転生したら革命期の貴族だった件
@azzzsan
第1話 歴史オタクの塩屋
第1話 歴史オタクの塩屋
「おじいちゃん、ほんとにイギリスの貴族が助けてくれたの?」
塩屋治は小さな声で尋ねた。江戸時代の港町にあった祖父の蔵は、木の匂いと紙の埃で満たされている。祖父はゆっくりと頷き、古ぼけた巻物を取り出した。
「そうだ。お前たちの先祖が困窮していたとき、遠いフランスの貴族の娘が、資金や知恵を送ってくれたんだ。それがあったからこそ、塩屋家は今も港で商いを続けられる。」
巻物には、船や港を描いた精緻な挿絵と、英字で書かれた古い契約書のような文面が残っていた。治はその瞬間から、歴史の世界に心を奪われたのだ。未来を知るわけではないが、過去の人々の知恵や苦悩、勇気に、幼い心を打たれた。
――そして時は流れ、現代。
塩屋治は高校二年生。成績表を見ると、国語も数学も理科も壊滅的だが、歴史だけは平均90点を叩き出す。特に1700年から1900年のヨーロッパ史、フランス革命、ナポレオン戦争、植民地貿易に関しては、教科書以上の知識を持っていた。
「また歴史だけ満点か…」
ため息をつきながらも、治はどこか誇らしげだった。
放課後、家に帰ると母が部屋の片付けをしていた。埃を払いながら、棚の奥から一冊の古い書物が顔を出す。表紙には「Bordeauxi」とだけ書かれ、微かに金色の装飾が施されていた。
「こんなところに…」
治は好奇心に駆られ、書物を開く。中にはフランスの港町や、18世紀の貴族の生活、交易の記録が細かく描かれていた。ページをめくるごとに、過去と現代が交差する感覚に胸が高鳴る。また、祖父が漁をしていた地名もでてきた。
「……行かなくちゃ」
なぜか、強烈にその地名の場所を訪れたくなった。未来知識ではない、しかし理屈を超えた衝動。治は自転車に乗り、書物に記された港町を目指して走り出す。
だが、運命は残酷だった。角を曲がった瞬間、猛スピードで走るトラックと衝突する。目の前が白く光り、痛みも恐怖も、すべてが消えていった。
そして、目を開けると――
「……ん?」
そこは見覚えのない天井、柔らかい布に包まれた体、そして何より――小さな手足。
「わ、私……?」
治は鏡に映った自分の姿を見て、息を呑んだ。赤ちゃんになっていたのだ。細く柔らかい手足、ふわりとした髪、そしてまだ言葉も満足に話せない身体。胸の奥で、幼い魂が揺れ動く。
「信じられない…でも…確かに、私の意識はそのまま…」
かつて歴史を愛した少年・塩屋治の意識が、今、新しい身体――フランス貴族の令嬢としての運命に宿った。
ボルドーィ・アリスティア――この少女は、これから18世紀フランスの荒波に立ち向かい、家族と血筋を守る戦いを始めるのだ。
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