世界を救ったのは俺

川北 勤

世界を救ったのは俺

目覚めたらいきなり白一色に塗りつぶされた世界に飛ばされていた。


「ここどこだよ」


あたりを見渡してみると、どこまで空間が広がっているのか。どちらが上でどちらが下なのか。見渡してみれば見るほどハテナが増え疑問が一つも解消されない場所。わかりやすくたとえるならば、この原稿用紙、失礼。真っ白な無地の紙を三次元化した世界と表現すればよいだろうか。ともかく、人知すら超越した世界であるということは本能的に理解できた。


たしか、俺は寝ながらテレビを見ていて、それから…だめだ。全く思い出せねえ。


「直人や。直人や。ようやっと目覚めたか。」


目の前がぱぁと明るくなったと思ったら、そんな声が聞こえた。


見上げてみると、神様然とした格好をまとい、頬のニキビ跡を燦然と輝かせ、何度も染めているのだろうと感じさせる何色か形容できない傷んだ髪を携えた、釣り気味な目を持った人間がいた。というかパパだった。日村 影男だった。


「私は影男神である。」


「いやパパじゃん」


「私は影男神である」


「いやだから、パパじゃん。日村影男じゃん」


「そなたには、やってもらいたいことがある。」


無視しやがったぞ。こいつ。


「それは、貴様の家族にそれらの種目で勝ってもらいたいのだ。」


影男神がそういうと、紙が一枚俺の足元に現れた。


地面が白いのでとても見にくい。俺はそれを拾い、目を通した。



               MISSION

1、日村 草子(母)にじゃんけんで勝て


2、日村 空(姉)に討論で勝て



3、日村 龍太(兄)に喧嘩で勝て(物理)


条件 これらの勝負を一度の敗北を許すことなく勝て

   ミッションのことを誰にも話してはならない


ペナルティ   条件を反しミッションをクリアもしくはミッションをクリアせずに一日が経過した場合日村直人が死ぬ。

        ついでに世界が終わる。



端的に言うと意味が分からない。溢れ出るハテナが止まらない。


「は、…え。質問よろしいでしょうか」


俺はびくびくと声を震わせながらその言葉を発した。


「よいぞ」

「この紙は何ですか。」

「指令書」

「誰の?」

「貴様の」

「なぜ俺にそんなものが」

「長く語ろうと思えばいくらでも長く語れるが、要約すると俺たちの尻ぬぐいだ」

「拒否したら」

「地球がボーン、お前もボーン」

一瞬の空白。そして、爆発。

「ぶっ殺すぞーーーーーーーーーーーー!」


咆哮まさしくそう表現するのが一番忠実であろう叫びがこの空間にこだました。その咆哮には純然たる怒りが込められていた。そして、その怒りもとい咆哮はなおも続いた。


「というか大体、ここはどこなんだよ。さっきから一個も疑問が解決しねえんだよ。なんで、神様っぽいふくきたパパが偉そうに俺に話しかけてくんだよ、なんでそんな意味わかんねーやつからの指令を拒否たら、地球が爆発すんだよ。そしてなんで、俺がお前たちのしりぬぐいをしなきゃなんねえんだよ。なにより、俺が家族から勝利を得ることによって救われる世界ってなんなんだよーーーーーーーー!」



はあ、はあ、はあ、息が切れる感覚とともにだんだん頭が冴えてきた。いやー、これ夢じゃんと。考えてみれば、おかしいではないか。こんな意味の分からない、荒唐無稽の極致のような状況など起きようはずかないのだ。もし、こんなことが起きえるとしたら小説を書きなれていない高校2年生が適当に考えた小説の中だけであろう。


考えてみれば、このまえ、龍太が言っていた明晰夢という現象にこの状況が当てはまってるようにも思える。はは、そうか。これが。めいせきむかーー。


「よーし、そうと決まれば簡単だ。おやすみなさーい」


直人は、にげた。現実から。直人にとってはゆめから。


「わかっているとは思うが、夢じゃないからな。いちおう、夢じゃないことの証明のために男の証消しておくからな。」


直人はそんな男としての危機を感じながら、眠りについた。確かに生身の感覚を覚えながら。夢の中では絶対に切れないであろう息が切れていたであろう事実を無視しながら。こんなにも早く意識が暗闇に吸い込まれ眠りにつくなどありえないことに文字どうり目をつむりながら。











