Worldtrace〜七島のデュヴァール〜
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プロローグ
再訪
俺「うっ!・・・あ?」
違和感を覚え目を覚ます。気が付くとレンガ造りの無機質な暗い部屋に俺はいた。確か昨日は部屋のベッドで寝た筈だ。にも関わらず今の俺がいるのは見知らぬ部屋だ。
俺「は?・・・へ?な、何だ?これ?」
ようやく目が慣れ周りが何と無く見える。部屋の奥には赤々と光を放っている。暖炉だ。そこから部屋の全体像が分かった。
俺「あ!拷問部屋だ!って、何じゃこりゃあぁ!」
それは俺の姿の事だ。何故か後ろ手に手枷をしている。しかもパンツ1枚の酷い姿で。ただ、脳内の冷静な俺が思う。"あれ?俺ってステテコパンツ履いてたっけ?"と。確かにこの『世界』にも似た様なパンツはある。だが俺自身に履いた記憶が無い。しかし、脳内の別の俺がパンツより重要な事があると言われ思考を切り替える。
俺「いや!おい!誰かいないのか!何がどうなってる!」
襲撃されて拉致されたのか?だとすると皆んなはどうなった?オジサン達は?ジンは?エリスは・・まぁ、少し気になる。それより一緒にいた筈のアイリスは?あいつは無事なのか?
俺「くそっ!」
ガチャガチャと枷を外そうと暴れる。何も分からない以上ここから出るしか無い。しかし、当然ながら手枷が外れる気配は無い。拷問部屋に閉じ込められて10分、と言っても俺の体感だけど。何も起きないその暗い部屋で不意に足音が鳴る。
俺「は!誰だ!」
?「フッフッフ。お久しぶりですね。シリウスさん。」
笑い声が聞こえ、そちらを振り向くと誰かがたっている。声を聞くに女性の様だが未だに顔の判別も出来無い。ただ、声に聞き覚えがあるのも確かだ。今さっき本人が言った"久しぶり"という言葉は事実だろう。
今ハッキリ分かっている事は目の前にいる女が俺を監禁している犯人か、もしくはそれに関わる奴って事だ。しばらくの沈黙の後、女がゆっくり近付いて来る。俺はここからどう反撃するか考えつつ身構える。
そして・・・。
俺「な!お前は・・・。」
ヴェルダンディ「はい。私です。」
目の前に立っていたのはノルンの1人、ヴェルダンディだった。ノルンは外の『世界』の神。神と言われる存在は直接この『世界』へ干渉する事が出来無い。つまり俺が今いるこの部屋は俺の見ている夢だ。
俺「・・・・・。」
ヴェルダンディ「・・・・・。」
俺「・・・はぁ。」
ヴェルダンディ「何ですか!目の前にこんなに美しい女神がいるのに溜め息なんて!」
俺「自分で言うかね?・・・て言うかこれ夢かよ!びっくりしたわ!アイリス達に何かあったのかと心配したぞ!少し泣きそうになったわ!」
ヴェルダンディ「え?泣いたんですか?写真!写真撮りましょう!」
俺「止めろ!泣いて無いわ!泣きそうだったって言ってんの!というか嫌がらせか!」
ヴェルダンディ「ちぇ、まぁ、良いや。」
俺「で?何しに来たんだよ。・・・何でいつもの俺の部屋にしなかったの?」
ヴェルダンディ「え?・・・う〜ん。あの部屋だと履歴が残るので。残ると姉様に知られる可能性があるから。それに拷問部屋ですよ?萌えませんか?」
俺「萌えねぇよ。そもそも、その"萌え"の感覚を味わった記憶が無いから分からないよ。・・・さっきウルドに内緒だって言ってなかった?」
ヴェルダンディ「え?い、言ってませんよ。」
目を合わせないヴェルダンディ。この呼び出しはウルドに内緒。要するにこれはヴェルダンディの独断って事になる。俺は大声を出す為に息を吸う。
俺「お姉ちゃ〜〜ん!」
ヴェルダンディ「いや〜!大きな声を出さないで下さい!姉様は今、隣の部屋で仕事してるんですから!」
俺はウルドに聞こえる様に、もう一度息を吸い叫ぼうとした瞬間だった。声が出ない。それもその筈、俺の口がなくなっていた。
俺「!」
声が出ないから身体の動きで怒りを表現したい。だが、今はまだ後ろ手に枷を付けられたままだ。ヴェルダンディに伝わってるのかも分からない。
ヴェルダンディ「いきなり大声を出すから思わずシリウスさんの口を消しちゃいましたよ。」
"口を消す"なんて単語、初めて聞いた。勿論そんな状態になった事も今回が初めてだ。
ヴェルダンディ「とにかく落ち着いて、話を聞いて下さい。大声を出さないで下さい。お願いします。」
何かドラマとかで見た、どっかの家に忍び込んだ主人公とそれに鉢合わせた家主みたいな会話だ。俺が頷く事で俺の口は元通りになる。
俺「はぁ、で?」
ヴェルダンディ「フッフッフ。聞いて驚かないで下さい。」
ヴェルダンディは人差し指をビシッと俺に向け言い放つ。
ヴェルダンディ「ダウンロードコンテンツです!」
俺「・・・・・・・。」
ヴェルダンディ「・・・・あれ?」
俺が無反応だからか少し戸惑うヴェルダンディ。だが、戸惑っているのは俺も同じだ。何言ってるんだこいつ?
