第6話 ついに、炎上の火が…
復讐描写はまだ続いていた。
『次は肋骨だ。ミサがお前なんかに近寄られていた悲しみを味合うんだな!』
『パキッという音が響く。一本、また一本』
『「痛い!痛い!もうやめて!」』
『「やめて?お前は俺とミサが視線を合わせただけで嫉妬して、健司にチクってただろ?」』
美咲が顔を覆った。
「これ以上見てられない...」
立ち上がってトイレに駆け込んでいく美咲。
俺も画面から目を逸らした。
せっかくの再会だったのに。6年ぶりのデートになるはずだったのに。こんな最悪な形になってしまうなんて。
美咲が戻ってきた。顔色が悪い。
「ごめん...今日はもう帰るね」
「うん...また連絡する」
夕方の西武池袋線改札。西陽の差し込む明るい駅のホームにはこれからの飲み会を楽しみにするたくさんの同年代の若者たちの笑顔が溢れかえっている。
しかし、彼らとは反対の重い気持ちを抱えて、俺たちは別れることになってしまった。
家に帰ってソファに倒れ込む。テレビをつけると、ちょうど「ミニマルコちゃん」。
続いて「シジミさん」が始まる。日曜の夜のこのコンボ、普段なら明日からの仕事を思って憂鬱になるところだが、今日は違う不安が胸を占めていた。
スマホが震える。美咲からだ。
『大変!雅也くんの小説のコメント欄見て!』
『もう翔太くんの特定が始まってる!』
血の気が引いた。
慌てて小説サイトを開く。コメント欄を見ると——
『ショウってアニメ会社勤務らしいぞ』
『小説の中に「アニメスタジオに入りたい」って書いてあった』
『制作進行なら名前出るよな』
アニメはその性質上、エンドロールで名前が流れる。特に役職の低い人間は、ほとんど本名を出している。俺も当然そうだ。
『フェイトブックも見つけた。藤原翔太で検索したら出てきた』
『スタジオ・ブルームーンの制作進行らしいぞ』
しまった!
慌ててフェイトブックにログインして、アカウントを削除する。でも遅かった。
既にスクリーンショットが拡散されていた。
まとめサイトには俺のフェイトブックにあげていた顔写真付きで記事が上がっている。
【特定】ストーカー「ショウ」のモデルは藤原翔太【スタジオ・ブルームーン】
『こいつがミサのストーカーで、いじめの共謀者か』
『キモすぎ』
『アニオタってやっぱりヤバいな』
全く眠れないまま朝を迎えた。
月曜日。
怯えながら会社に向かう。電車の中でも、誰かに見られている気がして落ち着かない。
スタジオに着くと、異常な光景が広がっていた。
電話が鳴りっぱなしだ。
「はい、スタジオ・ブルームーンです...いえ、その件についてはコメントできません」
「申し訳ございません、個人的な問題については...」
別の制作進行の同僚が必死に対応している。
「藤原!」
プロデューサーに呼ばれた。
「ちょっと来い」
会議室に連れて行かれる。
「説明してもらおうか。なんだこの騒ぎは」
事情を説明した。高校時代のクラスメイトが書いた小説。そこに登場するキャラクターが俺をモデルにしていること。でも内容は完全にフィクションだということ。
プロデューサーは頭を抱えた。
「お前のいうことを信じたいが…しばらく休職という形を取ろう。騒ぎが収まるまでは仕方ない」
「でも、仕事が...」
「これ以上電話が鳴り続けたら、他のスタッフの仕事にも影響が出る」
今までなら数少ない休みに狂喜乱舞していた。でも今日の休みは違う。
家に引きこもるしかない。
外に出れば、誰かに見られているような気がする。コンビニに行くのも怖い。カーテンを閉め切って、部屋でじっとしている。
そんな時、美咲からLINEが来た。
『大丈夫?心配してる』
今の俺にとって、何よりも嬉しい知らせだった。
『なんとか...美咲は?』
『私も色々言われてるけど、まだ会社は大丈夫』
『また会える?』
『もちろん!2日後、前の喫茶店でどう?』
希望の光が見えた気がした。
2日後。
約束の日がやってきた。
マスクとサングラスで顔を隠して家を出る。こんな格好、かえって怪しいかもしれないが、素顔を晒す勇気はなかった。
池袋駅に着いた。人混みの中を歩く。誰も俺のことなんて見ていないはずなのに、視線を感じる。
喫茶店が見えてきた。美咲の姿も見える。
声をかけようとした、その瞬間——
「藤原翔太さんですね?」
振り返ると、警察官が二人立っていた。
「ストーカー容疑で事情を聞きたいのですが」
頭が真っ白になった。
つづく
《次回予告》
「連鎖する悪意」
************
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
もし少しでも「面白いな」「続きが気になるな」と思っていただけたら、
★評価や応援、ブックマークやコメントをいただけると、とても励みになります。
また、ご感想・ご意見・お気に入りのシーンなど、
どんな一言でも嬉しいです。ぜひコメント欄も活用してください。
これからも、連載続けていきますので、どうぞ応援よろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます