ポイ活で、異世界ファームを育成しよう!

櫛田こころ

第1話 始まりは家族からの依頼

 小鳥遊たかなし藍葉あいばには少し身体的な障害があった。生まれつきな上に、改善の余地がないと医者には断定されていた。


 片足の関節が少しおかしな方向に曲がっているため、介護杖がなくては歩けない。それ以外にも検査はしたが、特に病名はなかったものの……『障がい者』と言うくくりで線引きされることが早かったから、たくさんのことを諦めた。


 スポーツを含む、運動関連のほとんどを。


 しかし、温泉は家族全員で連れて行ってくれたので好きだった。その度に松葉杖を持って、女湯でも奇異の目を向けられることは少しだけ悲しかったが。


 義務教育はできるだけバリアフリーを選んで、勉強には支障がなかったからこなすことは出来た。それでも、進学以降の『就職』と言う壁にはどうしたってぶつかってしまう。


 短距離はともかく、通勤時間の長い会社への出勤は難しい。訓練してないわけではないが、ほとんど毎日では足に負担が大きい。


 だから、在宅ワークでも何かあるかとネットサーフィン中心に探していたところ。



「藍葉、にいちゃんとこのアプリでモニターになってくれん?」



 部屋で今日も就活していたところに、兄の美晴みはるが突拍子もないことを言い出した。高校から関西に進学した兄は、すっかり関西圏に染まったのか、イントネーションもほとんど向こうのを使う。


 そして、久しぶりの帰郷かと思えば。妹の藍葉にそんな提案をしてきたのだ。詳しい業務内容は聞いていないが、たしかIT業の開発担当だった気がする。



「なにそれ? あたしにメリットあるの?」



 皮肉な言い方になってしまうのは、就活がうまくいかないからだ。足の障がいを理由に、もう十件くらい断られたので少し苛立っている。障がい雇用枠でも身体障がいの雇用は多いようで少ない。


 車椅子前提の場合もあるが、藍葉は乗れなくないが操作は下手な方だった。



「めっちゃあるで〜? あんま歩けへん藍葉でも出来る『ポイ活』や」

「ポイ活? なにそれ、あたしに悪徳商法しろってこと??」

「いつの時代や。クーポン関連の世代から脱出しろよ。……ちゃうちゃう、広告の代わりに操作し易いミニゲームとか電子書籍の試し読みにしてん。課金の方もほぼ無し。あるとしたら、電子書籍購入程度や」

「……ポイ活ほとんどしたことないけど。それのどこで収入出るの??」



 ゲーマーでもないが、適度にスマホなどでゲームや電子書籍くらいは嗜む。それを踏まえて、妹に依頼するのにしてもまだ納得がいかない。


 労力はあまりなくても、使うのは結局『時間』に変わりないからだ。たったそれだけで、無料の『ポイント』を集める活動にしては弱い気がする。


 その質問を待っていたのか、兄はミニタブレットくらいの端末を藍葉の前に寄越してきた。



「言うと思ったわ〜。ミニゲームと読書からでええ。……ミッションとしてこのタブレットの中にある『ファーム育成』をしてほしいねん」

「……それもゲーム?」

「厳密に言うとちゃうけど……まあ、やり方としてはあっとる」

「……ふーん? ま、普段のお金は障がい年金とか他の貯金あるからいいけど。……これ、ベースが出来て続けられたら」

「わかっとーよ。上にも言っといたけど、進み方次第ではアルバイトから準社員くらいに昇格は検討するって」

「ん。それなら、マニュアル……無しがいーい? そこもテストする?」

「おん。そんな感じでええでー」



 普段のスマホにも、美晴の指示でアプリをインストールすることになったが名前が『ポイ活ファーム』と安直なのはどうにかならないかと思った藍葉であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る