第14話
王室主催のバラの会。
そこで母さんとアイファルスに選んでもらったいつもと違う衣装を友人に褒められつついると、前の茶会で話題に上がった噂のご令嬢に何故かテラスへ誘われた。
アイファルスもいるし大丈夫だろうと来てみたが………彼女、何も話さない。
「あの…………」
「はい?」
沈黙に耐えかねてそう声を掛けると彼女は「何故話しかけられたのか分からない」というような表情をしてこちらを見上げた。
「何故、自分を誘ったんですか?」
俺は回りくどいことが出来ないから1番知りたいことを単刀直入に聞くことにする。
「う〜ん……そうですね………」
俺の質問に彼女は少し悩む様子を見せると、そう答えた。
「なんとなく目に止まったから、ですかね」
なんだ、それは。
こっちとしては良い迷惑だ。
「なら、もう戻ってもいいですか」
「まだ駄目です」
これ以上ここにいる意味も無いと思いそう尋ねれば、彼女はそう言って引き留めてくる。
「………何故?」
理由を聞いても彼女は答えない。
「何か理由があるなら話してくれないと分かりません。それに俺だって暇な訳ではないのですが、人の時間を無為に奪ってまでしなければならないことなのですか、これは」
彼女に対しての苛立ちをなるべく抑えつつそう尋ねるが、やはり答えは返ってこなかった。
「来てくれ」
「ここに」
何か危害を加えられても困るためアイファルスを呼びテラスから出ようとする。
「ねぇ待って」
「無理です」
彼女は俺の腕を掴んで引き留めようとするが彼女を傷つけないようにそれを振り払う。
「ねぇお願い」
「私の主人に触れないで頂けますか」
「なんで……」
俺からの拒絶もアイファルスの制止も聞かずに俺を引き留めようとする彼女は目に涙を溜めていた。
何故そこまでするのだろう。
「気にしないで下さい、彼女の目的は分かってますから」
俺の悩んでいる様子が表に出ていたのか、アイファルスが後ろからそう声を掛けてくる。
「……そうか、分かった」
アイファルスが気にするなと言うなら大丈夫だろう。
「あ、バルバス〜どこ行ってたんだよ〜」
会場に戻るとフェルにそう声を掛けられる。
「悪い、ちょっと風当たりに行ってたんだ」
俺の言い訳にフェルは納得した様子だったが、エンゲルとリビュートは心配そうに見てくる。
「彼女に何かされた?」
リビュートが周囲にバレないようにそっと耳打ちしてくる。純粋に心配してくれているのだろうか、分からないが。
「いや、何も無かったよ。たまたまタイミングが合っただけだ」
「ならいいんだけど………」
リビュートは釈然としない様子でそう言うとフェルの元へ向かった。
エンゲルにも同じような質問をされたが、同じように返すとエンゲルは納得したようだった。
やはりこの4人の中で1番警戒心が強いのはリビュートだろうな。
「今いいか?」
「ええ、行きましょう」
アイファルスの持つ情報を共有してもらうため1度会場から出て休憩室へと向かう。
「防音の結界を張ったからもう大丈夫」
「ありがとう、アイファルス」
休憩室に着くとすぐにアイファルスは結界を張って紅茶と菓子の用意をしてくれる。
ちょっと護衛の範疇を超えている気もするが、助かるしアイファルスも好きでやっていると言うからこのままでいいか。
「それで、彼女の目的っていうのはなんだ?」
「ああ。今しがた観察したのとあのお茶会の後に噂のことが気になって少し調べてみた結果を総合して考えた結果ではあるんだが、恐らく彼女は自身が常に可哀想で可憐で健気な主人公になることを望んでいるのだと思う」
アイファルスはそう言って紙束を机の上に出す。
「なんだそれ………ちょっと理解不能だな」
その紙束をペラペラと捲りながら内容を読んでみるが、その内容ははっきり言って馬鹿げていると思える内容だった。
「彼女は色々と自作自演や嘘で演出した上で自身を可哀想な令嬢に仕立て上げ、寄ってきた男には可憐な少女を演じ、あらゆる物事において健気に一生懸命に取り組む様子を見せていた」
アイファルスは彼女についての概要を話してくれる。簡潔なのに意味が分からない。
