生まれ変わるもの
山の下馳夫
第1話 生まれ変わるもの
マイナス50㎏のダイエットに成功したことで、久しぶりに会う人には必ず驚かれるようになった。あまりに似た反応が続くので、最近では他人が驚愕する様子を見るのが面倒になってきたほどだ。
「この体型の変化にビビらないのはお前くらいだよ、トモヤ。どうせ痩せたのにも気づいてなかっただろ?」
大学時代からの友人、トモヤと一年ぶりに再会し、彼が特に俺を見て何も言わなかったので、あえて自分から聞いてみた。彼は今までも、肥満していた俺の体型に言及したことはなく、他者の見てくれには興味がないのだろうと思っていた。
「いや、今回はさすがに気づいたわ」
だが、それは勘違いだったらしい。彼から新鮮な反応を引き出した。
「え、本当。それならそう言ってくれれば良かったのに。まあ、それなら話が早い。今日は服選びを手伝って欲しくてな」
俺もトモヤも身長は同じくらいで、ダイエットが成功した今となってはスタイルも近かった。また、大学在学中からファッションに興味のあった彼は、卒業後、営業職に就いたこともあって、身だしなみはいつも整い、友人の中で服の事を聞くのに一番頼りになりそうだった。
「そうは言っても俺が行く服屋って別に普通のとこだけど」
トモヤはそう言って馴染みの服屋を羅列していった。名前は知っているが、どれも入店すらしたことのない店ばかりだ。
「いや、助かる。4Ⅼ以上の取り扱いがない店には行ったことがなくてな、見当もつかないんだ」
かつての俺は体重130キロを優に超え、4Ⅼ以下のサイズの服は着られなかった。
「たしかに……、今もその服、オーバーサイズの服をわざと着ているわけじゃないでしょ?」
「ああ、前はパツパツになって着ていたお気に入りさ、これ以外の服を着るとてるてる坊主みたいなシルエットになる」
外出することもあり、一番まともな服をきたつもりだったが、どうやらトモヤからしたらこういう特殊なファッションに見えたらしい。
「俺、服を買う前には持っている服を同じ量処分するようにしているけど、そのあたりどうなの?」
「あ、そういや」
指摘されて気づいたが、自宅の収納には着られない服が詰まっている。自分自身が変化し、これから服装も変えるつもりだったが、今まで巨体を守り飾っていた服を、再利用や再使用することを忘れてはならないだろう。
「あの服たちも生まれ変わらせてやらないとな」
選択肢は無数にあるが、とりあえず、トモヤと俺の家に戻ることにした。
生まれ変わるもの 山の下馳夫 @yamanoshita05
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