第5話 村を守るスライム

 それは数日後のことだった。

 夜の村を、けたたましい鐘の音が揺らした。


「魔獣だ! 魔獣が来たぞ!!」


 慌てて飛び出すと、柵を破って黒い影が入り込んでくる。

 大人の牛ほどもある巨狼。赤い目がぎらつき、唸り声をあげていた。

 村人たちは武器を手にしたが、恐怖で足がすくんでいる。


「……まずい」


 冒険者たちが剣を構えるが、巨狼の一撃で簡単に吹き飛ばされていく。

 僕は足が震えた。逃げることだってできる。だけど――


「ムキュッ!」


 胸元のミオが飛び出し、巨狼の前に立った。

 小さな体で、真正面から。


「だめだ、危ない!」

 叫んだ僕の声より早く、巨狼が牙をむいた。


 その瞬間――ミオの体が光を帯び、半透明の壁が広がった。

 巨狼の牙ははじき返され、まるで鉄の盾に当たったかのように火花を散らす。


「バ、バリア……?」


 村人たちが驚きの声をあげる。

 ミオはさらに体を震わせ、光の粒を弾丸のように飛ばした。

 「バシュッ」と音を立てて巨狼の額に直撃し、奴は大きく仰け反る。


「すごい……!」


 気づけば僕は声を張り上げていた。

 恐怖で動けなかった体が、自然と前へ出る。

「行こう、ミオ!」


「ムキュッ!」


 僕は手に落ちていた木の枝を掴み、巨狼に向かう。

 無謀かもしれない。でも、ミオが隣にいる。だから、怖くない。


 ミオがバリアで攻撃を防ぎ、その隙に僕が枝を振り下ろす。

 枝なんて武器にならない。でも、巨狼は次第に怯んでいった。

 最後はミオが体当たりをして、巨体を柵の外へ弾き飛ばす。


「……やった」


 静寂が戻る。

 倒れた村人たちも少しずつ立ち上がり、誰もが僕とミオを見つめていた。


「スライムが……魔獣を追い払った……?」

「なんて子だ……」


 ざわめきが広がり、やがて拍手が起こる。

 その中心で、僕はミオを抱き上げた。


「ありがとう、ミオ。君がいてくれて、本当に良かった」

「ムキュッ!」


 ぷるぷる震えながら、ミオは嬉しそうに鳴いた。

 ミオはただのスライムじゃない。

 でも、僕にとって、ただミオが隣にいるだけでじゅうぶんだった。

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