【無自覚最強おっさん武闘家】田舎道場師範の無名おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女である事が判明、何故か全員から言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア@悪役ムーブ下手が転生

1.「プロローグ」

「本日の稽古は以上とする」

「「「ありがとうございました!」」」


 道場で午前中に稽古を終えた俺と弟子たち三人は、順番に井戸を使い素早く水浴びして着替えると、手早く昼食を食べて、山の中に向かった。


「師匠、薬草がこんなに採れました!」

「ほう、よく採ったな。これだけあれば、村の人たちも助かるだろう」

「えへへ」


 十四歳、最年長のアプレは、情熱があり、真摯に打ち込んでいる少女だ。


「……これは……毒キノコですよね、先生?」

「ああ、そうだ。よく覚えていたな」

「……フフッ」


 眼鏡の位置を直しながら、冷静に受け答えしようとするも、つい嬉しくて思わず笑みが漏れてしまうのはレンド、十三歳の少年だ。


「コーチ! 俺も〝狩り〟やりたいです!」

「ん~、じゃあ、兎か猪が出たらな」

「やったー!」


 元気一杯に飛び跳ねて喜ぶのは、最年少である十二歳の少年、サイルだ。


 アプレは四年、レンドは三年、サイルは二年ほど俺の道場に通ってくれている。

 というか、住み込みなので、もう家族みたいなもんだ。


 あ、ちなみに、俺の〝呼び方〟は、みんなに任せている。


「それにしても……」


 若いってのは、それだけでキラキラして、眩しいもんだな。

 三十五歳となり、あともう少しで四十歳の俺には、特に輝いて見える。


 特に、俺の弟子たちは〝全員〟〝才能〟に溢れた者たちばかりだから、余計だ。


「俺と違って……な」


※―※―※


「ま、こんなもんかな」

「流石です、師匠!」

「流石〝僕の〟先生ですね」

「コーチ、スゲー!」


 少し大きな熊が出たので、反射的に腰を落とした俺は、右拳を後ろに引いた上で勢い良く前に突き出す、という動作を瞬時に行い、〝正拳突き〟による〝衝撃波〟を顔面に食らわせた。


「……まだまだだな……」


 首から上が吹っ飛んだ熊に大して、携帯していたナイフで素早く血抜きしながら独り言ちる。


 ダークベアという熊形モンスターに両親が殺されてからもう三十年も経つのに、今でも熊を目の前にすると、平常心ではいられない。ただの熊だと頭では分かっていても、感情が抑え切れない。


「いや、まぁ多少はマシになったが……」


 以前は叫び声を上げながら、相手の全身を粉々に吹き飛ばすまで両拳でラッシュしていたのだ。奇声を聞き付けた村の人たちが見に来て止めてくれるまで、地面に転がったぐちゃぐちゃになった死体に向かってひたすら拳を突き立て続けていた。


 それに比べたら、無言で、首から上のみを狙うようになったのは、進歩と言えなくもないのだが……


「まだ一度もベアット婆さんに好物を食わせてあげられていないな。いつになることやら」


 この〝ディープ村〟に住む、〝熊の顔面と頭部を食すことを好む〟という、少し変わった老婆のことを思い出す。眼前の熊は、首から上は全て木っ端微塵になってしまったから、また残念そうな顔をさせてしまうなこれは。


