第22話 ぎっくり腰のおばあちゃんに代わって


 市場の一角にある小さなパン屋兼カフェ。

 よく顔を出すお店なんだけど、今日は様子が違った。


「さとーくん、ごめんねぇ……ぎっくり腰で動けなくなっちゃって……」

 おばあちゃんが顔をしかめながら、腰をさすっていた。


「え、大丈夫ですか? 無理しないで休んでください!」

 思わず声を上げたけれど、おばあちゃんは困ったように笑った。


「でもねぇ、ちょうど昼時で……お客さんにコーヒーを運べなくてねぇ」


「じゃあ、僕が代わりにやります。ミオも手伝えるし!」


「ムキュッ!」


 僕の肩に乗っていた水饅頭のミオが、元気よく飛び跳ねた。短い腕をぶんぶん振って、やる気いっぱいだ。



---


 そうして、急きょ臨時ウェイターをすることになった。


「3番テーブルにコーヒー二つとサンドイッチ、お願いね」

 おばあちゃんに頼まれて、僕はトレーを受け取る。


 横で、ミオはヒトデ型に変形すると――


トコトコトコッ


 軽快に走って、テーブルまで駆けていった。


 トレーの上のカップは、一滴もこぼれない。

 見ていたお客さんが思わず拍手をして、笑顔になった。


「すごい……」

「かわいいなぁ……」


 ミオは得意げに「ムキュッ!」と鳴いて、短い腕を腰に当ててポーズを決める。



---


 注文をすべて届け終えると、ミオは僕の肩にちょこんと戻ってきて、「ぷにゅ」と満足そうに鳴いた。


「ありがと、ミオ。助かったよ」

「ムキュ〜」


 おばあちゃんも笑顔で言う。

「ほんと助かったよ、さとーくん。それにミオちゃん。お礼にパンを持って帰っておくれ」


 袋いっぱいの焼きたてパンを渡されて、僕は照れ笑いした。

「ありがとうございます。また何かあったら声かけてください」


「ムキュッ!」


 ミオが胸を張るように鳴き、僕は思わず吹き出してしまった。

 こうして、ちょっと特別な一日が終わった。


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