乙女とか言ってる割に爆弾テロとか殺伐過ぎるんですけど
乙女ゲーとは、乙女ゲームの事だそうだ。
ゲームとは、テレビゲームの事なんだとか。
テレビゲームといえば、子供の頃に駄菓子屋の店先にあったやつしか知らない。
画面の中のカニみたいな敵を、ぴちゅんぴちゅんと撃ち殺すやつ。
後の世では、それがぐっと進化したらしい。
複数の男性を攻略してモノにするのが目的のゲームなんだとか。
そう言われも、なんとも想像がつかないのだけど。
私は、男に興味がないから、まったくそそられないわね。
子分Aは、前世でそのゲームを遊んだ事があるそうなので、この世界の事や、自分自身と私の事が分かるのだ。
「ははあ、これはゲーム世界への転生ってやつじゃな」
と、早々に理解したという。
ラノベやアニメでは、定番の展開なんだとか。
ラノベってのも初めて聞く単語だけど、ライトなノベル?
そして、悪役令嬢とは、そのゲーム世界で主人公キャラを妨害する敵役なんだとか。
私が転生しそうな役柄ではあるわね。
今世では、断頭台や丸焼きは回避したいのだけども。
「悪役令嬢って事は、おーほっほっほ! って高笑いしたりするのかしら?」
「まあ、そんな感じじゃね」
しかし、悪役令嬢と云えば、高笑いする言動もそうだけど、ドリルの様な縦ロールの髪型も定番なんじゃないだろうか?
子分Aに借りた手鏡で見たところ。私の髪は、さらさらつやつやストレートのロングヘアーで、悪役令嬢感は皆無。頭の上に、隊長機のツノみたいなクセ毛が、みょんっと突っ立っている。子分Aによると「アホ毛」というらしい。なるほど、確かにアホな毛って感じ。
顔つきはまあ、正統派清純系アイドル、というよりはツッパリ系アイドルな感じは無くも無い。いや、アイドルというよりも、スケ番? ロングスカートのセーラー服着ているし。
というか、令嬢なのに、なんでセーラー服なの? フリフリのドレスとか着てるもんじゃないの?
「親分は、公爵家の令嬢なんじゃけども、両親が暗殺されて、一家は破産。屋敷も使用人も全て失って、身一つでこの学園に入学した、っていう状況なんよ」
それで着るものが高校の制服しか無いってわけ?
身分だけは、公爵家の令嬢のままなんだそうだけど、財産は一切なし。
子分Aは、家の使用人ではなく、幼稚舎時代からの幼馴染で、子分Bも居るそうだ。
なお、子分AとBには、名前が無い。ゲーム世界では、悪役令嬢の取り巻きでしかない、ただのモブだから。まんま、子分Aと子分Bなんだそうだ。
「ゲームの世界じゃけ。全員に名前があるわけじゃないんよ。あ、そこでぼっちメシ食っちょるんは、女子生徒B」
近くのテーブルで、ハンバーガーにかぶりついている女の子。
確かに、モブっぽく何の特徴も無い。女子生徒Bって感じだわ。
子分Aは、女子大生なのに小学生にしか見えないくらい小さいのは特徴ではあるけれど、小学生の集団に紛れてしまえば、おそらく他の子と見分けが付かない。
「あと気を付けた方がええのは、この世界では小学生とか女子大生ってのは通じないんよ。チュウニも存在しないはずなんじゃけど、何故かチュウニ病はあるけどね」
チュウニが何なのかは、一旦置いておこう。
この世界の学校は、義務教育が9年間あって、小学校と中学校に別れていない。標準学校とか、単に学校と呼ぶ。
この学園は、大学ではなく、上級学校というもので、5年制。
欧米に似た仕組みだけど、新学期が始まるのは日本と同じで4月。
今は4月で、私達は、今日入学式を終えたばかりの新入生。
構内に寮があり、そこで暮らす事になる。
といった事を、子分Aから教えて貰った。
この世界をゲームとして攻略した経験がある者が、子分というのは実に心強い。
攻略していないルートは分からない、との事なので、情報の欠落も多いけども。
例えば、私達が、どういう経緯で親分子分の関係になったのかは、「そのシナリオが出るルートをまだ攻略しちょらんので分からん」との事。
「ほいでー、このゲームの攻略方法なんじゃけどもー」
「あー、それはいいわよ。男にも、他人の色恋沙汰にも一切興味ないから」
「ほいじゃけど、ほとんどのルートで、親分は最後死ぬんよ。よくて国外追放」
死に方も、刺殺から火あぶりまで、いろいろあるのだとか。
「随分と修羅なのね … 。でも、そもそも主人公に関わらなければいいんじゃないの?」
「おー? その発想は無かったんじゃけどー? 確かに、ほうかも?」
ゲームの世界だろうが、ドラマやアニメの世界だろうが、設定通りに振舞って悲惨な最後を遂げるのなんて嫌よ。
今世では、設定に関係なく生きてやろう。
没落貴族だという事だから、まずはお家再興かしらね? もしくは、何らかの形で成り上がる事。それが、当面の目標ね。
服がセーラー服しかない生活なんて、あんまりだわ。
攻略するのはゲームではなくて、この世界そのものよ。
まずは、情報収集かしら。
子分Aが語った話には未知の単語が多かった。ラノベだとかチュウニ、萌えだのツンデレだの。
この世界を攻略するにあたって、私の知らない文化を把握しておくべきだろう。
「ラノベってやつは、この世界でも読めるのかしら?」
「それなら、学園の図書館にもあるはずなんよ」
じゃあ、早速図書館に行きましょう、と席を立ったところで。
どどーん、と辺り一帯が震えるような大きな音がした。
爆発か!?
私は、とっさに地面に伏せた。
ぼーっとしている子分Aを抱きかかえて。
子分Aを押し倒した様な体勢で。
「お、親分!? ワシ、まだ心の準備が … 」
「何言ってんの?」
子分Aが瞳を潤ませながら、熱い吐息を首筋にあててくる。
どうやら勘違いさせてしまったようだけど、今の爆発音が爆弾テロならば、追撃や銃撃があるかも知れない。まずは、我が身を守る事が最優先だ。
戦国時代や、アメリカ西部開拓時代の修羅を乗り越えた私だ。
危機管理については、一般的な日本人とは違う。
日本で作られたゲームだけあって、この世界の人々も、いわゆる平和ボケしているようで、「おー、なんだなんだー」と集まって騒いでいる。
「食堂の方で煙が見えるぞー」
「お、行ってみようぜ」
ここにあるのは、軽食専門の喫茶店のようなもので、食堂は別に専用の建物があるらしい。
周囲の人々は、わらわらとそちらに向かって行く。
ああ、そんなに集まったら追撃のいい的になるというのに。
気を引いて人を集めたところで、追撃をかけて、より大量の犠牲者を出すのがテロの常套手段なのだ。
「移動しましょう」
わらわらと集まっている連中を盾にして、移動してしまおう。
私は、子分Aを抱いたまま、走り出した。
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