ヴェルダンディ「変だな。ボリュームが小さいとかかな?もう少し上げようかな?」
俺「いや、聞こえてるよ。」
ヴェルダンディ「えぇ〜。じゃあ、ちゃんとリアクションして下さいよ!」
俺「意味が分からないからリアクションが取れないの!何だよダウンロードコンテンツって?」
ヴェルダンディ「え?う〜んと?DLC?」
俺「だから!お前さんが来た事とそのダウンロードコンテンツってのがどう繋がんの?って話だよ。」
ヴェルダンディ「全く!少しは察して下さいよ!」
いきなり、人を拷問部屋に放り込む奴の考えなど察する事なんて出来るか!
ヴェルダンディ「想像して下さい。貴方はゲームのプレイヤーです。そのプレイヤーの貴方の所に、以前お願い事をした美しい女神が再び現れたんです。どう思いますか?」
俺「・・・・また、厄介事、かな?」
ヴェルダンディ「厄介事って言い方は気になりますけど。まぁ、良いでしょう。ビンゴ。当たりです。」
俺「帰って良い?」
ヴェルダンディ「何でですか!まだ何も伝えて無いじゃないですか!」
俺「そもそもまたあの電撃だろ?嫌だよ。」
ヴェルダンディ「フッ、安心して下さい。今日はもっと簡単な方法です。それに姉様のやり方は電圧の調整が面倒なので大変なんですよ。主に私が。」
そう言うと奥にある暖炉へ向かう。何をしているのか?ただ、少し嫌な予感がする。そしてヴェルダンディは、暖炉の火かき棒の様な物に手を掛ける。
俺「お、おい?」
暖炉から取り出した棒の先端には赤々と輝く鉄の板が付いている。
俺「それ焼印じゃねぇか!」
ヴェルダンディ「そうですよ。」
俺「"当たり前じゃないですか"みたいな感じの言い方をするな!」
ヴェルダンディ「えぇ?・・・実物、見た事無いんですか?」
俺「実物は・・・・あ!確かに見た事無いな。『地球』のテレビの映像では見た事はあるけど。」
ヴェルダンディ「ああ、じゃあ仕方ないですね。私の言い方が良くなかったです。」
俺「そうだな。」
俺はウンウンと頷く。だけどそこでハッと気付く。
俺「いや、そうじゃねぇよ!その焼印で何すんだって話だよ!」
ヴェルダンディ「え?ですからダウンロードですよ。先ず、この焼印の強烈な痛みから痛覚を刺激します。その痛覚から神経回路に接続、そのまま回路を通して直接脳内に貴方の本体の記憶データをダウンロードするんですよ。」
俺「ほぅ、成程。ってなるか!そんな危ない事、認めないぞ!断る!第一、どう考えてもデメリットの方が大きいだろ!」
ヴェルダンディ「そんな!心と身体に焼印の傷が一生残るくらいで、他にデメリットは無いですよ。」
俺「心って、トラウマになってるじゃないか!身体にだってそんな傷、欲しく無いぞ!」
ヴェルダンディ「何言ってるんですか?神による聖なる傷、聖痕ですよ?そのスジの人達は大好きじゃないですか?」
俺「俺はそのスジの人じゃないっての!」
ヴェルダンディ「じゃあどうするんですか!」
俺「電気ショックだよ!当たり前だろ!」
自分から電気を所望している事を考えると泣けて来る。だが、焼印はもっと嫌だ!とにかくそれだけは回避しよう!
俺「というかいい加減この手枷外せよ!」
ヴェルダンディ「むぅ。」
ヴェルダンディが指をパチンと鳴らすと手枷が外れる。俺は手首を確かめる様に触る。この光景、よくテレビドラマで見た。皆んなこんな気持ちだったのか?
俺「はぁ、とにかく電圧は抑えろよ。」
ヴェルダンディ「もう!我が儘ですね!」
どの口で言いやがる!そもそも自分がどれだけ俺に迷惑を掛けてるのか、先ずはそこを思い出せよ!まぁ、今更ブツブツ言っても仕方ない。俺が座るとヴェルダンディは背後に立つ。俺の頭の両側にそれぞれ手を当てパチッと静電気の様な音を出す。
俺「痛っ!」
痛み自体は静電気だけど痛い物は痛い。
とにかくダウンロードが開始され、頭の中に映像が流れる。映像は俺の本体が遊んだゲームの冒頭からだ。
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