ずぼらな聖女とお節介な騎士
鳥柄ささみ
第1話 二人の秘密
「痛いの痛いのとんでいけ〜! ほら、もう痛くないでしょう?」
「わぁ! 本当だ! もう全然痛くない! ありがとう、聖女様!」
「どういたしまして。元気なことはいいことだけど、あまり無茶しちゃダメよ?」
「うん、わかった!」
つい先程転んで怪我したばかりだというのに、そのまま勢いよく走り出す少年。
それを微笑みながら見送る聖女を周りの人々はうっとりと見つめた。
「聖女様、今日もとっても素敵……」
「なんてお優しいのかしら。素晴らしい聖女の力があって、麗しくて、さらにお優しいだなんて完璧よね」
「この街の守護女神様といっても過言ではないわ」
「いつ見ても美しいな、我が街の聖女様は」
「わしの孫の嫁に来てもらえんかのう……」
老若男女問わず、みんなが聖女に熱い視線を注ぐ。
その姿は、誰が見ても美しいと絶賛するほどの美貌だった。
金色の長い猫っ毛はふわふわで、肌は陶磁器のような白さ。瞳はアメジストのような紫水色で、まつ毛は長く上向いていて綺麗なぱっちり二重。鼻筋はスッと通り、唇はふっくらとして形がよく、発色のいい桃色をしている。
身長はすらっと高く、体型はほっそりとはしているがほどよい肉づき。
一目見たら誰もが天使だ女神だと魅了されてしまう美貌。聴くだけで癒されるような美しい声。聖女の中でもずば抜けた才能。
そんな素晴らしい要素を持ち合わせているのがこの街唯一の聖女とくれば、ここプリミエの街の人々はこぞって彼女を崇めた。
「セシリア、行くぞ」
「あら、クロード。もうそんな時間?」
少年を見送る聖女セシリアに声をかけるのは、騎士クロード。彼とセシリアは幼少期からの幼馴染みで、現在はセシリアを護衛するために仕えている護衛騎士だ。
「クロード様も素敵よねぇ」
「えぇ、本当。いつ見てもカッコいいわ」
「先日は聖女様を魔物から身を挺して守ったとか」
「まぁ! 強くてカッコいいだなんて素敵だわ」
クロードにも集まる民衆からの熱い視線。
クロードもまた、誰が見てもうっとりするような端正な顔つきをしていた。
少し癖のあるプラチナブロンドの短い髪に、キリッとしたアイスブルーの瞳。肌は程よく日に焼けているもきめ細かく、鼻筋は通っていて、薄い唇がなんとも色気がある。
身体つきはがっしりとはしていないものの、無駄のないほどよい筋肉がついていて、しなやかな体躯で、身長はセシリアの頭一つ分高い。
クロードもセシリアに劣らず老若男女、誰が見ても惚れ惚れする男前で、民衆からの人気はとてつもなく高かった。
そんな二人のやりとりは、例え大したことでなかったとしても誰も彼もが注目していた。
「あぁ。礼拝堂での公聴会のあと、領主様とのランチがある」
「あ、そうだったわね。なら、急がないと」
急ごうと早足で歩こうとするセシリアをクロードが腕を引いて引き留める。
そして、「走ったら危ないぞ」と咎めると、セシリアの手を自分の腕に回すように促し、二人は寄り添いながら礼拝堂に向かっていく。
そんな仲睦まじい麗しい二人を見つめながら、惚けたようにうっとりとする民衆達。
「本当、お二人はとってもお似合いよね〜」
「素敵なカップルよね」
「でも、二人は付き合ってないのですって」
「え。そうなの?」
「でも、そうだとしても絵になる二人だわ」
「眼福よね〜」
美しく、気高く、品があって、優しい。
理想を体現した姿の二人に、街の人々は誰もが憧れの眼差しを向けていた。
……そんな憧れの二人に、秘密があるとも知らずに。
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