第26話 鉄級冒険者との模擬戦

「相棒がスライムってのは驚いたが……仕事だから悪く思うなよ!」


 鉄級(アイアン)の男は木剣を構え直し、唇の端を上げる。

 手を抜くつもりはないようだ。

 昇格試験である以上、甘さは許されない――そんな責任感が、その表情から伝わってくる。


 すでにミオは相手の足元へとたどり着いていた。

 ぷるん、と体を震わせながら見上げる小さな姿に、観客席からはどよめきが起きる。

「ほんとに戦うのか?」「一撃で潰れるんじゃ……」


 けれどミオは怯んでいなかった。

 短い手をちょこんと上げ、まるで「やってみろ」と言わんばかりに構える。


 男が動いた。

 振り下ろされる木剣が風を裂き、訓練場に鋭い音を響かせる。

 僕の心臓が跳ねた。


「ムキュッ!」


 瞬間、ミオの体がぷるんと跳ね、攻撃を紙一重でかわす。

 観客席から「おおっ!」と声が上がった。


 鉄級冒険者の眉がぴくりと動く。

 ただのスライムが、反応できる速度ではなかったはずだ。

 だがミオは――ただのスライムじゃない。


 僕は拳を握りしめる。

「……ミオ!」

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