遺言


 焼けた。


 綺麗に焼けました。


 あの話をしてはならぬと自覚していた筈でしたのに…。


 私は人々にあの話を語ってしまいました。


 仕方ないのです。


 あれを私の中で抱えるのは荷が重かったのです。


 だから私はあの場でお話いたした次第です。


 聞き手の皆様は…息を呑んで聞いていた方もおりましたし、なんだその話と薄ら馬鹿げた様な顔で聞いていた方もおりました。


 どの様に捉えても構いません。


 結局は…焼けてしまうのですから。


 あの柳の揺れる葉のように。


 滑らかに…波を立てるように…。


 ゆらゆらと揺れている姿はあの仏柳と変わらない。


 私は、そんな中…苦しく燃え盛る自身を鏡で見続ける。


 熱い…苦しい…けど、あの時見た仏柳と一緒の姿になってきて私は嬉しい。


 本当は語ってはいけないのです。


 あの柳は柳ではありません。


 『仏柳』なのです。


 『仏柳』は柳ではありません。


 あれは人を垂らすのです。


 人を垂らして、人を誑かして、人を惑わす柳非ずの柳なのです。


 私もその様な『仏柳』になれるか分かりません。


 それでも『仏柳』になるには人の耳に入らなければいけなかったのです。


 私の住んでいた町の人々は全員柳によって惑わされ、垂らされてしまいました。


 それでもあの町には人が住み着きます。


 柳が誘っているのです。


 垂らす相手を見つけ、増える為に…。


 私もその一つとなる為に燃えることにいたします。


 では皆様…また会う時はきっと私が貴方方の誰かを垂らすときでしょう…さようなら。


 熱い…あつい…あつ…



 

 


 

 

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世、妖(あやかし)おらず ー仏柳の火影ー 銀満ノ錦平 @ginnmani

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