03

 目がくりっとしていて、かなり大きい。人間の赤ちゃんが座るように、ぺたんと座っているから分かりにくいが、むかごと同じくらいの大きさではないだろうか。柄も相まって、むかごに近いものを感じる。

 これだけ大きく存在感があれば、視線を感じるのも当然だ。


「おばあちゃん、どうしたのこれ」


 祖父母のどちらも、ぬいぐるみを持つような趣味はなかったはずだ。別に、ぬいぐるみの一つや二つ、買うようになったってかまわないのだが、祖父母宅のインテリアに合わないそれが、なんとなく気になってしまう。

 異物、とまでは言わないが、ぽつんと置かれた周囲に馴染まない猫のぬいぐるみが妙に浮いている。


「ああ……それねえ。この間、買ったのよ」


「ふぅん……?」


 わたしの質問に対して、答えているようで全く回答になっていない内容。あまり掘り下げて欲しくないのだろうか。


「おじゃましまーす」


 もしかして、ものすごく高い値段のぬいぐるみを売りつけられたのだろうか、と思いながら、わたしはもぞもぞと足を動かして靴を脱ぎ、家へと上がる。廊下を進んですぐのところにある居間で新聞を読んでいた祖父が「今日からはただいまでいいんだぞ」と、言いながら新聞から目線を上げ、わたしを見た。


「うん、じゃあ、ただいま」


 わたしはそれを適当に返しながら、居間の中を見渡す。物が多いけれど、整頓はされている。何か特別高価そうなものはない。

 次々と詐欺に引っ掛かって、変なものを買わされ続けているというわけではなさそうだ。

 ……単純に、可愛いと思ったぬいぐるみを買ったことを知られるのが恥ずかしかった、とかなのかな。いい歳して、みたいな。


「はい、むかご、降りてねー」


 言いながら、わたしはむかごを床に降ろす。抵抗することもなく降ろされたむかごは、彼の定位置なのだろう、壁際に置かれたままの段ボールに収まった。段ボールは随分と年季が入っていて、かなりくたびれている。


「わたしの荷解きが終わったら、段ボール変えてあげようか」


 むかごに聞いてみたが、無視されてしまった。さっきまでべったり甘えてきたくせに。


「荷物ある部屋は前と同じだから。広い方の部屋を使いたかったらそっちにしてもいいけど、その代わり、広い部屋の片づけは全部自分でやってくれる?」


「本当!? じゃあわたし、広い部屋がいいな」


 祖母の言葉に、わたしは思わず声をはずませてしまった。

 祖父母宅の二階には、昔祖父母が使っていたという広い十畳の部屋と、父が使っていた五畳の部屋の二つがある。歳を取って階段がきつくなったから、と、一階に部屋を移した祖父母が使っていた部屋は、広いのにすっかり物置になってしまっていて、前回、春休みにお邪魔したときには父が使っていた部屋の方を借りたのだ。

 二年くらいしか祖父母の家にいないとはいえ、せっかくなら広い方がいい。


 これから始まる新生活に慣れるのが大変とはいえ、全く荷物が整理できないというわけでもないだろう。

 わたしは広い十畳間の方を借りることにしたのだった。

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