7日目の月は最恐最速ゾンビ世界で100日間サバイバル生活

れおまる

プロローグ

闇を裂く銃声が響く。

乾いた連射音が、夜を切り裂いた。


「はぁ…はぁ…」


だが群れは止まらない。

腐臭を放つ影が波のように押し寄せる。

銃口から吐き出される火花は、

夜に溺れる命の灯火ともしびにすぎなかった。


「はぁ…はぁ…」

「くそっ……弾が減ってく!」

心臓が喉までせり上がる。

内心では怯えを噛み殺しながら、

俺は冷静に弾倉マガジンを抜く。


カチリ。

数えるまでもない。足りないッ。

弾倉マガジンを戻し、

腰のポーチに手を伸ばす。


だが、そこもから

薬莢も火薬も、今は残されていない。


「やべぇ……残弾ゼロ。

 これで詰んだら笑えねぇぞ」


ほんの一瞬、頭に冷たい汗が流れる。

理屈で考えれば、ここで詰み。

けれど、体はまだ諦めない。


壁を背に、身を隠しながら目を閉じる。

(まだ備蓄はある。まだ終わりじゃない。)

俺は歯を食いしばる。

だが、目の前の現実は残酷だ。


「しかしどうするよっ? この数っ!?

……しかも“ポルータ”まで混じって来やがる」

吐き捨てるような声。

掠れた声が、闇に溶けた。


ポルータ……奴らは群れの中でも最悪だ。


赤黒いうみをまき散らし、

近寄った者を汚染ごと呑み込む。

一体混ざるだけで、戦況は地獄に変わる。


赤黒い月が街を照らす。

血と鉄と腐肉の匂い。

それがこの世界の“夜”だった。


「……クソ……どう切り抜ける」

「考えろ…考えろ…考えろ…」

疲労と緊張で、声が震える。


冗談半分で軽口を叩く余裕も、

もう削ぎ落とされていた。


大きく、ゆっくりと…深呼吸する

息が荒れた喉を通り、

肺を焼くように満たしていく。


緊迫感が漂う中、

ほんの一瞬、頭をかすめる。

会社を辞め、

人付き合いも断ち切り、

ただ部屋にこもっていたあの日々。


画面の向こうに逃げ場を求め、

数千時間を費やしたゾンビゲーム。


それが…こんな形で現実…

否、超現実になるなんて。


その頃の俺は、まだ知らなかった。

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