「おはよう。NAOTOくん。起きる時間だね。おはよう、NAOTOくん。起きる時間だね。」


陽光が本領発揮するにはまだ早い時間にうら若き青少年の成長を妨げる血塗られた深紅の悪魔、別名、目覚まし時計が止められた。


他ならぬ、勇者直人の手によって。とそう書けたらよかったのだが実際のところは違う。龍太が止めた。


本物の勇者は龍太だったのだ。というのも、また、ほんの少し違う。なぜなら、本日は日曜日だ。いくら、赤き悪魔といえど学生の休日である日曜日からたたき起こしてくることなどない。


誰かが明日が日曜日であると伝えていなければ話は別であるが。


そう、彼は忘れたのだ。赤き悪魔に明日が日曜日であることを伝えるのを。


故に、この下界に赤い悪魔が舞い降りたのだ。そんな事情で、今回の件の黒幕は彼である。ゆうなれば、自分で設置した爆弾を自分で解除したようなものである。故に、彼は勇者龍太ではなく、愚者龍太なのである。


だが、今回の件、そこが肝心ではない。この、デスボイスで目覚めないことによって生じる結果こそが重要なのだ。なぜなら、もうすでにミッションは始まっているからだ。今日7月14日は家族に様々な予定が生じている日だからである。まずは、空は仕事。それ以上でも以下でもない。次に龍太。特に理由はないけど、外に出かけた。最後に草子、買い物。模範的な主婦のルーティングだ。いうことなし。わかってもらえたと思うが今日彼らは家にいない。つまり、彼らと接触機会が減り、尚且つタイムリミットが減る最悪の事態が生じてしまう。だが、そんなことは今の眠っている彼には関係ない。今ただささやかに彼の成長を願うことこそが重要な任務といえよう。







「というのが、数時間前に怒っていた出来事だ。」

「起こせよ!」

現在の時刻は、11時30分、良い子は昼ご飯を食べる時間である。今ここにいる悪い子が起きた時間だ。朝起きた瞬間。寝ぼけ眼の目をこすりながら、おぼろげながらに思い出す昨日の夢。何から何までが荒唐無稽で奇想天外、よく自分の中にこんな発想があったものだなと感心してしまうほどの夢だった。いやあ、リアルだったなあ。そんなことを考えていた。そこでふと、影男が言っていたことを思い出した。


……股間に意識を向けてみた。感覚がなかった。ある感覚がなかった。いやいやいや、そんなまさか、有り得ない。ありえてはいけないのだ。そんなこと。恐る恐るズボンに手を伸ばし、ズボンを広げ、中をのぞいた。今日から俺は女の子だ。



「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


恐怖。焦燥。絶望。その他もろもろが込められた咆哮は1分間続いたという。

現在の時間は11時40分。俺は、夢、影男がいうには厳密には少し違うというが、あれに出てきた事柄はすべてマジなのだということと俺がやらかしたミスについての詳細が教えられていた。机をはさみながら、リビングで。


さすがに、ベットでまじかに近づきながらしゃべるのはきついので仕方がない。


「つーか、そもそも。なんでこんなことが起きてんの。」


俺は影男にそんな質問を投げかけた。ほとんど半透明であり、ほかの人間には見えないらしい。ダレトクだよ。美少女出せ、美少女。


「あそこでもいったように、話すと長くなるので言いたくないんだが、まあしいて言うなら因果律かな。」


「でたよ、因果律。なんだよ、因果律。なにがどのような事象もすべて何らかの原因の結果として生起するのであり,原因のない事象は存在しないという考え方だよ。一つもわからんわ。殺すぞ。なにが、因果律のねじれがーだよ。なにが、因果の逆転だよ。ふざけんなよ。何が逆転してんだよ。なにがねじれてんだよ。一から説明しろよくそが。」


机のひんやりとした感触を頬で感じながら、うなだれた。


「何の話だ。」


「なんでもない、こっちの話。」


もっというと、アニメの話。


「おっほん、では開催します。ミッション解決お悩み相談コーナー。どんどんパフパフ。」

全く抑揚のない声で且つなんの気持ちもこもっていない声で言われた。すごく腹が立つ、全部あいつらのせいなのに。俺は体をおこし、拳を振り上げた。しかし、影男には効果がないようだ。むかつく。

