第4話 再会とネット炎上

日曜日、池袋駅東口。


約束の時間より15分も早く着いてしまった。緊張で手汗が止まらない。


スマホのカメラで髪型をチェック。寝癖は大丈夫か。服装は?久しぶりに買った新しいシャツ、似合ってるだろうか。


「翔太くん!」


振り返ると、そこに美咲がいた。


息を呑んだ。


美咲が、綺麗になっていた。


高校時代の面影はある。でも目の前にいるのは、洗練された大人の女性だった。ベージュのワンピース、耳元で揺れる小さなピアス、ナチュラルなメイク。全てが自然で、でも確実に垢抜けていた。


「久しぶり!」


その笑顔だけは、昔のままだった。


「う、うん。久しぶり」


声が震えないように気をつける。


近くのカフェに移動して、向かい合って座った。


「6年ぶりだね」


「そうだね、時間経つの早いよね」


最初はぎこちない会話。お互い何から話していいかわからない。


「美咲は今、何してるの?」


「大手化粧品会社の広報部で働いてるよ。去年転職で東京に来たの」


「へぇ、すごいじゃん」


「地元では狭く感じちゃって」


苦笑いする美咲。その表情も大人っぽい。


「翔太くんはアニメの仕事してるんだよね?SNSで見たよ」


「うん、制作進行。まぁ、めちゃくちゃ大変だけどね」


徹夜続きの日々、理不尽なスケジュール、怒鳴られる毎日。愚痴っぽくならないように気をつけながら話す。


「でも好きなことを仕事にできてすごいよ。私なんて...」


美咲が少し俯く。


「実は東京来てから友達いなくて。会社の人とは表面的な付き合いだし」


「そうなんだ」


「SNSで翔太くんを見つけた時、連絡しようかすごく迷った。でも...」


美咲の表情が曇る。


「あの小説見つけちゃって。怖くなって、いてもたってもいられなくて連絡しちゃった」


話題が小説に移る。カフェの明るい雰囲気とは対照的に、空気が重くなった。


「健司くん、大変なことになってるみたい」


美咲がスマホを取り出す。まとめサイトが表示される。


【炎上】高校時代のいじめ加害者が特定される【制裁】


記事を読む。胸が苦しくなった。


発端は例の小説。あまりにリアルな描写に、読者が「これ実話じゃないか?」と騒ぎ始めた。そして誰かが舞台となった高校を特定。卒業アルバムと照合して、登場人物のモデルを割り出した。


健司の実名、勤務先の建設会社、顔写真。全てが晒されていた。


「会社クビになったって。ネットでの誹謗中傷もすごくて...」


美咲がスクロールする。TVtubeに投稿された動画のタイトルが並ぶ。


『いじめ加害者の末路』

『因果応報!クズの現在を追跡してみた』

『元いじめっ子に突撃してみた結果www』


再生数は軒並み数十万を超えている。


「正直、因果応報だとは思う」


美咲が呟く。


「健司くんがやったこと、許されることじゃない。でも...」


「でも、これって行き過ぎじゃない?」


俺も同じことを感じていた。健司は確かにクズだった。雅也を地獄のような日々に突き落とした。


でも、だからってネットリンチは...


「作者って、雅也くんだよね?」


美咲が真っ直ぐ俺を見る。


「多分...いや、間違いない」


二人とも確信していた。あのリアルさは、体験者にしか書けない。


せっかくの再会なのに。6年ぶりに会えた美咲と、もっと楽しい話をしたかったのに。昔話に花を咲かせて、これからのことも...


でも現実は、俺たちを逃がしてくれない。


その時だった。


美咲のスマホに通知。


「あ、小説が更新されてる」


嫌な予感がした。


「新章...『罪深き傍観者たち』?」



 つづく



《次回予告》


「新たなる復讐の対象」


 ************


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