第14話 パパ大好き♡

 ◆◆◆


 2組目が風呂場からリビングに移ると、最初の1組目の 田中 青子 田中 光 南 明日香 仙道 加奈 4姉妹の父親である 田中 薫の5人がテーブルに座っていた。


「まこ姉ぇ、おっそ――い! パパの料理が冷めちゃうよ」


 隣に座る青子が不満そうに唇をとがらせる。


「ごめんね、色々あって」


 真琴がバツが悪そうに謝ると、美鈴ちゃんが深く頭を下げる。


「ごめんなさいっ、みんな! 全部あたしのせい!」


 真剣に謝る姿に、一組目のお風呂メンバーは瞳をパチクリとさせた。


「うわっ! ずっとツンツンしていた美鈴が、いきなり素直に謝ってるぜ! 気み悪ぃ!」


 明日香ちゃんが かなり酷いことを言って顔を引きつらせる。


「でも、良い顔しちゃってるよ。何かあったの、まこ姉ぇ?」


 青子が聞くと、真琴と美鈴ちゃんは顔を合わせ――。


「何かあったかな、美鈴?」 


「うん、どうだろうね、真琴……ふふふっ」


 おどけた風に笑い合う。

 青子はぽかーんと口を開け。


「おおっ! お風呂から出たら、なんかフレンドリーになってるし。まさかまこ姉ぇ、お風呂場でヤっちゃったとか? 百合は嫌いじゃないけど、身内だと引く――うごうゥッ!」


 姉の鉄拳が頭に落ちた。

 うずくまり、「冗談なのに~~」とうめいている。

 真琴は隣の椅子を引き。


「まったく……。ほら、美鈴座って」


「うん!」


 笑い合う姿は、やはりお風呂場で何かがあって、仲が深まったのはたしかのようだ。

 仲間同士競い合うのも向上心が上がっていいけど、チームメンバーは基本 仲がよくなくちゃね。


 明るく笑って彼女たちに告げる。


「さあーみんな、召し上がれぇ。少し冷めたけど味は保証するよ」


 みんなは手を合わせ、「いただきます」と言ったあと、僕の料理を食べ始める。

 本当に美味しそうに食べてくれている。感謝である。


《パパ……》


《なんだい真琴、食事中に? もしかして、美鈴ちゃんに関係している事かい?》


《う、うん……実はね……》


 真琴から、お風呂場でのいきさつを聞いた。


《そうか……そんな事があったのか……》


《うん……。どう思うパパは? このまま私が野球を続ければ、美鈴みたいにまた誰かを傷つけてしまうかもしれない……。私は……野球を続けてもいいのかな?》


 内容は誰もが思う敗者への気遣い。

 普通ならそこまでは思わない。

 けれど真面目な真琴はそれに悩んでいた。


《たしかに、傷つけてしまうかもしれない。でも、誰だって夢がある。誰だって夢を諦めてしまう可能性がある。君だってね、真琴。いつか傷つき、夢を諦めてしまうかもしれない……そうだろ?》


《そうだね……》


《だったら君は、まっすぐ夢を目指せばいい。目指して目指して がむしゃらに目指して進めばいい。……最後に、壁にぶつかるまで……》


《それは、夢を諦めるまでってこと?》


《壁は諦めたときだけじゃないよ。 夢が叶いゴールしたあとにも壁があるんだ。 それ以上先がないんだからね。 人はいつか必ず壁にぶつかる。 途中で挫折したとき、そしてゴールしたとき。 ぶつかったあと、また違う夢を見つけ、その先の壁を目指すんだ。 大なり小なり人間はそれの繰り返しなんだ。 君はいま罪悪感という壁にぶつかっている。 その壁に阻まれ、君はいま進む夢を諦めるのかい? それなら仕方ない。 君の夢に向かう覚悟がその程度ということだ。 ここでつまずくような夢なら、どうせゴールなんて辿りつけはしない。 早いうちに諦めて他の夢を探したほうがいい》


 僕は中学生には少し酷なことを言っているかもしれない。けど、真琴なら絶対に乗り越えられると信じて伝えた。


《……パパ、私は前に進みたい、夢を叶えたい……。でも……怖いの……。自分のせいで、誰かの夢を閉ざしてしまうのが……》


 声が震えていた。

 真琴は強くて優しい。

 だが、それがいま彼女の枷になっていた。


《じゃあ君は、自分の夢を、自分で閉ざしてしまう罪悪感はないのかい?》


《え? 自分の夢を……自分で閉ざしてしまう罪悪感?》


《そう……。夢を叶えたい、その夢の道をまっすぐ進みたい、そういう自分の気持ちを裏切る罪悪感だよ……》


《……わからない。そんなこと、いままで一度も考えたことがなかったから……。でも……裏切ってるんだよね……自分自身を……》


《……真琴、迷っているんだね?》


《……うん》


《なら、自分の心に従うんだ。自分の心が、ここで諦めたほうがいい、そう言ってるなら、また別の夢を探せばいい。でも、心がここで諦めたくない、そう君に訴えかけるなら、まだ諦めちゃダメだ、進み続けるんだ……!》


《うんっ、パパ! 私、諦めたくない! 前に進みたい! 最後までゴールを目指したい!》


 さきほどまでの落ち込んでいた声とは一転して、声には覇気がみなぎっていた。


《……心は決まったね。じゃあ、もう何も言わない。あとは自分の心に従って動くんだ……》


《ありがとう、パパ。わたし吹き切れたよ。パパのおかげで壁を乗り越えられたよ》


《ああ、そうだ。ゴールではない途中でぶつかった壁はかんたんに乗り越えられるんだ。本気で乗り越えたいと思えばね。いまの君や美鈴ちゃんのようにね》


《うん、パパ。きっと私は、これからも誰かを傷つけ、そして傷つけられながら 夢を目指していくんだと思う。それを覚悟して、自分の夢を、自らの心に従って突き進んでいくよ……!》


《がんばれ、真琴》


《全力でがんばれ!》 


 元気な声を響かせたあと照れながら……。


《そ、それとパパ……。あの……みんなにはその……パパとは一緒に寝ないようにとか、早く親離れしなさいとかよく言ってるんだけど……そ、その………》


《なに?》


《たまには、その……パパと、みんなで一緒に寝ちゃダメかな?》


《うん、いいよ。たまにならね》


《ありがとう、パパ! 大好き!》


 嬉しそうな声とともにテレパシーを終わらせた。

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