第五章
私がワンマンライブをすると宣言した一週間後。現状確認でバーに集まる私たち。今の課題はやはり
「集客、ですね」
大問題と言ってもいい課題だ。ブッキングライブでは何人か私の歌を見に来てくれる人はいるが、それは他のアーティストがいたからこそ。
私一人の、しかもいつもとは違う場所にお客さんを呼べるのか。
(だ、大丈夫!ワンマンをやるって決めたんだから、弱気になるな私!)
心の中ではっぱをかける。すでに友達たちには連絡したし、音楽仲間にも連絡と宣伝をお願いした。行けたら行くって連絡貰ってるし!
・・・来てくれるよね?
「集客もだけど、曲はどう?セトリとかも考えた?」
「そっちは今もずーっと練ってます。むしろ楽しいです」
そんな自問自答をするなか、古賀さんがライブ準備の質問をしてきた。これに関しては問題ない。私はライブで何を歌うかを考えるのは好きな方で、四六時中考えても苦にならないし。こうしようとかああしようとか、そんな構想が無限に出てくる。
「それに新曲も出す予定ですよ!これは自身の一曲ができた、って感じです!」
「へえ!それは楽しみだ」
力作の一曲、これはライブの最後に魅せる予定だ。むしろ早く公開したいくらいの出来。ぜひともみんなに聞いて欲しい。
本当は古賀さんのための曲なのだけれど。
「そういえばさ」
すると古賀さんが疑問を持ってますというように質問してきた。
「普段どうやって宣伝してるの?」
「インスタですよ。あとは友人達にはラインで」
「ってことは、外部への連絡手段って」
「インスタしかしてないですね」
とはいえ、インスタなら音楽と共に宣伝ができる。どんな歌かも伝えることができて一石二鳥なツールだと思う。あとはラインとかメールとか電話とか。これ以外の宣伝といったら・・・ビラ配りだろうか?
でも古賀さんは浮かない表情。まるでもっといい方法があると言わんばかり。
「ツイッターはやってないの?」
「ツイッター?」
「えっ、陽菜ちゃん知らないの!?」
何ソレ?聞いたことがない。そんな反応をすると古賀さんは目を見開いて驚いた表情になった。そんな表情見たことないんですけど。
聞いた話だと、インスタと同じように情報を拡散できるアプリらしい。でも拡散の点ではツイッターよりも遥かに凌駕するとのこと。
「作ろう、アカウント。今すぐ」
「い、今ですか?でもギガが」
「宣伝するんでしょ。ほら早く」
そう気圧されて、アカウントを作る。名前とかアイコンはインスタと同じにしてプロフィールを作成。その流れでワンマンの情報となる文章を作成する。初投稿ということと、初のワンマンライブをするという情報を情報に載せる。こっちにも写真とか動画を載せられるから、それらも組み込んで、
「それじゃあ、投稿っと」
人生初のツイート。初めてインスタで投稿した時とは違い、宣伝が初めてになるとは。するとすぐに反応が。
「わっ!もういいねとリポスト?ってされました!」
お知らせ欄を見ると誰がいいねとリポストしたかが分かるようだ。その欄を覗いてみると
「K.Hって人がすぐに反応してくれました、って」
「それ俺」
「これ古賀さんのアカウントだったんですか」
どうりですぐに反応して貰えたわけだ。見ず知らずのアカウントに知って貰えたと思ったから、少し残念。
あ、でも古賀さんのアカウント分かったのは嬉しいかも。少しだけ覗いてみよーっと。どれどれ・・・
「あっ!新風さんのツイートだ!へぇー、他の人のツイートを宣伝することができるんだ」
過去にワンマンライブしてた時の宣伝が画面に映る。確かこれは二十周年のワンマンで、私もそこにいたのを思い出す。なんかアルバム見てるみたい。
でも古賀さんはあまりツイートしてないからか、少し遡るだけですぐに1年前のものが出てくる。もっと古賀さんのツイッターを知りたくなって遡っていくと・・・
(あっ)
2年前あたりにあった一つのツイート。ある女性のラッパーらしき人のものだった。その人のページに飛ぶ。そのツイートを境に更新がない。
(この人が、古賀さんの言っていた・・・)
どんな人だったのか、調べようとしたその時、ピロピロと通知が鳴る。どうやら別の人が私のツイートに反応した音らしい。今度は誰が反応してくれたのか確認してみることに
「えっ、ちょっと待って」
二人目の名前に思わず声が出る。
「この神風って名前の人ってもしかして」
「見して。ああ、神風さんだよ。あの」
「あの!?え!?なんで!?」
私さっきアカウント作ったばっかだよね!?
「俺がちょっとお願いしたからね。ちょうどツイッター開いていたから反応してくれたんだと思う」
「古賀さん、本当に何者なんですか!?」
「昔のよしみってやつさ」
昔のよしみでここまでしてくれるものなの?古賀さん、一体どんな手で仲良くなったのだろうか?人柄?
「本当にどうやって仲良くなったんです?」
「ライブ後にステージに降りた神風さんに感想言って、一緒に酒飲んで。それで」
「よ、陽キャすぎる・・・」
少し人見知りな私にとって、今の話は絵空事すぎる内容。結構グイグイ行けるたちなのか。
「とはいえ」
と、古賀さんは真剣な表情になって私の目を見る。
「俺がやれるのは宣伝の手伝いまで。あとは陽菜ちゃんの力量だからね」
うっ、なかなかのプレッシャーをかけてくるじゃないですか。
でも、ここまでしてくれたのだから応えないわけにはいかない!絶対成功させてやるんだから!!
そして月日はあっというまに流れて・・・ライブ当日。本番数時間前。
今までとは非にならない緊張が走る。いつもは練習にも持ち時間があって、調整とかですぐに終わってしまう。でも今日は違う。時間がさらに短くなっているようで。準備してると一瞬で時計の針が進んでいる。音の調整、喉の調整、ギターの調整。それだけでもう開演前になる。
幸いなことにお客さんは集まった。ツイッターの宣伝と、神風さんの拡散のおかげでこの店のキャパちょうどの人数が私の歌のためだけに来てくれた。友達だけじゃなく、そこには初めての顔ぶれも。彼らは古賀さんと話してて、昔ライブで一緒だった仲間たちだとのこと。
そんな人たちの前でライブ。歌いたい気持ちと、できるのだろうかという不安な気持ち。矛盾した感覚。やたらと口が乾く。
初ステージ以上の緊張に体が支配される。
「陽菜ちゃん」
そんな中で私を呼ぶ声がする。マスターがいつものキッチンから、そしてその奥では古賀さんが座っている。
「陽菜ちゃん、リラックス。いつものようにすればいいさ」
マスターから気楽な言葉。でも今日だけはありがたいかも。でもここからじゃ古賀さんは声が届かないな・・・
すると、古賀さんはごそごそと何かを取り出す。取り出したのは、フリップ。
「陽菜へ」
大きく私の名前が書かれている。お客さんは後ろを振り向かないと見えない位置にいて、実質私しか見えていない。私が見えていると確認した古賀さんは、もう一枚のフリップを見せた。そこには
「楽しんでこい」
私への簡単な激励。
そうだ、この日のために頑張ってきたんだ。あとは全部を出すだけ。
古賀さんへの思いも、歌に乗せて。私は歌を楽しむのだ。
「初めましての方は初めまして!HiNaと申します!50分間、よろしくお願いします!!」
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