虚無の見習いの記録

@Nuno_

巻之地「地に生まれ、時に沈む」

2009年、ラパズは静かな町に生まれた。 石畳の道、古い時計台、そして誰も急がない空気。 彼の世界は、言葉よりも沈黙が多かった。 泣くよりも、見ることを選んだ。 話すよりも、聞くことを覚えた。


幼い頃、彼は時間の流れを感じる少年だった。 他の子供たちが走り回る中、ラパズは影を追っていた。 彼にとって、影は過去の形だった。 そして過去は、まだ語られていない物語だった。


学校では、彼は「静かな子」と呼ばれた。 でも彼の心の中では、言葉が剣のように研がれていた。 毎日、ノートに書き留める小さな思考。 「なぜ人は忘れるのか?」 「痛みは、時間とともに消えるのか?」


そして、2020年。 世界が止まった。 人々は家に閉じこもり、マスクの裏で沈黙が広がった。 ラパズはその沈黙の中で、自分の声を見つけた。 彼は初めて、物語を書き始めた。 それは剣ではなく、祈りだった。

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