『未来から来たネコの女の子』ーmiraiから来たニャンコ女子が、ぼくの未来を変えた。
未来よしこ
第1話夢を持つふり
ぼくの名前は
将来の夢は——サッカー選手。
……ということになっている。
「いいなあ翔太、夢があるってさ、朝から元気出るよな」
お父さんがトーストにバターをぬりながら、親指を立てた。
「今日も放課後、練習でしょ? 水筒にスポドリ入れておくね」
エプロン姿のお母さんがにっこり笑う。
「しょうたのおゆめ、テレビに出るやつ?」
妹の美羽が牛乳を飲みながら聞いてきた。
「はは、テレビは……いつかね」
ぼくは笑ってトーストをかじった。
本当は、放課後に公園で三十分くらいボールを蹴るだけ。
汗はかくけど、胸はドキドキしない。
心のどこかは、いつも静かで遠くにある。
そこを見ないようにして、ぼくは「夢のあるいい子」を演じていた。
学校へ向かう道。
蝉の声がわっと落ちてきて、日陰だけが救いみたいに涼しい。
「おーい翔太!」
同じクラスの直樹がランドセルを揺らして走ってくる。
「この前の試合、熱かったよな! コーチも褒めてたぞ」
「う、うん!」
ぼくも笑ってみせる。
ほんとは試合のこと、あまり覚えていない。
でも「夢がある子」でいなきゃならないから、口が勝手にうなずく。
直樹は信じてくれる。
その「信じてくれる」ことが、逆に胸を苦しくした。
夜。
布団にもぐったとき、不思議な夢を見た。
広い雲の屋根。
真ん中に、一匹の白いネコ。
目は金色で、星のかけらを閉じこめたみたいに光っていた。
「こんばんは」
ネコが喋った。
「ぼ、ぼく、ネコ語わからないけど」
「大丈夫。あなたの耳は、ほんとはちゃんと聞こえるから」
ネコはしっぽで空を指した。
そこには、ぼくが知らない景色が流れていた。
グラウンド、教室、図書室——
でも少し違う。
色が深くて、音がやわらかい。
その中で、一人の男の子が夢中で何かを描いていた。
「これ、だれ?」
「あなた」
ネコは金色の目でまっすぐぼくを見た。
「君はまだ、本当の未来を見ていない」
言葉は短いのに、胸の奥がぎゅっとつかまれた。
「目が覚めたら、ひとつだけ持って帰っていいよ」
「な、なにを?」
「あなたの手が、もう知っているものを」
風が吹いて、雲の屋根がほどけていく。
最後に金色の目が、星みたいにきらりと光った。
朝。
目を開けると、ぼくの右手には一本の色えんぴつが握られていた。
深い
教室に入ると、黒板にチョークの文字。
「転校生が来ます」
「なんかさ、めっちゃ静かな子らしいよ。美咲って名前だって」
直樹がわくわくした顔で教えてくれる。
チャイム。
担任の矢野先生がドアを開け、外に向かって呼んだ。
「じゃあ、入ってきて」
教室にあらわれたのは、一人の女の子。
黒髪が肩でまっすぐ切れていて、白いシャツの襟がきちんと立っている。
そして、その目は——夢で見たネコと同じ、金色だった。
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