18 東京、到着
仙台駅を過ぎたあたりでスマホに大量の通知が来ていることに気づいた。マナーモードにして荷物の隙間に押し込んでいたので震えているのに気づかなかったのだろう。
母さんから「どこにいるの」「なにしてるの」「せめて既読をつけなさい」と激怒の鬼メッセージである。
既読がついた瞬間、電話がかかってきた。新幹線で電話するのはマナー違反なのだろうか。ふだんあまり列車に乗らないからよくわからないが、夜の東北新幹線の中はわりと空いていたので電話にでる。
「あんたどこにいるの!? みんな探してるんだよ!?」
「東北新幹線」
「はぁ!? どうせダンジョンにいるんでしょ!? 親が追っかけてこれないとわかって!」
「違うって。ダン中のみんなと東北新幹線に乗って、いま仙台過ぎてすこししたとこ。このまま東京にいく」
「……この間言ってた東京行き、本当にやっちゃったの。ダンジョン科は諦めて受験勉強するんじゃなかったの?」
「帰ったらきちんと勉強する。そのために、俺たちはもう配信しませんってテレビで言う。そんであぶく銭を使い切る」
「あー……わかった。お友達の親御さんにはそう説明しておくから、楽しんでらっしゃい」
意外と物分かりのいい母さんにちょっと驚きつつ、俺はスマホをしまう。
そうなのだ、俺たちはまだ中学生だから、本来なら親に守られねばならないのだ。東京行きだって子供だけではただの家出なのだ。
家出なんてつもりはなかったし、ちゃんと帰るつもりだし、もしお巡りさんにめっかって家出だと思われて警察署に連れて行かれたら俺たちダン中でかくかくしかじか、と説明すれば情状酌量の余地ありなのではないだろうか。
ダン中はもはや人口に膾炙した配信者だ。テレビにも映像が取り上げられるほどだ。事実テレビ局にも呼ばれている。ただの家出中学生ではない。
◇◇◇◇
新幹線は東京駅に滑り込んだ。深夜と呼べる時間である。豪がググって出てきた原宿の中古屋はもちろん閉まっている。
その中古屋はロリータ服やドールさんだけでなく、いわゆる「姫ギャル」系の服も扱っているらしい。まひろはギャルになりたいヒトなので嬉しそうだ。
他にもいろいろとオタクグッズみたいなものも並んでいるらしく、直言も楽しいのではないか、ということになり、いちどマクドナルドで休んでから、朝になったら路線図を睨んで原宿に向かってみることにした。
マクドナルドでいろいろ注文していると、お巡りさんが声をかけてきた。
「きみたち高校生? 荷物すごいけどどこから来たの?」
「わたしたちダン中です。家をパパラッチに囲まれて大変なことになったので、こっそり抜け出して東京に来て、いままでのあぶく銭使い果たしちゃおうと思ってます」
まひろがそう言った。警察官もマックの店員さんも驚いている。
「だ、ダン中!? サインください!!」
警官まで俺たちにほだされていたのだった。
しかしそれはそれとして警察署に連行されてしまった。その代わり警察官はハンバーガーを奢ってくれた。俺たちは腹ぺこだったので、冷たい秋の風が吹く東京の警察署で、生意気に牛肉の味のするハンバーガーをムシャムシャ食べながら、なんで家出してきたのかを説明した。
「なるほど……それは確かに家出やむなしだ……」
警官はしみじみと話を聞いてくれた。それはそれとしてサインもした。
「で、これからどうするのかな?」
「5泊分ホテルの予約をとってあるので、その間は東京に滞在するつもりです。テレ東の番組にも出演して……」
まひろがそう答えた。
「なるほど。すぐ家に帰るつもりはないわけだ」
警官はくっくっと笑った。
「じゃあ、朝になるまでここにいなさい。少し寝たほうがいい」
「ありがとうございます」
そういうわけでありがたく仮眠室のような部屋を貸してもらい、少しだけ寝た。俺たちは中学生なので、少し眠れば元気が回復するし、すぐお腹が空く。
無罪放免となり東京の街に踏み出す。まだ中古屋は開店していない。どうしようか、となり、とりあえずどうやって原宿に移動すればいいのか、それを調べることにした。
それにしても東京の路線図というのはどうしてこうもややこしいのか。うぬぬとなりながらみんなで路線図を眺め、どうにか乗り換えの方法を確認して原宿に向かうルートを確認し、グーグルマップに相談して、なんとか行けるでしょう! ということになったのだった。
朝ごはんに、秋田県にはまだない松家に入る。近々できる、みたいな噂は聞いたもののクソ田舎大館にできるのはずっと先であろう。お昼は大館にないサイゼリヤにしようか、ということになった。
「じゃあそろそろ原宿いく?」
豪があくび1発そう提案した。そうしよう、とみんなでおっかなびっくり列車に乗って、原宿に向かった。
◇◇◇◇
「ワ……ワァ……!!」
豪が嬉しそうな声を上げた。さんざん迷子になって、どうにか中古屋に辿り着いたのだが、そこはめくるめくレースとフリルの世界であった。
「すごい……! 欲しいものがぜんぶある……!」
まひろも目をキラキラさせている。俺はガラスケースに並べられたドールさんを見たくて、秋田弁で言うところの「ハカハカ」状態。直言はちょっと退屈そうだ。
オタクグッズもあるといっても概ねヴィジュアル系アーティストのグッズだった。直言はそこに興味がないので、盛り上がる豪とまひろをげっそり顔で見つめるばかり。
まひろはギャルになりたいと言っていたくせにロリータファッションの服を豪と当てっこしている。豪よ、いまのお前は五厘刈りの坊主頭んの、ちょっとかわいい中学生男子なのだ。それを当てっこしているのは違和感があるぞ。
「俺たちはこっちに行こう」
というわけでドールさんのコーナーに移動する。こっちもすごいことになっていた。下調べをしてこの子が欲しいな、くらいの目星をつけていたわけだが、プレミアがついているような限定ドールは「ヒョエーッ!!!!」というお値段だった。
でもベーシックモデルのドールや韓国ドール、中国ドールはそこまでではない。店員さんにケースを開けてもらい、海外製の女の子のドールを抱っこさせてもらう。
もはやうちの子では。連れ帰る一択では。
海外製のベーシックドールなので値段はもちろん高いが比較するとそれほどでもない。この子ください! とお願いするとどでかい棺桶みたいな箱にセットされて出てきた。これを持って帰るのは大変なので、近くのコンビニから清臣さんの家に送ることにした。
退屈そうな直言を無視して、豪とまひろはまだ当てっこをしている。そろそろ移動しようよ、と声をかけると、二人は渋々とレジに向かった。
そうやっていると店員さんに「あの……ダン中さんですよね?」と声をかけられ、サインすることになった。(つづく)
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