第27話 真由姉さんはビンゴを解かせてドキドキさせたい(前編)
朝のダイニング。
テーブルには、あかりが用意した朝食が並んでいた。
湯気の立つみそ汁、ふわふわの卵焼き、焼き鮭、小鉢にひじきとほうれん草のおひたし。栄養バランスも彩りもばっちりで、朝から食欲をそそる。
「おはよー」
軽い声とともにドアが開き、真由姉さんが入ってくる。すでにラフなワンピース姿で、髪もゆるくまとめている。
「……えっ、なんで真由姉さんがここに?」
寝ぼけ気味の俺は思わず箸を止めた。
「あ、私、聞いてたよ。今日、真由お姉さんが寄ってくれるって。朝ごはんも準備してるよ」
あかりは悪びれずににっこり。
「えぇ!? 俺だけ知らされてないの?」
「サプライズってやつね」
真由姉さんは楽しそうに笑い、自然に椅子に腰を下ろした。
◇
食後、真由姉さんがバッグからスマホを取り出す。
「企業とコラボして作っているアプリのユーザーテストなの。二人でやってみて、難易度を教えてくれると助かるんだ」
「うーん……俺そういうの、ちょっと苦手で」
「ほら出た、蓮の面倒くさがりなところ」
すると、あかりが思い出したように口を開いた。
「ねぇお兄ちゃん。私ね、最近知ったの。このマンションの家賃って、佳奈さんと真由さんが全部出してくれてるんだって」
「――は?」
俺は箸を落としそうになった。
真由姉さんは涼しい顔で話す。
「私立大学の学費も高いのに、東京の家賃まで親に頼るのは負担が大きいでしょ。わがままな弟のためにサポートしてるのよ」
「……マジで。二人ともどれだけ稼いでるんだよ」
あかりが真剣な表情で続ける。
「だから感謝の気持ちも込めて、協力したほうがいいと思うの。お兄ちゃん」
「……わかったよ。やるしかないな」
◇
アプリの名前は「デートビンゴ」。
カメラで指定のお題を撮影するとマスが埋まっていき、縦横斜めいずれか1列が揃えばレベルクリア。
最初はレベル1、盤面は4×4。
「ヘルプを見ると、まずは角から埋めるのがいいみたい」
あかりが画面を指さす。
そこに並んでいたお題は――
・恋愛成就の絵馬を書く
・カップル限定メニューを注文する
・雨の日の夜に相合傘の写真を撮る
・観覧車に乗る
「……完全にリア充イベントだな」
俺は思わずつぶやく。
「観覧車はこの前乗ったね」
あかりは頬を染めながらも笑った。
「今日の夜にでも感想を教えてね?」
真由姉さんは要件を伝えると、用事があると去っていった。
二人で着替えを済ませ、リビングに集合。
「あ、お兄ちゃん、一つ目のお題はどこにする?」
「……この時間で達成できそうなお題は神社かな」
◇
恋愛成就で有名な神社の境内に着いた俺たちは、木々の緑に囲まれながら絵馬掛けの前に立っていた。
観光客や地元の人がちらほらと絵馬を吊るしている。
「ここで“恋愛成就の絵馬”だね」
あかりはスマホを構えて、俺と並んで絵馬を手に取った。
「えっと……“ずっと二人一緒で幸せでいられますように”……とか?」
「ちょ、待て、それ本気で書くのか?」
「だってアプリのお題だし。写真も撮らなきゃ」
頬を赤く染めながらも、彼女はサラサラと筆を動かしていく。
「……ほら、できた」
俺の名前と、あかりの名前。
笑顔で絵馬を見せるあかりに、心臓が跳ねた。
アプリのカメラで絵馬と二人が写るように自撮りする。
カシャ、とシャッター音。
最初のマスがクリアされ、画面に光が走った。
――こうして、俺たちの“デートビンゴ”が始まった。
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