実話ヘタレ男の成長記?「互いの角度は90度以上」昭和の恋愛未満の難キュンストーリー、邪魔物が入ってどうなる?
@Tokotoka
第1話 既に出会ってた2人
高度成長期の名残りを感じ、誰もが未來は、今より良くなると、まだ信じらていられた頃、私はその人と出会った。
蒸し暑くも無く、爽やかな6月半ばの夕方。
私は、毎日死に方を考えていたころ。
私は駅に着き、電車から降りた。
その時、バックから定期を出そうとして、ホームに定期を落とした。立ち上がりながら、斜め上を見たら、その人と目が合った。
お互い、目で「アッ」と気づいたのが、わかった。相手が何故「アッ」って顔になったのはわからない。
立ち上がったら、何となくな感じで、彼が声をかけてきた。
「朝、駅でよく見かける人やんね」
この人が、私のことを見知っていたとは、全く気づかなかった。何故声をかけられたのか、心当たりも無かった。
ただ、驚いた。
確かによく見かける人だった。夕方ではなく、朝の駅のホームで。中学に入学した頃から。
中学になり、私は市内の私立女子校に通うように。毎朝最寄りの駅から、電車を利用するようになった。
自宅は駅のすぐそば、徒歩1分ほどの距離にあり、小道を挟んた横に家。
すぐそこに線路が敷かれ、電車が走る。電車が通る度に、家も揺れるような近さだった。
中学1年の途中から、朝は1人で起きた。ステレオをタイマーでセットし、爆音で山下達郎の声や、イーグルスのギターを聞いて、目覚めるのが日課。
朝ご飯もお弁当もなく、毎日誰も起きてこない静かな家を出て、駅へ向かう。
パチンコ屋の前を通り、踏み切りを渡ると改札口に着く。
駅の改札には駅員さんがいて、定期券を見せて、ホームに繋がるスロープを登る途中で、並んでいる人たちの足元か見える。
その人に最初に気づいたのは、まだ中学に入学したばかり、1年生の頃だったか。
冬の制服だったので、おそらく秋頃。
とても大人びて見えた。
「この人は、高校生かなぁ」と思った。襟のバッチが2だったので、高校2年生だと思っていたら、友人に間違いを指摘された。
「あの数字は中学のだから、中2だし」
彼女はそう教えてくれた。
全く中学生には見えなかった。背が高い。180センチ以上はありそう。色白で、髪も少し茶色く、帽子無し。
当時の真面目な進学校の生徒は、まだ帽子を被っている人が多かった。大人びていて、見かける時はいつも1人だった。
学校の友人らしき人と、話しているのも、全く見た記憶がない。
いつも1人で、電車の先頭車両の、1番前のドアに乗る人の列に並んでいた。
周りを気にする様子もなく、いつも真っ直ぐ前だけを向いて、立っていた。
乗っている電車も、記憶にある限りでは、いつも同じ。私が遅刻ギリギリになる時間の電車で。
だから、中学時代は、たまに寝坊した時に遭遇するぐらい。
私たちはターミナル駅に着いて、バスを待つ。混雑していたから、始発駅でも1台目のバスには乗れない。
バス停に並んで、次のバスを待っていると、後から彼が、隣のバス停に並ぶ姿は、見かけてはいた。
中学入学当初は、遅刻しないようにと、私は早めの列車に乗った。
沿線通学仲間も増え、部活を始め、親が起こしてくれなくなり、遅い電車を利用することも増えた。
私が友達の乗る、いつもの電車に乗り遅れて、遅刻ギリギリの時間に行くと、その人を見かけるようになった。
高校生になり、ゴールデンウィーク明けに、彼氏に振られて。死に方を考えていた時期。通学も気乗りはしない。
「どうせ、学校へ行っても…」惰性で他にすることが無いから、何となく毎日電車に乗っただけ。バスで運ばれて、歩いたら学校に着く。ベルトコンベアーのように運ばれて、同じことを繰り返して、ただ行っただけ。
彼氏と2人でそれまで、いつも一緒に乗った電車だと、バス停でも近くになる。それが何となく嫌で。
結果、遅刻ギリギリの次の電車に乗るようになった。
5月の半ばあたりから。友達も一緒じゃないから1人で。
改札のスロープを登っていくと、目線が徐々に上がり、ホームに立つ人の足元に目がいく。
一番に目に入るのが、先頭車両の先頭ドアに並ぶ人達の足元。そして、その列の中ほどに、その人はいつもいた。
足元が見えると、彼が立っているのがわかる。この時代も今も、男子学生の靴下と言えば、白が定番。
ローファーの学校で、黒や紺が指定されている学校もあった。彼だとすぐにわかるのは、靴下だった。
派手な靴下は、その人の旗印だ。まず真っ赤、次に見た時にはたくあんのような黄色、次は青。