 っと、いけないいけない。

 今は弟子と一緒に山中を歩いているんだ。

 命の危険だってある。気を引き締めないと。


※―※―※


「やったー!」

「うん、良い動きだった」


 少し大きな兎を、サイルが正拳突きで仕留める。


 素早い相手の動きをきちんと読んで左へと攻撃を回避した上で、必殺の一撃を敵の側面に突き刺す。


 見事な戦いぶりだった。


「おもっ!」

「持とうか、サイル?」

「いい! レンド兄は手を出さないで! 俺が一人で持っていく!」


 三人の中で一番背が低いサイルだが、自力で狩った獲物という自負から、自分の手で持っていきたいのだろう。


「くすっ。やっぱり男の子ですね」

「ああ、そうだな」


 ぜぇぜぇ言いながらも決して兄弟子姉弟子の力を借りようとはしない彼の姿にアプレが微笑み、俺も頷いた。


 その後を熊を担いで歩きながら、思う。


 可愛い弟子たちがいて、裕福ではないが、普通に暮らしていける。

 両親を殺された直後から始めた武闘家としての〝修行〟も、三十年経った今でも続けることが出来ている。


 穏やかだが、幸せな日々だ。


「そうだ。才能が無い凡人の俺には、これが分相応な生き方だ」


 冒険者や最近王都に出来た〝武闘団〟という騎士団の武闘家バージョンのような団体への入団に憧れる弟子たちと俺は違う。


 もうこの歳から新たな挑戦を始めるなんてことは、正直難しい。


「これ以上を望むのは、分不相応だ」


 俺はこれからも、この村で静かに暮らしていくのだ。


※―※―※


「いつも悪いな、パーチ」

「いやいや。こちらこそ、いつも野菜貰って助かってるよ、ありがとう」


 道場が併設されている家への帰り道。

 夕陽が照らす中、大量の野菜を荷車に載せた顔見知りに会い、「村のみんなで食べてくれ」と熊の遺体を手渡すと、代わりに野菜をたくさん貰った。


「わぁ! 野菜がこんなに! 早く料理しましょう、師匠!」


 アプレが顔を輝かせる。

 料理が得意な彼女が来るまでは俺が弟子たちの食事を準備していたのだが、最近はずっと彼女に頼りっきりだ。


「ま~た首から上を吹っ飛ばしおって! いつになったら儂は熊の頭を食えるんじゃ!」

「ごめんて、ベアット婆さん」


 そこに通り掛かったベアット婆さんが、杖を振り上げて抗議し、俺は苦笑しながら謝る。


 っていうか、俺たちの行動は把握されているから、ここを通る時間帯も大体分かってて、こうやって待ち伏せされちゃうんだよなぁ。いやぁ、参った参った。


※―※―※


「兎肉美味い!」

「ちゃんと野菜も食べなきゃ駄目よ、サイル?」

「アプレ姉さんの言う通りだ。強い肉体を作るためには、栄養バランスが重要だからな」

「分かってるよ! アプレ姉もレンド兄も強いからな……今に見てろよ! たくさん食って強くなって、絶対に追い越してやる!」


 アプレが作った兎鍋をみんなで囲みながら、談笑する。


 この家は、両親が死んだ時に俺を引き取ってくれた伯父――父の兄のものだ。

 

 身寄りのない俺を引き取って、本当の息子のように育ててくれた伯父は、二年前に病死してしまった。


 家に併設されている道場だって、俺が十五歳になった時に、伯父が俺にプレゼントしてくれたものだ。「道場でも開いて、子どもたちに拳での戦い方を教えたらどうだ?」と言って。


 当時の俺は、冒険者に憧れていた。

 胸躍るような冒険をして、すごいモンスターをバンバン倒して、有名になって、金持ちになって――なんて夢想していたんだ。


 そんな俺に、伯父は言った。


「何人か冒険者の知り合いはいるが、そんな甘いもんじゃねぇ。まだ若いのに怪我して引退した奴もいるし、死んだ奴だっている。お前は普通よりほんの少し強いくらいだ。お前の力じゃ通用せずにすぐ死んじまうのが落ちだ」


