山本桜×伊達朝長

〜桜side〜


福本くんとフミくんが作ってくれたテントに布を敷いて、流香に日焼け止めを塗っていると、伊達がお菓子を持って入ってきた。


流香は嬉しそうにする。



「ともも、さーちゃんも、ありがと!」



抱きついてきた流香の頭を伊達は優しく撫で、私に酎ハイを渡してきた。



「お、ありがと」


「あんまり飲みすぎるなよ」



そう言ってから流香にはペットボトルのスポーツドリンクを渡し、自分はビールの缶を開ける。



「かんぱい、しよ!」


「はーい、かんぱーい」



三人で飲み物をコツンとぶつけたあと、テントの中で談笑していたら、流香が私を見上げて言った。



「ママ、今日もくるしくなっちゃったの?」



翠さんの肺の病気は話を聞く限り、年々深刻になっている。

流香を産んですぐの頃、伊達と野上が住んでいた家に預けているのは育児の息抜きだと思っていた。


ある日、四谷から翠さんが倒れたと聞いた時は私も伊達もかなり動揺したのを覚えている。


大輔さんは休みが不定期で、土日も仕事のことが多いため、伊達と野上の実家や、私と伊達がこうして預かることも増えていた。



とはいえ、流香の家と伊達と佑久さんの家は少し離れているから、なんだかんだで私の家で三人で週末過ごすことが多い。



「ママ、病気と闘ってるって」



伊達は優しい声でそう言ってから、流香のことを膝に乗せて抱きしめた。



「俺といれるから良いだろ?」


「うん!るか、ともだーいすき」



シャイな伊達が流香にデレデレな様子はかなり可愛くて貴重だ。


しばらくすると泰睦と四谷がテントを覗きにきた。



「とも兄、俺と先輩で今から昼飯買ってくる。

流香、自分で選んだものの方が食べるよね?連れて行くわ」


「ありがとう。

流香、この新しいサンダルはいて、チカと流星について行って」


「はーい!」



流香は伊達の実家で泰睦に懐いてるらしく、かなり仲良しだ。

まあ、泰睦ってこう見えて面倒見良いし気が利くもんね。



「山本、何食べる?焼きそばでいい?」


四谷は流香の右手を握りながら私に聞いてきた。



「流香たぶん食べきれないから残った分と、行き買ったパン適当に食べるから、私のことはいいよ」


「まじの母親みたいだな。……ほんと、いつもありがとう」



四谷は私と伊達が流香の面倒を見てることを申し訳ないと思ってる。


大輔さんは自分の兄のような存在で、流香のことは姪っ子みたいに思ってるらしいから、自分が面倒を見れないことが気がかりみたいだ。


でも、ギャラスタこそ不定休だし、それにしてはメンバー全員、かなり構ってると思うけど。角山くんも福本くんも大澤くんも、流香に子ども用の楽器を大量にプレゼントしてるし。



「山本、海はいる?」



伊達が絶対に、入ってほしくなさそうな言い方で聞いてきて、思わず笑いそうになった。



「ううん、私は今日は流香のために来たようなもんだし。

伊達は?入りたかったら行ってきていいよ?」



なぜか鼻で笑ってから、私のことを見ることなく、足と手をテントの入り口から外に出して、砂をいじりだす。



「……あのさ。


家の更新まだだと思うんだけど、一月くらいから流香の家の近くで同棲しない?」



ちょうど一年前くらい、伊達と野上が同居を解散するタイミングでは言えなかったその言葉を流香のためなら照れずに提案できるんだ。



そういうところ、本当に好き。



「いま私が住んでるアパート、美波たちと一緒のところだし、大輔さんの家も伊達の実家も近いよね」


「だな。……え?」



「私が住むタイミングで空きがなかったから、いま1Kの部屋だけど、そもそも住むタイミングで、1LDK以上の部屋に空きができたら教えてって、不動産屋介して大家さんに伝えてあるんだよ」



あ、やっと目が合った。


微笑んだ私を見て、大笑いする。



「策士だなー、相変わらず」


「部屋変わる引っ越しのタイミングで、退去の清掃費用は取るかもだけど、礼金は要らないって言われてる。


いつ空きが出るか分からないのだけが難点だけど、一年以内には出ると思うよ」


「可愛げないな」


砂をいじる伊達の手を握った。



「きらい?」


「いや、めっちゃ好き」



ふふっ、て二人で笑い合って、打ち寄せる波をみながら缶に入ったお酒を飲んだ。






2025.09.12



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