「彼女とは相容れないな………」
思わず溜め息を吐いてソファの背もたれに全体重を預けるようにする。
「実際、騙されているのは主に下級の男性貴族や令息で上級貴族や女性貴族、令嬢方には裏工作がバレバレで大層嫌われているようだよ。彼女自身の身分が低いことも相まって余計にね」
「みたいだな………」
噂がほとんど事実だったという衝撃はあるが、まあ貴族社会などそんなものだろうと思っている自分もいる。
「これは……あいつらに話したらまずいか?」
「いや、大丈夫だと思うよ。最近彼女の身辺を洗うのと同時に彼等のことも調べてたけど、普通、というかむしろ良いことばかりだったね」
まさかのあいつらのことも調べてたのか……アイファルスならやりそうなことではあるが。
「そうか。なら、明日にでも届くように手紙を送るか。どう思う」
最近やることなすこと思わずアイファルスに確認を取ってしまうが、こんなんで大丈夫だろうか、将来の俺は。
「良いと思う。もし心配だったら僕が伝書鳩になっても良いよ」
アイファルスは本気なのか冗談なのか分からないトーンでそう言うが、多分本気だろう。
「じゃあ頼んだ」
「お任せ下さい」
わざとらしくそう言ったアイファルスだが、きっと何があっても届けてくれるだろう。
「そろそろ戻りましょう。ご友人に心配されてしまいますよ」
防音の結界を解いたのかアイファルスが護衛のときの口調になってそう言う。
「ああ、そうだな」
休憩室を出て会場に戻ろうとしていると、何やら会場内が騒がしい様子だった。
「少し見てきます」
そう言ってアイファルスが先に会場内に入り様子を見たところ、どうやらさっきのテラスでの俺との話を嘘で塗り固めて吹聴していると。
「帰った方が良さそうですね。旦那様と奥様は今しがた馬車に乗りお帰りになられたとのことですし、今帰れば後から一緒に帰ったのだと言えます」
アイファルスは会場に繋がる扉を見ながら言った。アイファルスが言うならそうなのだろう。
「分かった、帰ろう」
「行きましょう」
友人達に帰りの挨拶を出来ないままというのは少し残念だったが、アイファルスが会場に入るときに一瞬聞こえた声は明らかに俺を非難する声だった。しかも彼女の声で。
そんな会場に戻ればどんなことになるか、想像出来ないほど社交界から離れてはいない。
これでも貴族だ、それなりに駆け引きというものをすることだってあるし、誰かを騙して情報を引き出したりしたことだってある。
だから、あの場に俺が出てはいけないということは重々承知している。
アイファルスの案内で馬車まで向かい、そのまますぐに屋敷へと帰った。
「ただいま」
「おかえりバルバス」
「おかえりなさいバルバス、大変だったでしょうもう何がなんだか」
家に帰ると珍しく父さんが出迎えをしてくれた上に俺より慌てている母さんがいた。
「落ち着きなさいリリ、バルバスの方がなんだか平気そうだ」
父さんが母さんを落ち着かせるために俺を指して言う。確かに、俺の方が落ち着いている。
「そう、そうね………ありがとう。バルバス、本当に大丈夫なのよね?」
母さんは少し深呼吸をすると俺を心底心配するようにそう言って覗き込んでくる。
いつの間にか母さんを越してしまったこの身長も、母さんにとっては関係ないのだろう。
俺はいつまでも母さんにとって息子で、大事で、守るべき存在としてくれる。
「ああ、大丈夫だよ」
笑ってそう返せば母さんは今度こそ安心したような表情を浮かべて部屋へ戻っていった。
「バルバス、落ち着いたら私の執務室へ来なさい。聞きたいことがある」
「分かった、すぐ行く」
思った通り父さんに執務室に呼び出された。
アイファルスと顔を見合わせ、あの資料を持って行くことを決めた。
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【外伝】バルバス、フリュード、シャルバスタ 解月冴 @KaiTukasa
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