 生意気盛りだった俺は反発した。


「そんなことない! 俺には才能がある! 俺はきっと、大活躍してみせる!」


 そのままアイスブラット王国の王都まで行きそうだった俺に対して、伯父は、真剣な顔で言った。


「パーチ。頼む。一度で良い。誰か適当な子どもを捕まえて、稽古をつけてみてくれ」


 普段、そこまで真剣な伯父の表情を見ることは無かったので、驚いた俺は、「まぁ、そこまで言うなら、一度だけなら……」と、了承してしまった。


 〝既に道場を家に併設してくれていた〟というのも、「全く使わないというのも、勿体ないしな」と、後押しした。


 数日後、旅をしている親子が訪れ、「盗賊やならず者、またはモンスターに対して自衛するための、護身術を学びませんか? 今なら半額です!」という、伯父に教わった営業トークで、子どもの両親は、「それなら」と、言ってくれた。


 俺が教えたのは、五歳の女の子だった。

 「おもしろそー!」と言って、好奇心旺盛な彼女は、ノリノリで稽古に取り組んだのだが。


 教えるのって、結構楽しいじゃん!


 意外にも面白くて、自然とそう思ってしまった俺だったが、それだけなら、まだ冒険者になる夢を諦めることはなかっただろう。


 決定的だったのは、その女の子だった。


「えいっ!」

「!?」


 たった一日の稽古で、拳で岩を破壊する〝岩割り〟を成し遂げてしまったのだ。


「お、俺は、五歳から十五歳まで……十年間必死に努力してやっと出来たのに……」


 〝天才〟というのは、こういう子のことを言うのだと、初めて知った。

 

 そう。

 俺は、気付いてしまった。

 自分は、凡人なのだと。


 家出は止めたものの、それでも、道場を経営しながら、最初の内は、「俺だって! 負けるもんか! きっといつかは!」という気概もあった。


 が、五年、十年、十五年、二十年と、才能溢れる若者たちを見る度に、思い知らされた。

 非情なまでの、〝才能の差〟を。


 皆、一日で〝岩割り〟を達成してしまうのだ。

 彼ら彼女らは、俺とは違う〝選ばれし者たち〟だった。


 今となっては、伯父に感謝している。

 もし俺があのまま家を飛び出して王都に向かい、冒険者になっていたら、近い内にモンスターに殺されていただろう。


 伯父は、弟夫婦の忘れ形見である俺を、絶対に死なせたくなかったのだ。

 そしてその目論見は、見事に成功した。


「なぁ、パーチ。良いもんだな、家族ってのは」


 生前、伯父は、俺が弟子たちに稽古をつけながら共に生活している様子を、目を細めながら見守ってくれていた。


「ずっと独り身の俺には、当然子どもがいねぇ。このまま独り寂しく死ぬもんだとばかり思っていたら、お前という息子が出来た。更には、お前の弟子って形で、孫まで出来ちまった。そんな気分になれたんだ。俺と一緒に暮らしてくれてありがとよ」


 「それは俺の台詞だよ。ありがとう」と、その度に俺は返した。


 そんな昔話から眼前の現実へと意識を戻す。


「うっ! ……く……るし……い……」

「何やってんのよ、てい!」

「ごほっ! ……サンキュー、アプレ姉」

「……フフッ」

「あ! レンド兄が笑った~! 俺、死に掛けたのに~!」

「悪い悪い……でも、気合い入れて早食いして死に掛けるて……フフッ」

「また笑った~! アプレ姉、何か言ってやってよ!」

「レンド、人の不幸を笑っちゃ駄目よ……くすっ」

「アプレ姉まで~!」


 伯父さん。

 本当、家族って良いもんだね。


「……伯父さんの家と、伯父さんがくれた道場を、守っていかなくちゃな……」


 そして、何よりもこの尊い光景を。


※―※―※


「すぅ、すぅ……」

「………………」

「ゴガ~、ゴガ~」


 女子部屋と男子部屋でそれぞれ寝ている弟子たちを確認した俺は、一人思案する。


「そういや、アプレももう十四歳だし、寝たかどうかの確認も、ドアを開けずに音だけで確認した方が良いのかもな……」


 十歳の頃から見ているし、家族みたいな感じでちょっと慣れ過ぎてしまったが、彼女もお年頃だ。もう少し気を遣った方が良いかもな。


 今後のことを考えつつ、俺は鍛練のために道場へと赴いた。


「は! は! は!」

 

