水玉の奇妙な生物との遭遇でござる!

 ふぅー。

 危なかった。

 拙者としたことがもう少しで、拙者が倒した獲物を確保して持ってきてくれたこの可愛い奇妙な水玉の生物を殺してしまうところであった。

 しかし、拙者の遁術も忍術が最も栄えたとされる戦国時代で、ここまで強化されるとは思わなんだ。

 火遁の術の本来の姿については、前回語ったが水遁の術の本来の姿についても語らねばなるまいな。

 水遁の術とは、忍者が水の中へと逃げる遁術のことである。

 えっ?

 先程、拙者の見せた術のように、水を飛ばしたりできるのでは無いかとな。

 夢を壊すようで悪いがそれはアニメや漫画の世界だけの話である。

 要はフィクションの中だけの話である。

 本来の忍者の用いる遁術の姿とは、そうかっこいいものではござらんよ。

 だが、拙者にはできてしまうのだがな。

 ワッハッハッハッ。

 おぉっと、いけないいけない、あまりの凄さに永遠と水を出しすぎてしまった。


「あら〜、これだけたくさんの水を出せるなんて、ゴブリンを侮っていましたわ。それにたくさんの水を吸い込んだからかしら元の姿に戻れたわ。ありがとねゴブリンの坊や」


 な!?

 水玉の奇妙な生物が妖艶なお姉さんに!?

 しかも、ファンタジー世界で見たことのある魔女のような帽子と女の部分を強調するような紫の服を。

 ゴクリ。

 上から80・56・80といったところか。

 女性の理想的なスリーサイズと言われる1:0.7:1の比率では無いか!

 あくまで目算だが。


「そんなに舐め回すように見つめられると困っちゃうわ」


「も、申し訳ないでござる」


「良いのよ。女と見れば直ぐに苗床にするゴブリンだもの仕方ないわ」


「その、つかぬ事をお聞きするがそのゴブリンというのは、ファンタジー世界にだけ存在する奇妙な生き物のことでござろう?拙者の今いる戦国時代にもゴブリンという言葉が流行っているのでござるか?」


「あら、ゴブリンの坊やは、おかしなことを言うのね。ワタクシにとっては、ファンタジー世界や戦国時代という言葉の方が聞き覚えがなくってよ」


 ん?

 ここは、拙者が住んでいた日本の過去の世界、戦国時代の日本では無いのか!?

 ももも、もしや拙者の完璧な異世界転生の術が。

 ししし、失敗したなんてことは、ななな、ない。

 あああ、あるはずがない。


「あら〜取り乱しちゃって、ますます可愛い。ところでゴブリンの坊や。他に行くところがないのならワタクシの小間使いにならないかしら?」


 う、嘘だ。

 拙者の完璧な術が失敗するなど。


「ねぇ。聞いてるの?」


「何も聞こえないでござるよ。拙者は、直ぐに向こうの世界に帰るでござる。忍法、異世界転生の術でござる!」


 しかし、風魔光太郎の異世界転生の術は、うんともすんとも言わなかった。


「こここ、こんなこと何かの間違いでござる。異世界転生の術でござる!異世界転生の術でござる!」


 このおかしな光景をクスリと笑いながら見ている女性。


「ななな、何故拙者のことを笑うでござる!」


「意地悪してごめんなさいね。魔女のように振る舞うのがあまりにも楽しかったものだから。そんなに何回もやっても戻れないわよゴブリンの坊や。いえ、風魔光太郎さんとお呼びした方が宜しかったかしら?」


「な!?何故、拙者の名前を知ってるでござるか!」


「クスッ。あら、ごめんなさいね。ワタクシ、この世界で水の精霊をしておりますウンディーネと申しますの。でも、アナタをこちらの世界に連れてきて本当に良かったわ。だって、水玉ぐらいの力しかなかったワタクシの力を一瞬で取り戻してくださったもの」


「ま、全く話が見えないでござるが」


「ウフッ。そうね。こう言えば良いかしら?貴方の異世界転生の術に少し細工をしたのよ。この世界に来るようにね」


「ななな、なんて事してくれてるでござるか!」


「でも、貴方あのままだったら術の完成を前に心臓発作でお亡くなりになっていましたし。そもそもの話、他の世界に簡単に移動できる術が50年そこらの歳月で生み出せるのならこの世の至る所に異世界転生者がいることになりますわよ」


「それはそうでござるが。しかし、やり方が汚いでござる!拙者は、御先祖様の無念と主家の没落を阻止するために必死にこの術を読み解こうとしたのでござるよ。こんなのあんまりでござる!」


「でもね。今この世界を救えるのは、ゴブリンの坊やである風魔光太郎さんだけなのよ。それでもダメかしら?」


 ぐっ。

 この水の精霊と名乗る妖艶な女性は、女経験のない拙者の心を見透かしているとでもいうのか。

 唇に手を当てて、首を傾げるポーズをするなど。

 それに拙者は、元来頼まれれば断り辛い性格なのだ。


「せせせ、拙者は、何をすれば良いのでござる?」


「ウフッ。チョロくて助かっちゃったわ」


 言ってることがあんまりだと気付いて、舌をぺろっと出してテヘペロしないでほしい。

 何度も言うが拙者は死ぬまで女性経験が無かったのである。


「もう。わかってるわよ。ワタクシを助けてくれた御礼は、してあげるわ。身体、以外でね。この世界を知らない坊やのサポート役をね」


 そこは身体でじゃないのか。

 いや、べべべ、別に拙者は、ららら、落胆しているわけでは無い。

 だだだ、断じて無い。

 それに、ここが拙者の知る日本では無いのなら案内役が必要なのも確かである。

 それを水の精霊がしてくれると言うのなら願ったり叶ったりなことも。

 ゴクリ。

 いかんいかん。

 知らず知らずのうちに目が胸や尻に行ってしまう。

 平常心、平常心。

 ふぅー。

 この下半身の昂りとこれからずっと付き合っていかないといけないこと以外、別に何も問題は無いのである。


「宜しく頼むでござる」


「契約成立ね。ようこそ、アストラル大陸へようこそ風魔光太郎さん」


 ようやく、この世界が戦国時代では無いと認識した風魔光太郎であった。

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