下僕出身の俺が、王子になりすまして悪政国家の再建をしていたら近隣諸国の姫たちから縁談を迫られるほどの明君と呼ばれるようになったわけ

四葉奏多

第1話 白骨化した貴族

 始まりは、住みやすそうな廃城を見つけたことがきっかけだった。 


 王国領地のはずれで生計を立てていた野盗集団の頭の一人息子として育った俺は下僕中の下僕で、昔から山奥に引っ込んで暮らすよりも見晴らしのいい城に住んで人生を謳歌することに夢見ていた。

 そして俺、ファラク・アザゼルが6歳の時、王国騎士団に相当する規模へと勢力が成長して来た頃、王国への襲撃の可能性を恐れた国王は手を打った。当時のアザゼル一家の頭であったカイム・アザゼルが王国軍によって討たれ危険因子を排除したのだ。


 それ以来、アザゼル一家が立て続けに起こしていた村や街への襲撃は収まり、頭が喪失からの数年間は至って平和であった。


 若き頭が誕生し、アザゼル一家が再び台頭するまでは。


「————制圧完了っと」


 時は流れ、俺が18歳になりアザゼル一家の頭として認められた翌月に俺たちは住んでいたフィオネ王国領地を離れて近隣の小国、ガラル王国に拠点を移していた。大陸三大国家と称されるフィオネ王国よりも、管理が緩い。このガラルは廃屋や廃村、そして使わなくなった廃城で溢れかえっている。

 つまり、俺たちのような荒くれ者が住処を見つけることにおいては最適な環境だった。


 だからといって全ての領地に隙があるわけかではなかった。国自体が管轄していなくても貴族や伯爵家が管理している領地も存在している。俺たちが目をつけた廃城は見晴らしがよく住みごこちのよさそうな、まさしく貴族連中でも住んでいそうな城で、護衛兵から強奪するまでに少し時間がかかった。


「やっぱ一仕事終えた後の景色は最高っすね若!お望み通りの絶景っすか!?」


 言い方は変だが、新米野盗のアランが鮮血を浴びた槍を担ぎながら景色を眺望している俺に話しかけて来た。


「期待以上だアラン。やっぱ住むならこういう家に限るよな」

「へへ、家ってより城っすけどね。整備は大変っすけど上手くやれば、一家の全員が城に入れられるんじゃないすか?」

「いつも頑張ってくれてるお前たちの家でもあるんだ。最上階だけは譲れねぇが適当に住んでくれよ」


 ここにいるアランだけに言ったつもりが、後ろにも何人か野郎が居たらしく、雄叫びのような歓声がどっと沸き起こった。


「ったくうるせーな。それよりアラン。捕らえたっていう奴らはどうした?もう随分前に潰したのは聞いたけど今はどこにいんの?」

「えっ!いや、知らないっす」

「知らないわけないよな。お前も出てたわけだし」

「まじ知らないです!ほんとガチまじほんとでふ!」


 知らない言葉出てくるわ噛むわ動揺しまくりじゃんかよ‥‥‥ん?待てよ、コイツらもしかして。

 

 見れば先ほどまで馬鹿騒ぎしていた奴らは、アラン一人を残して姿を消していた。恐らくアランが必死になって隠している何かを追求されることを恐れて逃げたんだろう。


「外に出るか」

「い、いや外はちょっと」

「別に何がどうなってても怒らないから安心してここで待ってろよ」

「待ってくださ——————あーくそっ!やっぱ俺も行きますって!!」


 階段を降り最上階から地上に近づくと血の匂いが辺りに充満し、道中には死体や、紋章の刻まれた甲冑を身につけた敵兵、争いの残骸が生々しく散乱していた。そして玄関に辿り着き扉を開けるとそこにいたのは、先ほど見かけた敵兵の死体が来ていたものとは違い、大層な格好をした白骨化した屍の姿だった。


「あ、若」


 その場にいた一人の仲間、カインが俺を見るなり頭を下げる。


「こいつは?」

「見てわかる通り焼死体ですね。俺たちもさっき見つけて」

「ん?お前たちがやったんじゃないのか?」

「い、いえまさか!こんなことできる奴なんてウチの中じゃアイツだけですよ!」


 カインからアイツという単語が出た時、背後にいたアランの肩が大きく跳ね上がった。


「どうしたアラン。何か心当たりでもあるのかよ」

「え!?いや、下手に何もないっす」

「‥‥‥あっそ」


 既に頭の中に答えは出ているが、それでも念のためアランにも問いかけてみた。どうやら無駄骨で終わったらしいが。


「あらファラク。私の武功を誉めにわざわざ降りて来たわけ?」


 長い赤毛を背中に垂らし、水着のような布面積の少ない派手な格好をして登場したのはエルザ・ガーネット。小さい頃から俺と同じく賊にいる所謂幼馴染のような関係だ。


「こいつはお前がやったのか?」


 白骨死体を指差して問いただすと、何を思ったのかエルザは鞘から洋剣を引き抜きながら転がる白骨の死体を見て吹き出した。

 

「雑魚ね。身なりからして貴族だと思うけどそれにしても弱すぎた」

「親父から何も学んでないみたいだなエルザ。貴族や王族連中は殺すより捕らえた方が後々有利に働くって」

「知らないし。偉そうにふんぞり返ってる貴族は全員殺す。邪魔するならアンタでも容赦しないから」


 人間の血液がべったりついた剣を俺の眼前に向けて払い上げると、エルザは邪悪な笑みを浮かべながら城門を潜り城内の奥へ姿を消した。


「権力者の殺しは禁止。大頭が亡くなった時に決めたんでしたね」

「‥‥‥テリか」

「死体はまだ片付いてませんが城の中に軍議を開そうな場所を見つけました。幹部全員に招集をかけましたのでお頭も来てください」

「わかった。今から行く」


 目的も、叶えたい夢もない。気の合う奴らとただやりたいことをやって生きる俺の人生に不満はなかった。

 

 けれどこの時の俺は知らない。

 エルザが殺した貴族。この者の死が俺たちの運命を掻き回すほどに重要な存在であったことを知るのはすぐのことだった。




あとがき


拝読くださりありがとうございました!

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