「いらない。そういうのり。」

「はい。」

心なしか悲しそうな顔をしていた。俺らはその後、ミッション解決方法について二時間程度話し合った。世界を救うために。もとい、OREを助けるために。



現在の時刻、18時30分。俺はある紙を提示していた。

               契約書

汝、直人とのじゃんけん勝負においてどんな結果に至ったとしても

直人の勝ちとすることを認める。






「えっと、この契約書に名前を書けばいいの?そして、じゃんけんすればいいの?」

「うん」

「な、なんで。」

「後で説明する。とにかく書いて。」

「うん、わかった」

草子はすらすらとよどみなく自分の名前を契約書に記した。そして、いわれるがまま、ハンコを押した。

「じゃんけん、ぽん」


草子が慌てて出した手、それはチョキだった。対する俺の手はぱー、文句なしの俺の勝利である。

Missonn1クリアだ。

こんなのは、ありなのか。安心しろぜんぜん、ありだ。



「こんなのはどうだ影男、契約書にどんな結果に至ったとしても俺の勝利になるって契約してその上でじゃんけんするってのは」

「でも、それって矛盾してませんか。じゃんけんのルール上、グーを出した相手にはパーしか勝てないって決まってるんじゃないですか。だから、仮にも負けた場合、負けは負けってことにならないですか。そんな、横紙破り通用しないと思うんですけど」

「じゃあ、聞くがそのルールってだれが決めた。」

「しばこるちょふ2世」(作者が考えた適当です。)

「おおう、ばっちし、当ててくるとはそういえば神だったなおまえ」

「そうですよ、当たり前じゃないですか。」

「でも、そいつは少し間違ってる。じゃんけんを作ったのは文化だ。歴史だ。そして人間だ。」

「どういう意味ですか」

「根幹を作ったのはたしかにしばこるちょふ2世ってやつかもしれないが、作り上げいったのは人間だ。だから、ルールなんて人間の都合で変わる。有名人が最初はグーと言い出したの流行って、こっちのほうがいいってなったら気づいたらいそれがールになったように。脳トレのために後出しでじゃんけんをして勝ち続けたり、負け続けたりするのが勝ちになったり。人の意向で簡単に。だから、俺も変えられる。俺にできなくて、ほかにできるなんてそんな道理あるわけないんだから。」

「ちょっと、中二くさいですが。確かにそうですね。」

「だろ、よかった。通んなかったら、普通に不正を使うところだった。」

「おおう、本当に効果てきめんですね、この性格が悪くなる薬」


 影男が直人に隠すように出したのは空き瓶だった。ラベルに書かれている効果は、読んでみるとこんなことが書いてあった。


この薬を飲むと、脳内の抗生物質テーテリアが過剰分泌し、人の嗜虐心ををつかさどる神経ヤーコンが刺激され、性格が悪くなります。副次的な効果としてはこの薬を飲むと頭が悪い方は頭がよくなる効果があります。ちなみに、副作用については秘密です。半日後を楽しみにしててね。


実に不安になる最後の一文だ。最後の直人は生きているのだろうか。まあ、どう転んでも計画には影響はない。世界が救われればそれでいい影男はそう思った。彼は薬を飲まなくても性格が悪かった。彼が、薬を直人に飲ませた経緯としては単純だ。直人と影男がミッションの攻略法を思いつかなかったためだ。だから彼は行動した。万が一の時のため持ってきていたこの薬を飲み物に仕込み、直人にのませ攻略法を強制的に考えさせるために。などと、薬を仕込んだことは仕方がないみたいな雰囲気を出してみたもののじぶんが薬を飲めばいいだけなのでやっぱり影男はくずであった。