信号機を狙ってる?赤、黄色の次は、緑かと思いきや、青だった。
まだ、スニーカーとは呼ばれず、白っぽい運動靴に、ド派手な色の靴下。
靴下を目立たせたいのか、ズボンはかなり丈が短く、裾は細くてロンドンのモッズの人のような足元。
並ぶ列の彼の周りには、透明なバリアが張り巡らされてるように、周囲の通勤客も、彼とは少し距離を置いて立っている。スポットライトを浴びて立つ、人のようにも見えた。
身体は大きいけど、細身で色白、ちょっと中性的な雰囲気が、萩尾望都の漫画の世界の人を思わせるような、顔つきで。冷静そうで、落ち着いた雰囲気。もう少し男っぽい感じだったけど。
話しかけられた時は、高校2年だったから。
私が中学に入ると、漫画好き以外の子にも、萩尾望都作品は人気があり、ちょうど「ポーの一族」か完結した時期でもあり。
この作品は、永遠に10代半ばから、歳を取らない、吸血鬼?バンパネラの話。
もちろん私も読んだけど、ハマった子たちのように、信者になることはなかった。
その人は、のどかな郊外の駅の、通勤電車の列の中で、異質な物を感じさせた。
「ポーの一族」の主人公のような、青い目ではなく、ボウイのように、左右違う目の色ではなかったけど。
「変わった人だなぁ」
それが、よく見かけるようになった頃の印象。いつも真っ直ぐに前を見ている横顔、目つきは鋭く、周りのことを気にしている様子には見えない。あの眼鏡のフレームの向こうに、その人は何を見ていたのだろうか。
私には気になると、おじさんでも、女子高校生でも、子供でもついじっと見てしまう悪い癖がある。大抵の人は視線を感じると、こちらを見る。
その表情が、不快のサインの時は、視線を外し、友好的に感じたら、しばらく見ている。
彼は視線を感じないのか、私が眺めていても一度も気づいた様子もなく、こちらを見ることもなかった。
目が合ったこともない。ニコリとした顔も見たことはなく、表情はいつも硬かった。
怖そうだなぁと。目つきが鋭かったから。尖った内部を感じさせる。発する雰囲気に、少し刺々しさがあったからだ。
人と話しているところは、見たことはなかったけど、内に何か主張したいことを隠していそうな人だった。
ド派手な靴下が目につくのは、ズボンの丈が短いから。成長して、短くなったのではない。
彼は当時は、もう高校2年だったし。
私より1学年上。
オシャレとして、自己主張としての丈だ。靴下にもこだわりがあり、自分で選んだとしか考えられない。
高校生になっても、母親の選んだ物を、黙って履くタイプではなさそうだし。
その進学校の生徒では、珍しかった。先生の言うことを聞いて、帽子を被り、白の靴下を履いて、仲間と群れて通学するような生徒たちとは違って。
彼は私の属する世界とは、異なるワールドにいる人間だと、私は以前から勝手に感じでいて。
異世界。テニスやスケボー、外でやるスポーツが好きで、年中真っ黒だった私。
色白で、スポーツに縁のなさそうな彼。
流行り始めた、サーファー風ファッションに憧れた私と、どこかアート系の匂いのする彼。
趣味が違うと言うのだろう。見た目も、好みも、全く合いそうにはなかった。
一生話すこともない。見かけてはいたけど、多分私とは、混じり合うことのない世界の人だと。
人間には匂いがある。自分と同種かどうか?外見や表情、しぐさから、人は瞬時に判断し、要注意か友好的か、敵か味方かを見分けて生きている。
高校生は高校生なりに見分ける。少ない経験でも、判断はするしかない。その判断が、正解か不正解かは、時間が経たなければわからないのだけれど。
生きていくとは、多分そう言う繰り返しの上にある。それぞれ、間違いを犯しながら、少しずつ学び、多分一生大人になっても続くのだろう。
※※※※※※
異質で混じり合うことはない、と直感した相手との出合いは、駅で始まった。
郊外から市内に続く路線で、混んではいたけど、ぎゅうぎゅうではない。
駅前には、大した店がある訳ではない。
が、新興住宅地ほど田舎でもない駅で。
駅から少し離れた場所に、昔ながらの小さな商店街があり、駅の周りにはパチンコ屋、小さな本屋、喫茶店、ゲームセンター、自転車屋さんがある程度の。
急行も準急も、大抵の電車は止まるぐらいは大きな駅。が、特急が止まるようなターミナル駅でもない、ごく平凡な人が住むような、平凡な土地。
その人が話しかけてきた時、驚いた私は、立ち上がりながら、何故この人は、私を知っているのか?
