第2話

最初に動いたのは桃太郎であった。

桃太郎の腕が一瞬ぶれ、気づけばシリリアンルージュの目の前には大きなトマトがあった。

しかし、彼は冷静に手に持った杖でトマトを払う。

結果、桃太郎の投げた特大のトマトは壁際で破裂に壁に大きな穴を開けた。


しかし、シリリアンルージュは動じない。

今度はシリリアンルージュが杖を床に一突きすると天井からトマトが落ちてきた。


先ほどのか階段を流れるミニトマトと違い、桃太郎のトマトと引けを取らない大きさのものばかりであった。


あちらこちらでトマトがあった爆発に床に危険地帯を作る。

しかし、桃太郎はしっかりと安全地帯を見出し、そこに身を滑らした。


しかし、シリリアンルージュはニヤリと笑う。

「おや、わざわざ罠に突っ込んでくれるとはな。」


桃太郎が動き出す前に部屋の中にある調度品の一つであるランプが内側から爆ぜた。


桃太郎はその衝撃でトマトの雨へ身を投げ出してしまう。


「ぐぅっ、」


一つ三つとトマトがあった彼の身を打つ。大きく中の詰まったトマトは当たるだけでダメージを与える。


そんな彼の服の内側から同じ様にトマトが飛び出してきた。

それは爆ぜ、周りに落ちるトマトを吹き飛ばす。


桃太郎はボロボロになりながらも立ち上がった。

しかし、彼の体は所々腫れ、血を流している。


「さすがここまでたどり着けただけあるね、頑丈だ」


その後は互いにトマトを投げ合う一進一退の攻防が続いた。桃太郎がトマトを投げればシリリアンルージュが打ち返し、シリリアンルージュがトマトを投げれば桃太郎は持ち前の身体能力で避ける。

事態は膠着したように思えた。

しかし、そのバランスは不意に崩れる。


シリリアンルージュの投げたトマトを避けた桃太郎だが爆発したトマトによって脆くなった床を踏んでしまい、バランスを崩してしまった。

そこに追撃のようにトマトが跳ぶ。


「何の!」


桃太郎は叫ぶ。

今日一特大のトマトを取り出し、シリリアンルージュの攻撃が来る前に破裂させた。

その爆風により部屋の中の調度品は倒れ、攻撃は打ち消され、桃太郎は壁際に移動することに成功した。


「何と、そのような大きいトマトをを作り出せるとは恐れ入った。」


「では」とシリリアンルージュは懐から何かを取り出した。


それは、

光を反射させる

黄金のトマト。


黄色いトマトとは異なり、明らかな光沢を持ち、それは部屋の中の風景を映し出すほどであった。


シリリアンルージュはそれに思い切りかぶりつく。

「君は知らないだろう。この黄金のトマトを。」


桃太郎は唾を吞む。


「これは私の能力を凝縮させて作り出したもの。これを喰らうことで――」


シリリアンルージュの放つ威圧感が驚くほど増大した。


「――覚醒する。」


桃太郎は何も言わない、何が来るか分からない。


「っつ!」


気付けば桃太郎の真となりにシリリアンルージュがいた。彼は杖を振りかざしてくる。

桃太郎はとっさにしゃがんだ。

その頭上を 轟 という音を立てて杖が通り過ぎる。


「なんだそれは」


シリリアンルージュは不敵に笑う


「君にはできないだろうね。これは強者のみが口にできるトマトだ。」

そう言うシリリアンルージュの手にはまだ食べかけのトマトが残っている。


彼はわざとらしくもう一度口にし、嚥下する。


桃太郎は更にシリリアンルージュの威圧が増したのを感じた。

もはやそれは一般人なら気絶するレベルに至っている。


桃太郎は自分の無力感を感じた。

自分はまだ未熟であると。

そして熟れることで至れる極地があると。


ただ、桃太郎には使命がある。

万人にトマトを楽しんでもらうという使命が。


故に、ここで立ち止まるわけにはいかない。

越えなければいけない壁があるなら超えてやる。


桃太郎は叫んだ。

「お前だけにできると思うなよ!!」


桃太郎はあたり一体にトマトをまき散らした。

無数のトマトが散り、弾幕を作り上げる。


それすらシリリアンルージュはたった一つのトマトを投げるだけで散らしてしまった。


しかし、それはただの目くらまし、本懐は――


シャク


トマトを食う音がする。

しかし、シリリアンルージュは黄金のトマトを手に持っていない。

つまり、


「――ふ。」


光り輝く黄金のトマト、

桃太郎の手の中には強烈な存在感を放つトマトがあった。


彼はもう一度食う。

それはミニトマトサイズ。

しかし、シリリアンルージュと渡り合うには十分なものであった。


互いの姿がぶれる。あちらこちらで火花が散り、トマトが炸裂する。

もはや常人では何が起こったかさえ分からない規格外の戦い。

これがトマトの力。


シリリアンルージュは正確に対応している反面、内心では非常に焦っていた。

いきなり黄金のトマトを桃太郎が作り出したのだ。

それは自身の長く苦しい研鑽を否定しうるものだった。

彼は焦っていた。

故に、足元が崩れることに気が付くのに遅れた。

「くっ!」


桃太郎の姿が搔き消える。

次の瞬間には桃太郎はシリリアンルージュの腹に跳び蹴りを食らわしていた。


「ガッ、ハッ!」


シリリアンルージュの口から黄金のトマトが出てきてしまう。

シリリアンルージュは下階にたたきつけられた。


そして見た。

桃太郎がかかとを高く上げて、一撃の準備をしていることに。


黄金のトマトの力を半分ほど失った彼は桃太郎の強烈な踵落としを防ぐすべはない。


衝撃が走る。

シリリアンルージュ左肩が引きちぎられる。

彼の肩から赤い液体が噴き出る。

皮肉にも、それは破裂するトマトの色であった。

シリリアンルージュは自身のの敗北を悟った。


シリリアンルージュは死の間際に呟く。

「私を倒したところで悲劇は終わらない…世界にはもっと深い闇があるのだ…」


桃太郎はその言葉を聞いてまだ戦いが終わらないことを知る。

彼のトマトの物語はまだ始まったばかりなのだ。

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トマト nyao2 @afudaru

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