第18話 ソーサラーの誘い

 翌日。授業が終わり、私は一人で部室に残った。

 そこで――西都さいと部長が近づいてきた。


「桜庭、ちょっと話があるんだけど」

「え?」

「部室に残ってくれないかな」


 まさか……まさかだよね?

 不安を覚えた瞬間。


「君さ、真木亜兄弟と一緒にいるだろ」

「え……?」

「どっちかと付き合ってるの?」

「な、何を……」

「俺、君のことが前から……」

「え……」


「……じゃまなんだよ!」


「え⁉」


 次の瞬間、部長の手が私の首に回った。

 く、苦しい……!

 五芒星ごぼうせいが出ない――これ、魔法でも呪いでもない⁉


「おい! 手を離せ!」

 聞き覚えのある声がした。ユーリが駆けつけてくれたんだ。


「おっと。もう来たか。それ以上近づくな。この娘がどうなってもいいのか」

「くっ……!」


 この位置だと、ユーリが魔法を放っても私から五芒星が出てかき消してしまう。首を締める力が強まっていく。苦しい……。


「ちっちゃなマグス・プエルくん。私と来い。そうしたら、この娘は解放してやる」

「あ、ちっちゃなって言ったな! バカにしやがって!」

「ん? バカにしていないぞ。本当のことだろ? それに、私と一緒に来て不老不死になれば、なんでも望みがかなうぞ」

「そんなのいらない! オレ、もっと背を伸ばさなきゃなんねえんだ!」

「背? 背なんか魔法で伸ばし放題だぞ」

「うるさい! 魔法でやったって空しいだけなんだよ!」

「おかしなやつだな……。それなら二人ともここで死ね。まずはちっちゃなマグス・プエルくんからだ。動いたら、この娘を先に殺す」


「ユーリ! 外からだ!」

 カイトさんの声が響いた。


 その瞬間、ユーリはサッカーの時みたいにフェイントをかけ、ものすごい勢いで部長の背後へ回り込んだ。


「デフェンシオ・ディスクス!」


 カイトさんが叫ぶと、防御ぼうぎょの魔法陣が現れ、窓の外から飛び込んできた稲妻いなづまのような黒い筋を受け止めて消し去った。


「ユーリ!」

「おう!」


「ぐうっ!」


 部長が苦しげに叫び、私の首を締める手が緩んだ。私はその場に崩れ落ちる。振り返ると、ユーリが部長にぶらさがって首を絞めている。……あ、ただ足が床に届いてないだけか。


「マギア・ウィンクラ!」


 カイトさんが唱えると、虚空こくうからくさりが現れ、西都部長をぐるぐる巻きにした。拘束こうそくされた部長はその場に倒れ、意識を失う。鎖はふっと消えた。


「こいつ、ソーサラーに精神操作されてたな」

「ユーリ、今回はちゃんと見抜いたんだね」

「ああ。言葉ばっかで魔法を撃ってこないの、変だと思ったんだ」

「オレが攻撃してたら……わなってことか」

「魔法で人を殺したら、地獄じごくに落ちるか、ソーサラーになるしかないからね」

「オレを仲間にしようなんて、ふざけやがって……桜庭を人質にまでして!」


「ユーリ……助けてくれてありがとう」

 あ、くんを付けるの忘れた。まあいいや。



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