小学生に告白されました~この関係は兄妹ですか? 恋ですか?~

功刀

第1話:従妹との出会い

 春のうららかな日差しが、ローカル線の車窓から差し込んでいた。

 ガタンゴトンと心地よいリズムを刻む電車。その窓の外には、どこまでも続くような長閑な田園風景が広がっている。

 見慣れた都会の景色とは全く違う、穏やかな空気がそこにはあった。

 今日から俺、相川あいかわ 圭介けいすけの新しい生活が始まる。


 大学合格。その響きは本来なら、希望に満ちたものであるはずだ。だが俺の場合、少しばかり事情が複雑だった。

 希望の大学に受かったはいいものの、一人暮らしを始めるには実家か遠かったのだ。

 片道で2時間以上かかるので毎日通うのは厳しい。


 そんな時に、母親が親戚の家に住み込むことを提案してくれた。

 偶然にも大学の近くに住んでいるということなので、そこから通うことになったのだ。

 親戚というのは母さんの妹、つまり叔母さん一家だった。


 そんなわけで俺は、叔母さん一家に卒業するまでお世話になることになったのだ。

 最寄りの駅から地図アプリを頼りに歩くこと約十分。目の前に現れたのは、立派な一軒家だった。


「わお、でっかい家だな……」


 思わず独り言が漏れる。落ち着かない気持ちでインターホンを押すと、スピーカーから明るい声が聞こえた。


「はーい、どちら様ですか?」

「あ、あの、今日からお世話になります、相川です」

「あら、圭介君ね。すぐ開けるわ、待ってて」


 ガチャリと音を立てて門が開き、中から現れたのは、写真で見た通りの優しそうな叔母さんだった。

 名前は倉上くらかみ 明子あきこさん。結婚しているので名字も変わっている。


「圭介君、ようこそ。遠かったでしょう」

「こんにちは、叔母さん。今日から、よろしくお願いします」

「まあまあ、そんなに固くならないで。さ、早く入ってちょうだい」


 叔母さんに優しく招き入れられ、俺は玄関の引き戸をくぐった。ひんやりとした木の床が、少し火照った足の裏に心地いい。


「圭介君大きくなったわねぇ。会うのは葬式以来かしら」

「そうですね。あの時はまだ小学生でしたから」

「もう私より背が高いのね。男の子って成長早いわねぇ……」

「ははは……」


 そんな雑談を交えつつ家の中に入っていく。


 リビングに通されると、小さな女の子が一人、ちょこんと座っていた。


「あの子は……」

「あら。今日は大人しいのね」

「えーっと……」


 あの子だれだっけ?

 記憶にない……

 いや、前に会った事あるような……?


「ふふっ。前にあった時は小さかったもんね。この子は美咲よ」

「美咲…………あっ」


 そうだ。思い出した。

 明子さんの子供だ。


「ほら。美咲もご挨拶しなさい。この人がしばらくうちで暮らすことになる圭介君よ」

「久しぶり……って覚えてないか。俺は相川圭介。しばらくお世話になることになったからよろしくね」

「………………」


 こっちをジーッっと見つめる小さな女の子。

 あの子の名は倉上くらかみ 美咲みさき

 腰まで届きそうな、艶やかな黒髪。吸い込まれそうなほど大きな瞳。フランス人形みたいに整った顔立ちの、綺麗な子だ。


 前に会った時はまだ幼稚園に通ってなかった時の事だから、以前とは見違えるぐらい可愛くなっている。

 だから向こうは俺のことなんて全然覚えていないだろうな。


「……………………」


 うん。やっぱり覚えてないみたいだ。

「誰だこいつ?」って感じの表情してるしな。


「美咲。ご挨拶は?」

「……………………」

「美咲?」


 美咲ちゃんは、黙ったまま俺の顔を穴が空くほど見つめている。何を考えているのか、その無垢な表情からは全く読み取れない。

 美咲ちゃんはしばらく俺の事ジーッっと見つめた後、明子さんに向かって移動した。

 そして俺から隠れるように明子さんに抱き着いたのだ。


「ちょっと美咲。何してるのよ。既に話したわよね? 親戚の人がしばらくうちで暮らすことになるって」

「…………うん」


 今日初めて聞く美咲の声だった。


「そんなに緊張しなくてもいいわよ。圭介君は親戚なんだから」

「……………………」

「ごめんなさいねぇ圭介君。美咲は人見知りみたいで大人しくなっちゃったわ……」

「い、いえ。俺の事なんて覚えてないだろうし、気にしてないですよ」


 年頃の女の子らしい反応というか、ある意味想定内ではある。


「ほら。美咲。ご挨拶は?」

「……………………」


 明子さんに少しだけ強く促されて、美咲ちゃんはもじもじとしながら、か細い声で喋りだした。


「………………くらかみ……です」

「こら、美咲。ちゃんと名前を言いなさい」

「……はじめまして。くらかみ……みさきです……よろしくお願いします」


 俺は少し戸惑いながらも、笑顔で返した。


「よろしくな、美咲ちゃん。俺のことは圭介お兄ちゃんって呼んでもいいんだよ」

「……………………」

「ははは……」


 これはしばらく時間掛かりそうだな……


 これが俺と小さな従妹、美咲ちゃんとの最初の出会い。

 この時の俺はまだ、知る由もなかった。この小さな女の子が、俺の大学生活を、いや、俺の人生そのものを、とんでもない方向に引っ張っていくことになるなんて。

 想像もしていなかったのだ。

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