第13話 涙する金髪イケメン、レミー・フォルクス
ただの酔っ払いだと思った。
しかし、彼は酔っているわけではないようだ。
(え!? この人、泣いてるの!?)
泣いているとは思っていなかった。
酔っ払いならば、水を与えよう。意識がなかったら助けを呼ぼう。いろいろと考えを巡らせていた。
しかし、泣いていたら……。という想定はしていない。
アリサを見ると、金髪の男は慌てて涙を拭った。
「騎士様ですよね? 大丈夫ですか?」
「ごめん。人が暮らしているって知らなくて」
彼は気まずそうにそっぽを向く。
横顔だけでもわかる。エルンストとは違うタイプのイケメンだ。
騎士はイケメンが多いのだろうか。
(どうしよう。声をかけちゃったし、「はい、そうですか」って放っておくのもなぁ……)
村で暮らしていたとき、泣いていればすかさず誰かがその人の肩を抱いたものだ。
しかし、ここでは誰も彼を心配する様子はない。
アリサも男も存在していないかのように、みんな赤ら顔で陽気に通り過ぎていく。
(私には放っておけないや)
知らない人に声をかけない。
これが都会式だとわかっている。
けれど、お節介に声をかけてくれた人にアリサは救われた。
アリサはエルンストの顔を思い出す。
(エルンストさんと同じ騎士さんみたいだし、大丈夫だよね)
「よかったら、うちで休憩していきますか?」
「……え?」
男は困惑気味にアリサを見上げた。
(これじゃあ、私のほうが不審者だよね)
「何もお出しできないんですけど……。ここで座っているよりは落ち着くと思います」
アリサは苦笑を浮かべる。
男はどう返事をしたらいいかわからないようだった。
「エルンストさんと同じ騎士様ですよね?」
アリサは怪しくないと遠回しに伝えるために、エルンストの名前を出した。
エルンストには申し訳ない気持ちになったが、それ以上にいい方法が思いつかなかったのだ。
男はエルンストの名前を聞くと目を見開く。
「君は団長の知り合いなのか?」
「団長?」
アリサは首を傾げる。
団長とはなんの団長のことだろうか。
アリサは彼の言うことが理解出来ず何度も目を瞬かせた。
「エルンストさんって、エルンスト・ヴァルデン団長のことだろう?」
「エルンスト・ヴァルデン……。そういえばそんなお名前でした! エルンストさんって団長さんなんですね」
騎士団長ということだろう。
たしかに強そうだし真面目そうだし、合っているなと思った。
「ここで会ったのも何かの縁ですし、よかったら中で休憩していってください」
「若い女性が男を招くものではないと思うが」
「その辺は大丈夫です。悪い人は用心棒がやっつけてくれるので」
アリサは笑みを浮かべる。
用心棒――シロは今、ぐっすり夢の中だがアリサが叫び声を上げればすぐに駆けつけてくれるだろう。
旅の途中、アリサは何度もシロに助けてもらった。
シロは温厚なドラゴンだが、仲間を傷つけようとするとドラゴン本来の力を発揮するようだ。
だから、あまり心配はしていなかった。
「さすがに団長の知り合いに手を出すつもりはないから安心してほしいけど。でも、気をつけて。まともな男ばかりじゃない」
「そんなふうに忠告してくれるなんて、いい人なんですね」
「どうかなぁ」
「私はアリサっていいます。騎士様のお名前をお聞きしても?」
アリサはカウンターにある席を案内した。
男は薦められるがままに席に座る。
酔っている様子はない。水よりも酒を出したほうがいいだろうか。
アリサが悩んでいると、男は口を開いた。
「俺はレミー。レミー・フォルクス。ここに人が住んでいるなんて、知らなかったよ。ずっと空き家だと思っていた」
「実は、先日引っ越してきたんです」
「そうだったんだ。なんか綺麗になった感じはしたんだ。家の前で悪いことをしたね」
「いえ、酔って倒れているのかと思って心配しました。元気そうですね」
「ああ、俺はいくら飲んでも酔えない体質だから」
レミーは困ったように笑った。
(便利な体質ね。前世の私なんて一口で真っ赤だったのに)
会社の飲み会ではいつもウーロン茶を注文して、みんなに嫌な顔をされていた。
いくらでも飲めたら楽しいのだろうと思う。
しかし、レミーは小さくため息をついた。
何か思いつめているようだ。もう泣いてはいないけれど、目は赤い。ずっと泣いていたのだろうか。
「よかったら、なんですが……」
心臓が早歩きになる。
会ったばかりの人にこんな提案するのはおかしいのかもしれないと思ったのだ。
レミーは首を傾げた。
勇気を出して、アリサは口に出す。
「よかったら、パフェでもいかがですか?」
長い沈黙が続いた。
アリサはの心音だけがアリサを支配する。
レミーはアリサを見つめたまま、目を三度瞬かせた。
「パフェ?」
知らない言葉を発する幼児のような言い方に、アリサは何度も頷く。
「そうです。パフェ。ちょうど新作を考案したばかりなので!」
新作を作るのに夢中で夜になっていた。明日パフェにして試食をするつもりだったのだ。
しかし、せっかくなら人に食べてもらいたいという欲望が出てきた。
「パフェとはどのようなものなんだ?」
「どのような……」
レミーの問いにアリサは悩む。
パフェとは何か。
ざっくりと言ってしまえば、スイーツだ。しかし、アリサにとってパフェは特別だった。
アリサはパッと笑顔を見せて口を開く。
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