第21話 俺は日本を縦横無尽したい(前編)
横浜デートの翌朝。
目を覚ました俺のスマホには、夜のうちに佳奈姉さんから大量の写真が送られてきていた。
観覧車のゴンドラ越しに、抱き合っている俺とあかり。
赤レンガ倉庫前で手をつないでいる俺とあかり。
恋人つなぎ、腕を組んでいる姿、さらには頬を寄せ合う瞬間まで。
(……どこから撮ったら、この角度になるんだよ)
正面、斜め、俯瞰に接写。まるでプロのカメラマンが複数人いたみたいに、アングルが豊富すぎる。
俺の頭の中には「違法にドローンでも飛ばしてるんじゃないか疑惑」が渦巻いていた。
(なんで俺の家族はみんな、あかりとくっつけたがるんだ……)
もちろん、あかりのことは嫌いじゃない。
むしろ優しくて、よく気が利く、いい子だと思う。
でも、あかりは俺にとって小さい頃からずっと妹みたいな存在で、ドキドキなんてしたことがなかった。
昨日の観覧車だって……急に可愛くなったギャップ効果、どこかで聞いたことがあるあれだ。そうに違いない。
(俺は一浪してまで東京に来たんだ。今しかできないことをやりたい。あの田舎に戻るなんて、絶対に嫌だ)
そう自分に言い聞かせながら、大学の授業に出席した。
◇
### ■授業後、旅行サークルへ
経営学部の授業を終えた午後、俺は旅行サークルの部会に顔を出した。
今日は「9月の旅行計画を立てる」という重要な日で、先輩たちが考えたプランを発表するらしい。
「じゃあまず、僕から」
トップバッターは、2年の**田島先輩**。
メガネをかけた真面目そうな雰囲気で、淡々と説明を始める。
「北陸縦断、3泊4日。金沢から富山、能登半島まで、新幹線とレンタカーを組み合わせて巡ります。メインは加賀料理と兼六園。宿泊は旅館中心で、費用は7万から10万くらい」
スライドには北陸の落ち着いた町並みと、豪華な海鮮料理。
俺の胸に「大人の旅行」というイメージが浮かんだ。
◇
「次は私ね」
前に出たのは、3年の**水野先輩**。旅行サークルの中心的存在で、男女問わず慕われている。
落ち着いた口調で話し始めると、部室の空気が自然と引き締まる。
「九州グルメツアー。博多ラーメン、長崎ちゃんぽん、鹿児島黒豚。食をテーマに南から北までぐるっと回ります。3泊4日で、費用は7万から10万」
「おぉーっ!」と部室の空気が一気に盛り上がった。
食べ物の写真が次々と映し出され、俺の胃袋も思わず鳴りそうになる。
◇
「はい、3つ目。沖縄リゾートプラン!」
プレゼンを始めたのは、元気な先輩男子。
テーマは沖縄本島を中心にしたリゾート旅行だった。
「青い海と白い砂浜、ダイビングや離島巡りも予定してます。観光とアクティビティ、両方楽しめます」
スライドにはエメラルドグリーンの海と首里城の写真。
費用は8万から12万。リゾートにしては妥当だけど、学生にとってはちょっと高めだ。
◇
「じゃあ、次いくよー」
今度は先輩女子二人組。明るく息の合ったトークで部室を沸かせる。
「北海道ドライブプラン!」
「小樽から札幌、旭川、美瑛、富良野! レンタカーで一気に回ります」
ラベンダー畑や広大な草原の写真が映し出されると、部室からは歓声が上がった。
費用は8万から12万。大自然と食、どちらも楽しめるとあって人気が高そうだ。
◇
「最後は僕から」
穏やかな口調の先輩が発表したのは、中国四国プラン。
「広島、岡山、愛媛、香川を巡る旅です。尾道や倉敷を歩いて、道後温泉に泊まって、最後は讃岐うどんを食べ尽くす」
スライドに映ったしまなみ海道を自転車で渡る写真に、部室からも「いいね!」と声が上がった。
費用は7万から10万。瀬戸内海の穏やかな景色と、旅情あるルートに惹かれる。
◇
5つのプランが出揃い、サークルメンバーは一斉に盛り上がった。
「北陸いいな! 温泉もあるんでしょ?」
「九州はやっぱり食だよね!」
「沖縄、写真映えヤバそう!」
「北海道は絶対外せない!」
「広島や道後温泉も渋い!」
質問が次々と飛び交い、発表した先輩たちが答える。
ワイワイとした空気の中、俺も心の中で整理を始めていた。
(北陸は落ち着きと伝統。九州はグルメ。沖縄はリゾート。北海道は絶景。中国四国は歴史と温泉……。どれも捨てがたいな)
結局、参加希望は来週までにWebフォームで提出することになった。
◇
部会が終わり、外に出る。
初夏の夕暮れが街を染めて、胸の奥がワクワクと満たされていく。
(これが大学生活ってやつか……。東京に来てよかった)
来週、どのプランに申し込むか。
考えるだけで胸が高鳴りながら、俺は電車に揺られて帰路についた。
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