様だからな。護衛なら幾らいても良いだろう。だから俺1人くらい何とかなるさ。

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