秋の香りと試験勉強

魔不可

秋の香りと試験勉強

最悪だ。


今日は、土曜日。

それなのに、模試を受けるために学校に行った。

全然わからない問題を解き、やっと解放されたが、見事に電車に乗り遅れてしまったのだ。


田舎だから、次の電車まで1時間半ある。

まあ、模試の結果も、電車もきっとなんとかなるさ。

世界なんてそーゆーもんだ。



駅の外のベンチに座り、時間まで待つことにした。


いつもだったら、スマホをいじって時間を潰すが、充電し忘れたせいで、もう充電が10%を切っている。

だから、ポケットにスマホをしまって、ぼーっと過ごす。



夏が終わり、秋になった。

溶けるような気温と、ジメジメした蒸し暑さはなくなり、涼しい風が頬を撫でる。

風に乗って、カツラの木の甘い香りが流れてくる。

この香りは、小さい頃から好きだった。


大きく鼻から息を吸って、口で吐いて、と深呼吸を繰り返し、新鮮な空気を楽しむ。

そうするだけで、頭を空っぽにして、呼吸だけに集中できる。

気持ちいい秋の風は、カサカサと黄色く彩り始めた葉を包み込みながら、私の所へ流れてくる。



駅に入っていくカップルを見つけた。

いや、カップルなんてたくさんいるが、彼女さんは中学の時の私の親友だった。

最近連絡できていなかったが、彼氏ができたんだ!

話しかけたかったが、邪魔をしないように、空気になりきる。

親友は私に気づかないまま、駅に入っていった。

声、かけたほうが良かったのかな?



高い空を見上げて、しばらくぼーっとしていたが、その時間が無駄に思えてきて、次のテストに向けて勉強しようと思い、英語の教科書とノートを出して、問題を解き始める。

いつも家で机に向かうだけの勉強は嫌だったけど、こうして外で勉強するのは悪くないと思った。




しばらくして、ベンチの横に誰かが座った。

同じクラスの、首席だ。名前は…なんだっけ?

とにかく、頭のいい人という認識だけで、話したことはない。

一瞬目があったか、すぐにそらして勉強を続ける。



『私はトムに連絡しなければいけない。』

→(  I need to contact Tom.  )



すると、首席が私の書いた英語を覗き込んで、言った。


「なんか、スリランカ語の字みたい。英語の字」


話しかけられたことに困惑しながらも、彼の言った言葉に首を傾げる。

スリランカ語と言われても、ピンとこない。


「?」

「褒めてる褒めてる」


首席は胡散臭い笑顔で頷く。

まぁ、褒められているならいっか。


「なんで、スリランカ語わかるの?」

「ん〜っとね、中学の時に世界の言語めっちゃ調べてて、それで覚えた」


首席の脳内を理解するのは無理だから、考えるのはやめた。

びゅうっと強い風が吹き、まだ緑色の葉っぱが降ってくる。

秋の香ばしい匂いと、冷たくひんやりとした風が、足元を走って行く。

風を感じながら、また問題を解く。



『Mike should be in the gym right now.』

→(   マイクは体育館にいるはずだ。   )



「え、俺この字めっちゃ好き!『体育館』の『館』!」


これは、純粋に褒められた。

素直に嬉しい。


「ありがと」

「いいなぁ、俺こーゆー字になりたい」


まだ早い時間なのに、もうだいぶ暗くなり、コロコロコロとコオロギが鳴き出す。

それを合図に、たくさんの美しい虫の音色がBGMとなった。


「でもさ、『now』って入ってるから、日本語訳も『今』って入るんじゃない?」

「あ、そっか」


褒められた字を、いつもよりも丁寧に、ゆっくり書いて付け加える。


「ん、正解!」

「ありがとう」

「じゃ、俺はバス来るから行くわ」

「ん」


首席はカツラの木の香りとともに去っていく。

まだ、友だち、という感じではないけど、喋れる知り合い程度になったのかな?

ブーンとバスのエンジン音が聞こえる。

リンリンリン、コロコロコロ、ジージーという、秋の美しさや寂しさを歌うように虫は合唱している。


あと、15分、どう過ごそうか。

この音を楽しみながら、もう少しだけ、勉強してよう。





15分後、無事電車に乗り、家につく。

スマホを充電して、夜ご飯を食べて、お風呂に入って、勉強して。

100%になったスマホをいじる。


そういえばと思い、[スリランカ語]と検索する。











「ぜんぜん違うじゃん!!!」








まあ、世界なんてそーゆーもんだ。






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