出発前

伊達朝長×寺島佑久

〜朝長side〜



流星から、免許証の画像がラインで送られてくる。


俺は歯を磨き終えると、リビングのソファに寝転がり流星に返信した。



「おめでとう」



同じグループラインにいる野上も流星のことをとてつもない勢いで褒めている。


多分俺は少し微笑んでしまっていたらしく、一緒に暮らしている佑久たすくが面白そうに俺の隣に座ってきた。



「なに笑ってんの?桜ちゃん?」


「いや、流星が免許取ったんだよ」



佑久はなにかに驚いたような顔をしてから、俺の両肩に手を置いた。



「え?まって?

高校の同級生が免許取って、あんなに優しく笑ってたの?」


「え?あ、まあ……。

いや、流星、教習所の受付の女の人に少ししつこくされたり、学科の授業を女と被せられたりで、すげーつらそうでさ。免許も約一年近くかかって取ったから、なんか安心して、」



「安心?!え?!

同級生の男友達が免許取れて安心?!」



佑久と暮らすようになり、約一年。


こういう、流星や野上絡みのことで驚かれるのには慣れてきた。



慣れては来たが、恥ずかしい。



「……別にいいだろ」


「ダメとは言ってないけど、見ててマジで異様なんだよ!

いや、俺も流星とは3年近く一緒に働いてたし、すげー大事な仲間だと思ってるよ?仲もいいし、助けられたことも沢山あったし。


でも、にしても、お前と野上の流星に対しての接し方ってあまりにもなんていうか、……過保護!過保護じゃねぇか?!」



正直自覚はある。


流星と知り合って7年が経ち、住んでるアパートもバラバラになり、なんなら流星はいま、かなり良いマンションにスズちゃんと同棲している。


俺と野上もそれぞれ就職して、互いに自立し、各々別の道を歩んでいる。



だけどやっぱり流星のことになると、俺は心配になってしまうのだ。

それは野上も変わらないと思う。



「……流星って、なんつーか、……放っておけないんだよな」



俺の言葉に佑久ははあ?とかいやいや、とか言いながら、冷蔵庫にあるビールを2本持ってきてくれた。

差し出された左手から受け取ったビールはキンキンに冷えている。



「言ったら悪いけど、野上と伊達より流星のが絶対稼いでるし、なんなら社会人歴長いだろ?大学行ってないんだから」


それはそうだ。

流星は去年くらいから、一気にバンドが忙しくなって、秋頃にバイトも辞めた。


住んでる家、着ている服、身につけてるアイテム、どれをとっても明らかに俺や野上とは少しずつ、収入が違っているのはわかる。



だけどそれもまた、俺や野上にとっては心配になる要素だったりする。



「……まあ、いいだろ。流星と俺たちは確かにちょっと変だけど、それで上手くやってんだよ」


「自覚はあるんだな」



流星が自分のスケジュール表の画像のあとに一言、すぐに送ってきた。



「海、今年は俺の運転で行こう」



あと何度、流星と海に行けるんだろう。



最近、そういうことは考えないようにしてる。



「運転ちょっと不安だから助手席野上にしよう。他の奴らには声かけとく」



俺は親指を動かしたあと、佑久がくれたビールを一気に飲みきった。


ついたため息に絶対気づいてるのに、気づいてないフリして2本目を持ってきてくれる佑久は優しくて良いやつだ。



「……あ、佑久も来るか?海」


「え?!行っていいの?!

桜ちゃんとか美波ちゃんの水着、見て良いの?!」


しかし日程を告げると、難しかったのか、椅子にうなだれるように落ち込んだ。




「写真と動画待ってるわ」


「おう」



「俺は別でバーベキューでも計画しようかな」



多分、佑久も分かるんだよな。

有名になっていくことに、無関心で居続けるのもそろそろ限界だってこと。



「流星が行きたいところにはできるだけ連れて行ってやりたいよな」


「いや俺は肉食いたいだけだよ。

この世の全員が流星を中心にしてると思うのやめな?結構キモいからね本当に」



流星だけじゃない。

スズちゃんも、大澤も、フクも、カクも。



いつかできなくなるかもしれないこと、一つでも多く、俺たちが叶えてあげたいんだよ。






2025.09.06

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