「どうした、影男。」

「いやなんでもありません」

かれは、その小瓶をさっと隠した。



現在の時刻20時30分、只今の天気、雨である。おれは空とはなしていた。

「いまからさ、天気、晴れるとと思う?」

「は、何言ってんの。やまないんじゃないですか。知らないけど。」

「俺はさ、晴れると思うよ。」

Missonn2クリアだ。運が良かった。


「討論で勝つってそもそもどういうことだろうな。」

「相手のほうが間違ってることを認めさせることじゃないんですか。」

「そうだとするんだったらさ、討論という競技自体あいまいなものだよな。だって、何が間違ってなにがあっているかだなんて議題によってはないんだからさ。」

「だから、討論を番組で扱う際は他者の判定に勝負をゆだねるんじゃないんでしょうか。」

「そうだよな、けどさ今回そんな相手用意できると思うか?」

「いちおう、母親ならいますが難しいでしょうね。こんなことする意味がありませんし。」

「俺もそう思う。そもそも傲岸不遜なあの姉だ。そもそも、勝負すら受けないだろう。だから俺は考えた。どうしたら空を討論の場に持っていくことができるか。」

「思いついたんですか?」

「ああ、思いついた。あいつが、討論の舞台に上がったこと気づかせなければいい。」

「どうゆうことですか。」

「討論って言葉の意味をたどると、ある事柄について意見を互いに論じ話し合うこととなっている。つまり、ある事柄について互いに意見を論じ合った時点でそれは討論であるということができる。今回はこれを利用する。まず、俺が空にある質問をする。ここでポイントなのが質問に確定した正解を忍ばせておくことだ。例えば、おれが空にいまからあの木の葉っぱは落ちると思う?と聞いたとする。」

直人はいまにも落ちそうな葉っぱを指をさす。

「ここで空には二つの選択肢が存在する。落ちると答えるか落ちないと答えるかだ。落ちないといった場合は簡単だ。俺は落ちると思う.。そういうだけで俺が討論で勝ったことになる。」

「なぜですか。」

「絶対あの葉っぱは落ちるからだ。」

「どうしてそんなことがわかるんです?いまから、あの葉っぱ落ちることなんて誰にもわからないんじゃないですか。」

「おまえはいまからときいて何を想像する?」

「え、それはまあこれから起きることかなーと思いますけど。」

「そうだ、これから起きることだ。辞書にもちゃんと現時点からとそう示されている。決して近々起きることとは書かれていないんだよ。」

「ああ、だからつまり!」

「そうだ、この先未来永劫あの葉っぱが落ちないことなんて現実的にあり得ない。だから、空の言うことは間違っているんだよ。俺が正しいんだ。だから、空は討論において明らかな間違いを言ったことになる。つまり、俺の勝ちだ。」

「なるほど、確かにそういうことなら話の筋は通ってますね。けど、もしも落ちるって言った場合どうなりますか。あなたの言った理論だとあなたが負けちゃいますよね。」

「その場合は、俺は何も言わない。帰ってきた答えを流すだけだ。そうしたら、俺は意見を言ったことにはならない。つまり、討論にすらならないんだ。互いに意見を言ってないからね。」

「けどそうしたら勝てませんよね。」

「だから、もう一回さっき言ったポイントを踏まえた質問をするんだ。もし、それでもだめだった場合は繰り返し繰り返し質問を繰り返していくしかない。この作戦は運も結構絡んでくるから嫌なんだが仕方がない。ああ、俺なんでこんなことを考えなきゃいけないんだくそが。」

「ほんとですよね。」

直人は、拳を突き出した、しかし効果がなかった。




現在の時刻23時55分、重々しい扉の開閉音がなったとおもったら龍太が外からの家に入ってきた。

「ん、なんでお前がここにいんの」

「なんとなく。そんなのいいから、こっちに来て身をかがめて。」

「え、なんで?」

龍太は扉を閉めながら、そんなことを聞いた。

「いいからはやく。」

龍太はしぶしぶといった様子で腰をかがめた。俺はそれに合わせてしゃがみこんだ。

「ん、なんでしゃg」

「日付変わるギリギリでかえってくんじゃねーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!こっちは世界かかってんだよー!!!!!!!!!!」

直人は、いっきに跳ね上がり、龍太のあごをとらえた。とたんに、龍太の顎に衝撃が走る。そして、龍太は飛んだ。慣性の法則にしたがい、跳ね上がったエビのようににのけぞりながら宙に浮かんだ。遅れてばぎいと骨が割れた音が響く。龍太の脳髄は、顎から伝わった衝撃により打ち上げられたカツオのように暴れていた。そして着地。ぼすん。龍太は、気絶していた。Missonn3クリアである。直人は、ひとしずくの涙を流していた。いったい、どんな感情が彼の中でほとばしっているのだろうか。それは、本人しか知りえないことであった。そして、今この瞬間ちょうど十二時となった。直人は、バタンと倒れた。



目が覚めると、真っ白な世界が直人を出迎えていた。

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