第3話 接触
緑子は知っていた。龍二と麗子の関係を。
私は龍二にとって、金だけの存在?
であれば、せめて私の生きがいであるフラワーアートの仕事を奪わないでほしい。
何度訴えても、龍二は緑子の願いを無視し砕いた。
「お前には、外の世界など必要ない。家の事も碌にできないくせに」
「なんの才能があるって?器量も半人前のお前なのに何を夢見てるんだ?」
残酷な人。言葉は私の心に棘になり突き刺さっていく。
きっと、手ごろな家政婦を雇った位にしか思っていないんだろう。
夢などなくなった緑子の毎日はモノトーンの世界だった。
龍二はよく外泊をした。
そんな日は、きっと麗子と一緒に居るのだろう。
結婚し、そんな憂鬱な毎日にも慣れてきた秋の風が吹く頃
友人の風香から携帯にメッセージが届いた。
フラワーアートの時の友人だ。
お茶でもしない?
そんな他愛もない誘いの言葉が心に沁みた。
駅前にあるホテルにあるラウンジで待ち合わせ。
久しぶりに浮足立つ。
少し早い時間に到着してしまったので、ケーキセットを頼んだ。
落ち着いて周りを見渡した。
…その瞬間。
心臓が止まりそうになった。
…龍二だ。
隣には女性にしては長身のスラリとした女性。
麗子は、龍二の腕に手を絡めていた。
彫りの深い顔立ちの龍二と、モデルのような麗子は
本当に夫婦のように見える。
緑子は凍り付いた眼で二人を見つめていた。
その視線に、龍二が気付き、緑子の席に近づいてきた。
「家の事もほったらかしにして、こんなところで優雅な時間か?
…お前を甘やかしすぎたようだな。早く帰るんだ!」
顔を歪めながら、命令口調で緑子に命令した。
息が詰まりそうだ。
丁度その時、友人の風香がやってきた。
「あら、緑子の御主人の龍二さんね?
結婚式以来です。お隣にいらっしゃる女性はどなたかしら?
今日は、私が緑子をお誘いしたんです。それでもいけないですか?」
龍二は、この友人が苦手だった。
大手銀行の頭取の一人娘である風香は、太刀打ちできない相手だ。
「迷惑だったかしら?そんなことないですよね、龍二さん」
無言になった龍二と、隣で明らかに機嫌の悪そうな麗子を一瞥して
「さぁ、緑子。とっておきのお店を見つけたのよ。
龍二さんの許可も得たから、さっ行きましょう」
風香はさらりと言って、緑子の手を取った。
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