SAVE YOUR HEART
ユキ
プロローグ
「今日は…ここでやろう」
人通りがまばらな路上。私は大きなギターケースを開けてギターやマイクを取り出して準備にかかる。
私の名前は『
「昨日は散々だったな……」
思わず弱音が漏れてしまう。
昨日のブッキングライブは全然ダメだった。集客も頑張ったのに私目当てのお客さんはゼロ。最初の演者だったからお客さんの心を掴もうとしたけど手応え無し。どう見ても私以外の演者の方が盛り上がっていた。
「イタタ……」
ノルマを捌ききれなかったチケット代は私が払う金銭的な辛さと、私より人気のある人が多くいることの精神的辛さのデュエットで深酒した昨日。どこかのラッパーも言っていた、『演者は終わったらバーカンで酒飲んで貢献しろ』だけはできたものの、絶賛二日酔い。本当なら帰って寝るのがいいのだろうけど、今日は人前で歌うと決めていた日。どんな状況でも決めたことをやらないのは不誠実だ。それに、外で歌えば人の目につく。
誰かが私の歌を見てくれると信じている。
そう信じて……
信じて…………
信じて…………
・・・
そんな淡い期待を打ち砕くかのように人が通り過ぎてく。
ストリートからギターと身一つで成り上がる。そんな事は漫画かよほどの実力がある人しか起こらない事は分かってはいる。
頭ではわかっていても、心は理想を求めている
気づけばもう四曲目。カバーとか一切なく、全て私が一から作ったというちっぽけなプライドだけでやってきた。けど、今日はもう限界だ。
(もう、辞めようかな……)
泣きそうになるのをグッと堪えて最後の曲の弾き語りをする。どうせこの曲も虚空に消えていくのだろう。そんな音楽と向き合えていない頭で歌を歌う。私の前を歩く人達。
その中で一人、私の目に入ってくる人がいた。鞄を持ってスマホ見ながら歩くサラリーマン。歳以上に疲れた表情をしている、死んだ顔のただのサラリーマン。私にとっては有象無象の一人。
になるはずだった。
「………!」
そんなサラリーマンが私の前で足を止める。
(えっ?)
スマホから目を離して私を見る。いや、私の歌を聴いている……?そんな事実に歌詞が飛びそうになるも、なんとか最後の歌を歌い切る。どうせ物珍しさで止まっただけ、擦れた思いで一礼をする。
パチパチ
(えっ?えっ??)
頭上から何か空気が小さく破裂したかのような音が続く。ガバッと勢いよく顔を上げて、音の正体を確認した。
サラリーマンの方が拍手している。そして一言。
「いい歌詞ですね」
それが彼との、「
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