そんな疑問で、頭はいっぱいだった。
「駅でよく見かける人やね」
と、優しいイントネーションで言った。
想像していた声とも、話し方とも全く違った。
こんなに優しい声と、話し方をするとは思いもせずにいた私は、しばらく言葉に詰まった。
見た目は個性的であり、学校は超進学校だし、毎朝見かけてはいても、彼が並ぶ列やドアにはほぼ乗らない。
先頭は1番混んでいる上に、痴漢に遭遇する率が高いから。
だから、彼をホームで見かけていても、通り越して、別の車両に乗っていて。
たまに、電車に乗るのも、ギリギリな時間だと、仕方なく同じドアから乗る程度。
私は、彼を見ていたけど、向こうは視線を感じても。こっちを見たことは無い。
いったい彼は、いつ私を見ていたのか?
謎で頭はいっぱいだけど、面と向かって
「何故、私を知ってるの?」とは聴けなかった。
「そうですね」
と、私は間の抜けた返事をした。
いつも横顔しか、見たことがなかった顔、鋭く生真面目に、前を見ていた目が笑っていた。
端正な顔立ちと言う、ありきたりな表現が当てはまるような、ありきたりじゃない顔で。
細いせいもあって、鼻先も細く、顎もシャープ。頬にもほぼ肉は付いていない。
ただ見ていたころの、勝手な思い込みとは真逆の感じの彼がそこにいた。
私は戸惑った。
そのままホームの端へ歩き、その人は柵の前で立ち止まった。
2人は柵に向かって立っていて、お互いの目線は、正面では無く。
立つ位置も、だいたい90度の角度。
だから、真横では無いけど、斜め横の顔しか見えない。
「僕の名前はS村K宏やけど、そっちはなんて言う名前?」
自己紹介が始まった。が、謎は解けない。何故知ってたのか?と言う、素朴な疑問。こっちが気づいて無い時に、見てたとか?
「私は、M田E子です。」
会話が、超ぎこちなくて、彼が話かけて来た目的も、よくわからない。
知らない男子学生から、話しかけられたことはある、友達も、話しかけられたりした話も、色々聞いてはいた。
大抵は、相手の人が駅やバス停で、待ってたりした話。私は、テニスの試合会場で座っていて、話かけられたり。
駅を降りたら、たまたま2人だけ。
偶然私が定期券を、落としてなかったら、私は彼が同じ電車に乗っていたのも、知らないままだった可能性はある。
相手が後ろから、追いかけて来たら、わかったんだろうけど。
話かけられたのも、偶然の感じで。
待ち構えていて声を掛けるなら、ターミナル駅のホームか、降りた駅の改札近くで、待っていたりするはず。
「家は、どこらへんなん?」
私はその場所からも、少し見える家を指差して、「アソコ。走ったら30秒ぐらいかなぁ…」と答えた。
「えーめちゃくちゃ近いやん!」と、ちょっとおばちゃんみたいな、話し方とイントネーションで、ビックリした。
「S村君は?家はどのへん?」
「僕の家は、あの国道を曲がって、少し行って、左に入ったあたり」
と、再びおばちゃん的な話し方。名前の次に家を聞くのは、まあわかる。普通の会話ではある。友達なら。
「駅から、どれぐらいかかるの?」
「10分ぐらいかなぁ…歩きで。」
「なら、私の小学生時代の友達の、家の近くかも?A山さんって言うの。確かお兄ちゃんは、同じ学校やった気がするけど」と私が説明すると、彼はちょっと面倒そうな感じで、
「知ってるし、近くやねん。実はな、ウチのおばあちゃんと、あの家のおばあちゃんは、良く話をするから…」
彼は、私の仲良しだった子の、ご近所さんだった。
彼女とは塾も同じで、6年生で転校して来た私を、仲間にしてくれたし、ウチでは買って貰えない、週間の漫画雑誌も2人でよく読んだ。
お兄ちゃんの文句は、散々聞かされたけど、そのお兄ちゃんから、「少年チャンピオン」なんかも、くすねて持って来てくれた。
「すぐに持って帰らないと、殺されるからな」って言って、持って帰ってたけど。
一緒に、流行ってたコックリさんも、やった仲。イコール好きな男子が、誰かもお互いに知ってた仲で。
