偽物令嬢〜幸せを手にした元悪役令嬢は平和で平穏な愛しい日々を暮らしています〜
あいみ
真の悪役令嬢はどちらか〜貴方は私の未来の旦那様♡〜
初めまして【レイアークス】
兄上から息子のアルフレッドに王位が継承されて半年。
隠居生活を楽しむはずが、王命により宰相補佐として仕事に明け暮れる。
兄上は義姉上の実家の領地でのびりと人生を謳歌しているとか。
連れて言って欲しいとは言うつもりはない。
せめて。近くにいて息子をどうにかして欲しいだけ。
私の手など借りずとも、スウェロなら一人でこなせるだろうに。
ルイセとナンシーをそのまま側近として雇っているのだから、本当に私の必要性はない。
私が補佐に付けられたのは兄のワガママを、弟が聞き入れたから。
騎士団長のレクシオルゼだけがまともなのが救い。
…………いや、そうでもないな。
休みの日に鍛錬に付き合わせることを思い出す。
私としても完全に引退したわけでもなく、たまになら相手をするのはいい。
レクシオルゼが一番のワガママかもしれないな。
「で、何の話、してたっけ?」
一通りの書類が終わり椅子に座ったまま体を伸ばすスウェロが聞いた。
今日も執務室で書類を手伝っているとアルフ……陛下が訪ねて来た。面倒事を持って。
陛下は冷や汗を流しながら頬を掻く。
「えーーっと……。嫌な気持ちはわかりますが、相手が叔父上を指名してきまして」
「だからなぜ、私なのかと聞いているのです」
「……叔父上!お願いですから敬語はやめて下さい!!」
「陛下に無礼を働けと?」
「なら命令です!」
「はぁ……」
ワガママで職権乱用してくる甥はスウェロだけではなかった。
三兄弟でレクシオルゼのワガママだけが可愛く思える。
「交友関係のある国から公女が一人、リーネットに観光に来るため、私に案内しろと?」
「案内というか。滞在は四日。王宮に泊まらせることになっていますので、相手をお願い出来たらと」
「同性に頼め」
「だって、向こうが……」
私から目を逸らして、声は段々と小さくなっていく。
あの国との交友は深く、公女が来るとなると失礼がないようにしなくては。
とは言っても。本当になぜ私なんだ?
会ったことすらないのだぞ。
「単に噂のモテるレイアークス様に会ってみたいだけなんじゃない?」
暇潰しで執務室に来ていたシオンが横から口を挟む。
「私は会いたくもない」
「レイは一目惚れ率が高いもんね」
まるで他人事のようなシオンを睨むと、膝に乗っていたノアールを盾にした。
周りには内緒にしたまま付き合う……。いや、違うな。
付き合うつもりはなかった。
ただ好きでいて、傍にいるだけで良かったのに。
ノアールの言葉が突然、シオン以外にも聞こえるようになり、私達の想いは光の速さで拡散された。
人から人へ。次々と祝福の嵐。
煩わしさから記憶を消す魔道具を作ったものの、兄上に壊された。
結婚を催促されているわけではないが、そういう生温かい視線が時々、飛んでくるのが嫌だ。
「シオンはいいの?叔父上が好かれても」
「嫌ではあるけど」
「けど?」
「レイは好きにならないからなぁ」
「ふふ。それって自分が愛されてるから大丈夫っていう自信?」
「違う!事実を述べただけ!!」
「そんな全力で否定しなくても。ちゃんとわかってるよ」
スウェロに
助け舟を出さなくてもいいと判断して、私はアルフレッドに返事をする。
公女の相手を断る権利が私にないことだけはわかり、出来るだけ情報を集めるように指示を出す。
目的が観光だとしたら、滞在期間が四日というのは長すぎる。
何かしら、真の目的があるかもしれない。
可能な限り、情報は仕入れておかなかれば。
ꕤ︎︎
迎えた当日。
私とシオン以外で初めて見る暗色の色。
青と黒を混ぜたかのような紺色。
丁寧に手入れがされていて、その髪は綺麗ではある。
公女にしては少し地味なドレスに身を纏い、ギリギリ及第点があげられる所作で挨拶をした。
「初めまして。私はレイアークス・リーネット」
「お初にお目にかかります。私はカナイア・ドルッフィと申します」
先日、誕生日を迎えたレディーは十六歳。
無難にチョコレートをプレゼントすると、ひどく喜ばれた。
「本当に貰ってもいいんですか?」
「急だったもので、このような物しか用意出来ませんでしたが」
「も、もしかして。レイアークス様がご用意してくれたんですか!?」
「ええ、まぁ」
作ったのは専門職の人だが。私は注文しただけ。
女性なら可愛いハート型が喜ぶだろうとシオンの意見を採用した。
──ハート型が可愛いというのが、よくわからない。
形に意味などなく、チョコレートを考案したシオンに従ってく。
レディーの反応から好感触であるのは確か。
──ノアールの型は人気すぎて売り切れていたからな。
「私の部屋に?」
「はい!見てみたいなって」
事前に調査した情報では、お淑やかで内気。あまり人と目を合わせて話せないとなっていたが。
このレディーは全くもって真逆。
──調査対象を間違えでもしたのか?
レディーには姉妹はおらず、その可能性は低い。
「すまないが、部外者を自室に入れたくはないんだ」
「そう、ですか」
肩を落として落ち込んだ。
私の部屋なんて大して面白味はない。
観光に来たのなら外に行けばいいものを。
本音は飲み込んだ。
あくまでも他国の公女として接しなかれば。
素を見せるのはシオンだけで充分。
初対面の女性は慣れないな。今からでも遅くはない。
誰かに代わってもらうか。
「あ、あの!レイアークス様」
「何でしょうか、レディー」
「“レイアークス様の髪色はとても綺麗ですね。私の色なんかとは違って”」
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