第7話 パン屋さんとミオ
村の通りを歩いていると、香ばしい匂いが漂ってきた。
パン屋の軒先で、焼きたての丸パンが並んでいる。
空きっ腹だった僕は、思わず足を止めてしまった。
「いらっしゃい。見ない顔だね」
気さくなおばさんが声をかけてくれる。
僕は財布を探ろうとしたが、異世界に来てからお金なんて持っていないことに気づいて、肩を落とした。
「す、すみません……眺めてただけで」
「まあまあ、そんな顔しなくてもいいさ。昨夜、あんたが魔獣を追い払ったって聞いたよ。助かったよ、村の人みんな」
おばさんは笑って、小さな丸パンを袋に入れて差し出してくれた。
「これ、お礼。遠慮はいらないから」
「あ……ありがとうございます!」
袋を受け取ると、胸元のミオが「ムキュッ!」と身を乗り出してきた。
パンの香りに夢中らしい。
「ふふ、かわいいねぇ。食べるかい?」
おばさんがちぎったパンを差し出すと、ミオはぷるんと飛びつき、小さな口でむにむに食べ始めた。
その様子に、店先にいた子どもたちが「かわいい!」と歓声をあげる。
「おいしいか?」
「ムキュッ!」
うれしそうに弾んだミオは、残りのパンをちょこんと僕の手に押しやった。
……自分が食べたいのに、分けてくれているのだ。
「……ありがとう、ミオ」
胸の奥があたたかくなる。
おばさんはそんな僕らを見て、にこにこと笑った。
「ほんとに仲がいいんだねぇ。あんたたち、まるで兄弟みたいだよ」
「……そうかもしれません」
僕は思わず笑みを返した。
――異世界に来て、初めて心からおいしいと思えた。
そして、ミオと一緒だからこそ、食べられた気がした。
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