37 パーティ結成


廃墟となった商店の二階でノル、ししゃも・エンデバー、八重山ショウの三人は野営をしていた。小さな火を起こし、ししゃも・エンデバーの符術で結界を張り、一時ひととき三人は雑談交じりの安らぎの時間を過ごしていた。


「三人は少ないけどさ、云うてレベル63が三人だもんな、このパーティで倒せない相手はまず考えられないよな」ショウがビーフジャーキーをむしりながら言う。

「そうだね、近接戦闘できる人が居ないのがちょっとだけど」

「かと言ってレベル60以下の近接連れて行っても瞬殺されるぜ」ししゃも・エンデバーが焚き火に枝をべながら言う。

「二人に合流出来て良かったよ、他にも何人か来てくれたけどさ」

「ラジオで呼びかけてくれたからね、他の人はどうしたの?」ノルがマグカップのインスタントコーヒーを飲みながらショウに尋ねる。

「レベル60以下だったんだよな、みんなさ、正直死ぬと分かってる相手を連れていけないだろ?」

「まあ、レベル55が10人居てもレベル60一人で圧倒出来るからなぁ」

ししゃも・エンデバーは炎の明かりを見つめている。

「死んだらさ、ダーク・シーの時みたいに生き返る事が出来るのかな?」ノルがぽつりと言った。魔法や不思議な魔物が顕在化したこの世界では蘇生の奇跡ですら、あるのだろうか。

「正教会が何処かに有れば、もしかして、だけどな」ししゃも・エンデバーが言う様にダーク・シーの物語の中では死者は基本的にグリンデル正教会でのみ蘇生の奇跡の機会があった。然しそれも成功率は50%、そして蘇生に失敗すればブックキャストは永遠に消滅する。ある例外を除いては。


「遠距離から封殺だな、パロミデスには近付かせない」

話題を変えるようにショウが言った。

「私とショウ君はパロミデスを挟んで位置取りした方がいいね」ノルが答える。


《キキキキッ》

その時ししゃも・エンデバーの呪符が警告音を発した。

「何か来るぞ」

《タン、タン、タン》と階段を登る足音がする。咄嗟にショウは暗視アイテムを装備して弓を構え、ししゃも・エンデバーは体を分解して地面に散らばる。

暗黒よマルゥモ」ノルが呪文を詠唱し部屋は完全な闇に包まれた。焚き火の爆ぜる音だけが暗闇に響く。


「敵じゃないです」

そう言いながら両手を肩まで上げて、一人の女性が部屋に入って来た。

「キャストか」弓を引いたままショウが尋ねる。

「ラジオの呼び掛けを聞いて皆さんを探していました、パロミデス討伐隊ですよね、私も参加します」女がショウの方を向いて答えた。

「あんたは?」ショウが弓を下ろす。ノルは闇を解呪し、ししゃも・エンデバーは人間型に戻った。

「レベル62の蛇の騎士セルペンテキャバリオ、カルミラ・ダーク・ブルーです」

「おお~、騎士キャバリオだって!」ノルが歓喜する。

「騎士は心強いな」ししゃも・エンデバーも同調する。ショウはカルミラの瞳が紅く仄かに光るのに気付いた。〈暗闇も効果が無かったな…〉

「私はノル、高位魔女アルタウィチモ、歓迎するよ~」

両手を広げるノルを見た瞬間、カルミラはその場に硬直した。立ち尽くしたままその眼はノルの頭の先からつま先までを何度も何度も繰り返し凝視している。

「ん?どうした、知り合いだったか?」

ししゃも・エンデバーがカルミラの様子に気付く。カルミラは頬を紅潮させ小さく呟いた。

「タ……ぎる…」

「は?何て?」ショウが聞き直す。

「タイプすぎる…」

「ノ、ノル…ちゃん、ノルちゃん…」

カルミラは涎をこぼさんばかりに破顔し、何かを揉む様に盛んに指を動かしてノルの全身を舐め回すように観察している。猫の様などんぐり型の吊り目、厚い唇、褐色の肌と均整の取れたスタイル、どこを取ってもノルは完全にカルミラの理想の女性そのものだった。

「ノルちゃん、歳はいくつ?高位魔女アルタウィチモなんてすごいね、専門魔術は?好きな食べ物なに?」ノルの両手を握りながらカルミラが矢継ぎ早に質問し、ノルがそれに答える。まるで他の二人は目に入って居ない様子だ。


「ま、まあ何だ、よろしく頼むぜ」

ししゃも・エンデバーの言葉で初めて彼を一瞥したカルミラは

「へぇ、機動要塞、珍しいですね」と少しだけ驚いた顔をした。

絡繰人型マシーノホーマだ」間違えるな、と言わんばかりの語気でししゃも・エンデバーが答える。そのししゃも・エンデバーの言葉には耳を貸さず、カルミラはノルの手をギュウっと握り

「ノルルだけは絶対に守護しゅごるからね、マジで」と顔をくっつけて言った。


「オレ等も護ってくれよ…」ショウとししゃも・エンデバーが同時に呟いた。

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