第13話

「エリック、おはよう。朝だよ」

「んー」

「起きて起きて」

「んんー」

 今日も揺らされて、力が弱いから余計に眠くなる。

「はぁー、おはよう」

「おはよう。机に朝ごはん置いたよ」

 ついに僕は全身が黒く染まったので働けなくなってしまい、貯金を崩して生活している。

 家の物もほとんど黒く染まり、ロナの記憶頼りで物を取ってもらっている。

「ありがとう」

 僕はいつまで持つんだろうか。お金じゃなくて心のほう。

 ロナの家族は消されたのではなく、狂って命を断ってしまったのではないだろうかとさえ思う。

「いただきます」

 二人で食卓を囲む。ロナとパンだけが色をつけて存在している。今、ロナには僕はどう見えているのだろうか。

「ロナ」

「む! ごほっごほっ」

「えっ、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫!」

「聞きたいことがあるんだけど」

「な、なに?」

「今、僕のことどう見えてる?」

「えっ!」

 食べかけのパンで顔を隠し、返事に悩んでいる。やっぱり白目さえも黒く染まった人間なんか怖いのだろうか。

「エリックはずっとエリックに見えてるよ。ずっとずっと大切な人」

 なんだ、怖がられているわけではないのか。

 目を食べかけの部分から覗かせて、こちらをまっすぐ見つめる。

「ふうん。良かった」

「エリックは私のことどう見えてるの?」

「ロナはずっとロナに見えてるよ」

「どういうこと?」

「感情が分かりやすくて愉快な子」

「『子』かぁ……」

 子供扱いが嫌なのか。もう十分、僕と同じぐらい家事もできるようになったし大人扱いしたほうが喜ばれるのかな。

「でもさ、結構身長も伸びて、初めて会ったときより大人に近づいたよね」

「本当!?」

「本当だよ」

 ガッツポーズをしたあと、がつがつとパンを食べだした。そんなに急いで食べても成長は早くならないぞ。


 正直、ほぼ治すことは諦めてる。ほぼといっても、途中から黒くなるスピードはゆっくりになったことが気がかりなんだ。

 一気にスピードが上がったあと、その後ロナの感情の出す大きさは変わっていないのにゆっくりになった。

 ロナが感情を出せば出すほど能力が弱まっている可能性もあるが、能力が弱まっても印字されたこの体は何も変わらない。

 おそらく、一生このままなんだ。僕はこれでおしまい。残ったお金でロナを養うのが一番良い終わり方になるかな。

「ごちそうさまでした!」

 ロナは僕の食器を奪い、自分のお皿に積んだあと洗ってくれた。

 僕はもう命が終わるのを待つだけ。

「お皿持ってくのに。でも、ありがとう。ごめん少し横になって休むよ」

 そういうと、ロナは返事をせず眉を八の字にした。

 おやすみ。

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