第3話

色々あって、今日はパーティーの当日です。


会場に着いてみて、改めてエルを連れてこなくて良かったと思いました。だって、見たこともないような豪華絢爛な装飾品で会場中が飾られているのですよ?好奇心旺盛なあの子がいたら絶対仕事に身が入らないでしょうから。


「みなさん、ご主人様の面目を潰さないためにも、基礎を大切にして仕事にあたってください。それでは、解散!」


メイド長の声で、それぞれ持ち場に向かいます。私は飲み物の配膳が担当なのでそちらに向かいましょう。


厨房に向かう途中で、ご主人様に出会いました。


「あ、メリア。今日はよろしくね。」

「はい、よろしくお願いいたします。」


パーティーがはじまり、メリアも配膳を始めました。とはいえ、今はまだ貴族同士での挨拶の時間のようなので、あまり仕事がありませんが。


でも一人だけ、パーティーが始まり次第飲み物を持ってきてほしいと言われた人がいるので、その人だけサッと配膳してしまいましょう。


「あ。メイド、オレの飲み物はこっちに頼む。」


メリアが飲み物を持ってウロウロしていたからか、これを頼んだ張本人、第一王子が声をかけてきやがり、ではなくて、声をかけてくださいました。


「お待たせ致しました。お飲み物です。」

「ああ、君はルキアレムの。」


ああ、やっぱりこの人は嫌いです。以前ご挨拶させていただいたときもですが、探るような視線が本当に気持ち悪い。


「弟とはうまくやってんのか?」

「ええ、いつもよくしていただいています。」


この人がご主人様の事を気にするなんて、きっと裏があるに違いありません。怪しい。


「もし弟に愛想を尽かしたら、オレのところに来いよ。それか、弟に何かあったら、な。」

「私はご主人様に一生忠誠を誓うと決めましたので。ご心配してくださり、ありがとうございます。」


メリアと第一王子との間に、バチッと火花が散ったかのような錯覚を覚えながらも、メリアは何とかポーカーフェイスを保っていました。


ご主人様の弱みを探ろうとしたのでしょうか。だとしたら下手すぎます。孤児院出身の私は他人の敵意には敏感ですから、ぜーんぶお見通しですよ。


「そうか、仕事があるだろう。さっさと行け。」

「失礼いたします。」


不機嫌そうでしたねえ。言いぐさが明らかに素っ気なくてトゲトゲしかったですから。でも、あの態度はさすがに少し気分が悪くなりますね。まあ、第一王子とこれから関わることはないでしょうから、機嫌をとる必要もないでしょう。


そんなことは置いておいて、ご主人様にもお飲み物を……。


パリーンッ、ドンッ


「っ!」


ガラスの割れる音と、人が倒れるとき特有の重低音が、静まり返った会場に響き渡りました。かと思えば、どこかの若いご令嬢が悲鳴を上げ、辺りが息を吹き返したかのように騒然とし始めます。


恐る恐る振り返ると、人が床に倒れていました。


第一王子でした。

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