輝翼のテテュス~女を捨てて軍に入ったけど、年下王子から言い寄られて私の情緒はグチャグチャです~
三津朔夜
第1話求婚
空はいい。どこまでも
ただ惜しむらくは、面覆いの
初秋の空に、西から一際白雲が張り出す。雨を降らせるような陰鬱さはなく、山なりの形で静止しているようだから高積雲。
現在、それに向かってテテュスたちは草原を
背部に展開する
鋭い流線型で陽光に紅く輝く機体は
大型の拡張運動を含め全長三メートルを超す標準体型。脚部の
「シルキー42。ヴォーランデル少尉、状況を知らせろ」
<はーい。異常なーし。って、見たまんまじゃないですか?>
<ちょっとカルシラっ>
<し、失礼だよぅ~>
明るく
それもその
地上六十メートルの
テテュスは転身。脚部から爆炎を噴き上げ、上体を起こした背面飛行で減速せずに後方を
拡張運動肢で
全長は相似形で速度は
「貴様ら。解っているのか? 明日は
初心を忘れるな。言葉の裏に厳戒の意志を込めて
『半年間の速成訓練で新兵を使い物にしろ』
理不尽極まりない
(実際、彼女たちはよくやっている……)
自分が十五の時なら、こうはいかない。
最初の内は彼女たちを
「では、シルキー分隊はこれより帰投する。シルキー42、先行しろ」
<はいはーい♪ 了解ッ>
四機は空の上を大きく旋回。
「各員。くれぐれも、蛇行するなよ?」
軽く
≪イェス、マムッ!≫
よろしい。気迫
現在、高度六十メートル。これよりも低くても高くてもいけない。鮮やかな
基地が近付いて来ると管制官に接触。帰投許可をもらうと、各員に通達。
「まもなく基地領空に入る。シルキー42」
<みんな、ついて来て!>
カルシラの返答に気力の
途中、視界の端に蒼くくすんだ氷河湖が見えた。それを半円に囲む都市も。
セイヴァルブロート。歴史の古いアロナ湖上神殿を中心に発展した都市で
頭を振って感傷を追い払い、少女たちの着陸を見届けてから基地の演習場に降り立った。
「各員、無事で何よりだ」
「英気を養うためにも、これから三対一の実践演習を行う」
さっきの通信で許可は取り付けておいた。
<え――>
少女たちが絶句し、
「安心しろ。ちゃんと死力を尽くせば一本で終わらせてやる」
<本当に……?>
ああ。震える声に
だが結局。彼女たちはこの日、三本やる羽目になった。
〇 〇
午前中の訓練を終えたテテュスたちは格納庫に
スライム製の強化服は魔力の伝導効率が良く、更には優れた
シャワー室で汗を流したテテュスは、ストロベリーブロンドの髪を黒いリボンで結ぶ。
「あれ、隊長。リボン新調したんですか?」
未だに下着姿のカルシラがテテュスのリボンを見詰めて来る。
「よく気付いたな」
中々の注意力と観察眼だ。掌を差し出すので、
「へぇ~、カワイイ♪」
「意外とオシャレですね」
「ホントだ」
黄色い歓声を上げる部下三人。
「…………は?」
心外な評価に、テテュスは低く
返せ。
結び直す動作が、いつもより丁寧になっている事に自分でも気付き、思わず顔を
それから腕組みして硬直する三人に向き直る。嘆息しながら一人一人の顔を見回すと、皆一様に
「まったく。何が悲しくて軍装にオシャレを持ち込まねばならん。単純に身だしなみだ。分かったか?」
『アイ、マムッ!』
少女たちの声が反響する。見届けた後で鼻を鳴らし背を向けた。
「このリボンは、私が私である証だ」
鏡の中の自分を真っ直ぐ
全員が部屋を出ると、最後に忘れ物をないかを確認してから更衣室を後にする。昼時なので、四人の足は自然と食堂の方に向く。
「断っておくが。私は恋愛をしに軍に入ったのではない。
後ろから三人にドスの利いた声で言い聞かせる。口を
「アハティアラ中尉!」
「ん?」
後ろに振り返ると、駆け付けて来るのは青髪の二十代男性士官。額から突き出す単角は
「何用でしょうか、パーシオ中尉?」
向き直ってみれば、不愛想な表情に反し妙に
「いや、その……」
明らかに
「明日の、演習のことで……」
その割に、なかなか本題に入らない。煮え切らない態度が心に波紋を落とす。
「……?」
「もし俺が勝ったら、アナタを妻に迎えたいッッ!」
空気が止まり、沈黙が落ちた。
「…………はあっ⁉」
求婚の言葉を聞いた瞬間、テテュスは不快に胸がざわついた。拒絶の意思が背中を
『えええええええええええッッ⁉』
素っ
「そんなに仲良かったんですか?」
「違うッ!」
即座に否定。そもそも、中尉とは少し面識があるだけでまともな会話など一度もした事がない。
「アナタのその
「ああ……」
そういえば、何度か
「早計なのでは?」
遠回しに勘違いを指摘してみる。彼は
「運命というのは、だいたい一目惚れから始まるものです!」
そんな言説、一体どこから仕入れたのか。
言葉が通じず、テテュスは頭を抱えた。
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