 筋トレを終えた後、正拳突きを繰り返す。

 一人で集中出来るこの時間は、とても貴重だ。


 三時間経った俺が、道場に礼をしてその場を去り、井戸水で汗を流し、家の中に入った直後。


 コンコン


「誰だ、こんな夜更けに?」


 玄関のドアを開けると。


「夜分に大変申し訳ございません」

「!」


 ――妖精がいた。

 

 否、よく見たら人間の少女だったが、あまりの美しさに、人ならざる存在だと一瞬誤認した。


 月光が照らす青色のロングヘアは、上品に煌めいている。

 切れ長の瞳は銀色で、まるで氷のように静かな光を宿す。


 全身から気品が溢れており、ドレスが似合いそうな淑女だが、その実軽装だ。

 ただ、その豊かな胸を胸当てで覆っていることから、普通の旅人ではなく〝戦闘〟を意識していることが分かる。


 彼女は、武闘家だ。

 俺は、直感で確信した。


「お久しぶりです、師匠!」


 桃色の唇を綻ばせる彼女に、俺は戸惑う。


「いや、その……どちら様?」

「! そ、そんな……!?」


 ガクン、と膝をついた彼女は、まるでこの世の終わりのような表情を浮かべる。


「わ、私はこの十年間、一日たりとも師匠のことを想わない時は無かったのに……! 師匠は忘れてしまったのですか!?」

「す、すまない」


 女を泣かせるとか、何やってるんだお前は! と、伯父さんが天国で怒っていそうだ。


 うーん、十年間……十年〝前〟か? 

 師匠ってことは、俺の弟子なんだろう。

 

 十年前……十年前……うーん、思い出せん。

 

 と、その時。


「……え? 氷?」


 玄関が凍り付いていた。


 というか、彼女からものすっごい冷気が放出されている。

 冷気を放つ少女……


 恐らく年齢は十七――いや、十八歳くらいか。

 ということは、出会ったのは、彼女が八歳くらいの頃。

 そして、〝冷気〟。


「……もしかして、アイシィか?」

「!」


 バッと立ち上がった美少女が、俺に抱き着く。


「そうです! アイシィです! 師匠なら思い出して頂けると信じていました!」


 歓喜の声を上げた彼女は、だがしかし、直ぐに離れる。


「わ、私ったら……はしたない真似をしてしまいまして、大変失礼いたしました……」

「いや、俺は気にしてないよ」

「それなら良かったです! でも、本当に嬉しかったんです……嬉し過ぎて、ゾクゾクしちゃいます」

「うん、物理的にな」


 頬に手をやり頬を紅潮させる彼女だが、その手も頬も氷に覆われている。

 そりゃゾクゾクするだろうよ。


 っていうか、〝感情が揺れると周囲を凍らせちゃう〟のか。

 中々個性的な育ち方をしたな、アイシィ。


「それにしても、急にどうしたんだ?」


 彼女は、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣に襲われていたところを俺が助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで獣と戦える力をつけさせたという縁があるが、言っちゃ悪いが、それだけの関係だ。


 そりゃ元気だったのは嬉しいが、俺のことなんて忘れていると思っていたんだが。

 何とも律儀な少女だ。


「えっと、その……実は、お願いがありまして……」


 もじもじしながら、アイシィが言葉を継ぐ。


「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」

「!?」


 え? 精霊?

 この子、精霊だったの!?

 いやまぁ、出会った時から、なんか耳が長いし、尖ってるな~とは思ってたけど。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 混乱する俺に構わず、アイシィはニッコリ笑いながら畳み掛けた。


「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」

「………………はい?」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※


(※お読みいただきありがとうございます! お餅ミトコンドリアです。


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