私は塾が同じで、学校の隣のクラスの男子、彼女は塾の別の学校の男子と、占ったり。
私の変わった発言にも、特段驚くことも無く、「面白いやん」って言ってくれる子だったから、出来れば同じ学校に進学したいから、誘っていた。
「私と一緒に、あの学校へ行こう」って。
が、彼女は成績は、あまり変わらないけど、苦手科目があり、ギリギリの判定だったから、別の学校に進学。
学校の場所が、離れてたせいもあって、朝夕もその学校の子たちとは、ほぼ会えなくて。
懐かしい名前に、何だか親近感か湧いた。
『アソコのお兄ちゃんが、超進学校に入ったから、ウチのおばあちゃんまで、絶対に同じ学校へ行け!勉強しろってうるさくて、迷惑やってん」と聞かされた。
それが面倒なのは、よくわかった。
実際には同じ学校に入ったから、多分おばあさん同士の、マウント対決は次の大学へ、持ち越された感じで。
彼は愚痴らなかったけど、多分色々大学のことも言われていたか?で。
そんな話をする話し方に、ふと疑問が湧いた。
「この人もしかして、お姉エ?」
中性的な見た目。
話し方はおじさんにはたまにいるけど、高校生男子では遭遇したことの無いような、柔らかくおばちゃんのようなイントネーションと、話しかたに、声も優しい。
テレビでは、当時も既に美輪明宏や、ピーター、カルーセル麻紀を見ていたから、もしかしたらこの人も?と考えて。
馬鹿な女子高生の考えることは、所詮この程度。
だいたい、世間話は続いてるけど、付き合って欲しいとかも、言わないし。
実際には知らなかったけど、可能性はある。彼の様子を、よく観察してみた。
2人の角度は、90度の斜め横からだけど。
「あ!眼鏡が変わってる」
初めて見かけた中学時代は、確か太めの銀縁で四角い、銀行のおじさんがかけているような眼鏡だった。
最近も見てはいたけど、真横からだと、ちゃんとわかってなかった。
形がジョン・レノンがかけていたイメージが1番強い、細い金縁の丸眼鏡になっていた。
最近、ちょっと険しさが和らいで見えたのは、多分この眼鏡のせいかも?と。
「兄弟はいるん?僕は一人っ子なんやけど、M田さんは?」
「ウチは、女3人の1番上」
身上調査か、担任の家庭訪問みたいな、質問が続き。
身体をクネらせたりもしないし、言葉は声は優しいけど、話す内容は普通の高校生かも?と。
いきなり、「お姉エですか?」とは聞けないし、どうやらそうでは無さそうだけど。
僕とは言うけど、初対面のせいか俺とは言わない。
お互いに自己紹介をし合ったが、目を真っ直ぐには見られなかった。向こうも同じ感じだから、多分意識はしてくれてるようには見えた。
こんな場所で、いきなりお姉エな男子に話しかけられたら、ますますどうしたら、良いのかわからなくなるし。
私の変な勘繰りは、違っていたようで、ちょっと安心した。
そして、趣味の話になった。
話の展開はまるでお見合いみたい?そんな経験はなかったけど、テレビで観るお見合いの展開のようだった。
「僕は、音楽が好きやねん」
まさかの。
真面目に本を、ずっと読んでいそうな雰囲気だったのに。学校も学校だから、哲学とかの小難しい本を読んでいそうだと、勝手に想像してたけど。
が、音楽とか言っても、クラッシックとかもある。私か苦手なバンクとかプログレもある。歌謡曲が好きそうには、見えなかったけど。
「えー音楽大好き。ラジオは毎日聴いてるよ」
と、好きなジャンルは、言わずに好きなことだけを答えた。が、やっぱりジャンルが気になるから、聞いてみた。
「どんな音楽が好きなの?」って。
その答えは、まさかでもあり、やっぱりでもあり。
「デビット・ボウイが好きやねん。知ってる?」
『わー超難問キタ〜!」
こうして、洋楽好きだけど、デビット・ボウイが好きな人と、出会った。
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