第24話 ヒロインだからツンデレには耐性がありますよ③
「初めまして、魔術科Sクラスの魔術学基礎を担当します。テオンです」
「助手のハーシェルと申します。よろしくお願いします」
二十人くらいが入っても余裕のある教室で、三十代くらいの男の人が教卓に立った。テオンと名乗るその先生は、ふわふわのマロンカラーの髪の毛から、綺麗な紫水晶の柔和な瞳をのぞかせている。隣に立つ助手のハーシェル先生は七十歳くらいのお婆さんで、まるで親子みたいだ。
「昨日は、まぁ君たちも大変でしたね。魔物がどこの結界を破ったのかは調査中で分からなかったので僕らも駆り出されまして、今張っている結界の内側にさらに三層張り直したので僕も疲れています。なので今日の授業は、本当なら一ヶ月後にする予定だったものを前倒しします」
はは、とテオン先生は笑いながら、黒板に向かって『浮け、記せ』と呪文を唱える。すぐにチョークは浮かび上がり、『精霊と話してみよう』と書かれた。
「今日は精霊たちを呼び出せる水晶を使って、お話をします。気に入ってもらえば加護と呼ばれる恩恵を授かることもありますから、是非仲良くしてみましょう」
「先生……恩恵ってどんなものがあるんですか……?」
生徒の一人が手を上げて質問をした。
「良い質問をありがとう。恩恵は極めて単純明快、威力のアップです。分かりやすいでしょう? でも、人間たちの魔力を気まぐれに上げてしまったら、世界の均衡は崩れてしまいます。だからこそ、精霊たちが君たちに力を貸すことは極めて稀です」
精霊は、気難しいらしい。スフィアは精霊に手助けしてもらった描写は無かったけど、その存在は要所要所に現れていた。魔災を引き起こすとされる彼女が精霊を騙し、魔災についての古文書がある洞窟にある仕掛けを解かせて、古文書を手に入れるとか。だから精霊の協力がほしいと思っていたけれど、まさかプロジェクト・ナレーションの場がその舞台になるとは。
護衛の都合上、私の右隣にいるラングレンに目を向けると「授業に集中してください」と怒られた。今度は彼と反対側、左隣りの席にいるリリーに顔を向けると、無言で太ももを刺された。
今日私は、ラングレンに復讐しつつ、精霊にお願いして魔災の古文書を手に入れ、燃やしてしまおう。
「では、本日協力してもらう精霊を呼び出しましょうか」
先生が呪文を唱えながら、大きな水晶に触れる。すると瞬く間にそれは輝きだして、部屋はまばゆい光で包まれたのだった。
◇◇◇
「土の精霊、ハダルです。この度は
「水の精霊、ミアプラキドスでーす! 千年くらい特に何もなく生きてるので暇でーす! 趣味は〜、ないです! 暇な時はずっと壁見てます! あっこの間うっかり人間に姿を見られたら、変な宗教が出来て村が一つ潰れちゃいました! よろしくお願いしまーす!」
「風の精霊、ピーコックです。趣味はガーデニングで、特技は料理です。最近手芸教室をはじめました。目標は丁寧に生きることです。皆さんと仲良くお話出来たらいいなと思っています」
「火の精霊、アンタレス。あまり話すことが得意ではない。つまらないかもしれないが、楽しくなれるよう努力する。よろしく」
教室が光りに包まれ、水晶からぽんぽんと出てきた精霊は、小さなマスコットのような姿をしていた。土の精霊ハダルは神父のようで、水の精霊ミアプラキドスは天使に見える。風の妖精ピーコックは侍女に、火の精霊アンタレスはといえば、式典時の騎士のような、格式高い正装を着て剣を携えていた。
「では、五人グループでまとまって机を囲んでください。それぞれお話しましょう」
テオン先生の言葉に、私は即座にリリーの腕を掴んだ。びっくりさせてしまったのか、「ぎゃっ」と彼女は悲鳴を発した。
「貴女何なの……? 人を怖がらせる発作でも持ってるの……?」
「すみませんリリー、一緒のグループになりたくて」
「仕方ないわね」
嬉しい。リリーと同じ班だ。喜んでいるとアンテルム王子がエヴァルトの腕を掴みこちらへとやってきた。
「やぁ聖女、我と同じグループになろう。丁度五人だろう」
「いいんですか……! エヴァルトさんのいるグループに入っても?」
「ああ。ファザーリ姉妹にラングレンで丁度五人だからな。レティクスは別の班に入るようだし」
「ちょっと失礼、目の前を通るぞ」
私の前を、すっと火の精霊アンタレスが通過した。彼は隣の班で輪に加わること無く俯く女子生徒の前に浮き、会話を始める。
「こんにちは。君の名前は?」
「ルモニエ」
「趣味は何かな」
「……機械や、部品をいじることです」
「機械と部品いじり……何かを作ることが好きなのか? それだったらピーコックのほうが話し相手としては適しているだろうか……?」
「いえ、ボクも話をするのは得意ではないので……」
女子生徒が俯くと、アンタレスは安心させるように「俺もだ」と笑った。とても人柄が良さそうだ。もしかしてエヴァルトに騙されたのは、あの精霊かもしれない。観察していると丁度私の斜め前にいた二人の生徒が、ヒソヒソ話を始めた。
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