月を噛む男

一筆書き推敲無し太郎

第1話

寒月の夜。火山研究に勤しむ次の夏に而立を迎える男が今日も月を見上げ悩んでいる。生命を懸けて仕事をしている以上自分の趣味や生活面は諦める事が多い。それでも地元に帰る度待ち侘びていてくれる意中の人に会うために頑張る自分が居る。が、原則として研究中は求縁を渇望する事は許されない。その目論見は誰にも知られてはいけない。何故ならば、今世界では氷河期が訪れており、火山を意図的に噴火させる役割を誰に押し付けるかで上司達は気が揉んでいた。そして、次に罰則をした者が役割を担うこととなり、見張る者、前のめりになる者。何れも焦燥感で仕事が務まらない者ばかりであった。犯人探しのような状況の中、男は特段焦っていた。次に古巣に帰る時、好い人に僅かながらのカラットの指輪を渡そうとしていたのである。いつ暴かれてしまうのか分からない中月だけはいつも変わらないなどと思っていた日々に、月を想い人と見立てて月を見上げればいつでも会えると思い上がっていた。


そして春。遂に告発されてしまった。犯人探しは火を帯び個人的な荷物まで手が伸びてしまう程激情的な物であった。男はプライバシーだと非難したがやっと見つかった犯人、氷河期を脱せられる喜び、様々な感情で壊れているように感じた。男は仕方なく従うことにするしかなかった。最後の日には月を見上げありがとうと乞いながら、レバーを引いていった。

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