踪匝 御領島にて

第38話 船を盗んで

 大きめのキャリーケースを引っ張りながら、二人は電車に乗った。運命の悪戯なのか、そのキャリーケースは和哉が自殺する前に持っていたものと同じだった。


 そこからバスへと乗り継ぎ、海岸沿いまで歩いてきた。


 島に渡るには、小舟が必要だ。しかし彼らは、小舟など持っていないし、小舟があったって上手く漕げないだろう。


 見回すと、向こうの方に随分と立派そうな舟がある。船の四隅になにやら宝石の欠片のようなものが埋めてある。随分と立派だ。


 確か、御領島には神社があるらしいから、その関係者が使っている舟だろうか。


 周りに人の気配はない。よそ者に貸してくれるはずもない。つまり、こっそり使うしかない。


 そっと船に乗り込んで、ぎこちなく漕ぎ出した。島の神聖な雰囲気に合う、古風な船だ。


 二人の姿は、島の方へ遠ざかっていった。やがて、霧の向こうへと消えた。


 ──その先は、果たして彼らが思い描くようなところなのか

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